北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?
朝鮮新報が「中国と共同戦線を構築して米朝対談に臨む」という論評を発表。アメリカに局勢の変化を知らしめるためとのこと。中共中央対外聯絡部の宋濤部長の動きと習近平思想との関連において、中朝関係を読み解く。
◆北朝鮮:「中国と共同戦線を構築して米朝対談に臨む」
関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から、4月11日付の朝鮮新報が「主導権は対話局面を準備した朝鮮にある」という見出しで論評を掲載したという知らせがあった(朝鮮とは北朝鮮のこと)。朝鮮新報とは朝鮮総連の機関紙で、本社は日本にあるが平壌に支局を持つ、在日朝鮮人を中心とした北朝鮮系列の新聞である。
李教授が翻訳して下さった骨子を、ご本人の承諾を得たので以下に示す。新聞では北朝鮮が中心になるため、たとえば「米朝対話」などは「朝米対話」のように、「朝(北朝鮮)」が先に来る。新聞内容に関しては、そのまま表現する。
1.朝米間の対話と交渉に先立ち、反帝、反侵略の共同戦線により、血で結ばれた朝鮮と中国の親善関係が再確認された。
2.これは朝米対話の決裂に備えたものではなく、交渉の劇的な妥結を念頭に置いた外交攻勢の一環である。
3.朝鮮は新たな時代の要求に合わせて、中国と共同戦線を構築することによって、米国に対して、ともかく局勢が変わったことをはっきりと認識させ、朝鮮に対する軍事的脅威と制裁策動にしがみつくという器の小さな政策を捨てざるを得ないように追いつめている。
4.朝米核対決戦を平和的な方法で終結させ、自主統一の突破口を切り開くことについて、最高領導者の決心と意志は確固としている。
5.(南北首脳会談の開催後には)取り巻く情勢が今よりももっと激動的に流れるだろう。
おおむね以上だ。
「1」は、3月26日から28日にかけて行なわれた中朝首脳会談を指していると解釈できる。また「血で結ばれた」とは1950年から53年まで戦われた朝鮮戦争において、中国が中国人民志願軍を派遣して北朝鮮のために血を流して戦ったことを指している。
「4」の「自主統一」は、4月3日付のコラム<一国二制度「連邦制統一国家」朝鮮?――半島問題は朝鮮民族が解決する>で書いたように、南北が「連邦制統一国家」を建国するということを指していると思われる。
「5」は、南北首脳会談(4月27日)の後に、まさに「朝鮮民族が自主的に建国する統一国家」の実現があるだろうという「激変(激動的流れ)」を指しているものと解釈できる。
これらから何が読み取れるのか――。
◆中共中央対外聯絡部の宋濤部長の動き
昨年11月17日に中共中央対外聯絡部の宋濤部長が習近平総書記の特使として訪朝したことは2017年11月20日のコラム「北朝鮮問題、中国の秘策はうまくいくのか――特使派遣の裏側」で書いた。その時に、「中国は米朝首脳会談をさせることをもくろんでいるだろう」とも予測した。
その予測は的中し、中国は北朝鮮を動かして(時には威嚇して)、対話路線へと傾かせていくことに成功した。
中共中央対外聯絡部の宋濤部長を派遣したのは、中国共産党の「党大会の報告」を、同じ社会主義国家の朝鮮労働党にするためだと中国は説明している。
しかし、それだけだろうか?
そうではない証拠に、金正恩委員長が秘密裏に訪中した時の特別列車(1号列車)に、実は宋濤部長が乗っていたのである。
宋濤部長訪朝の際に、中朝両国とも「宋濤は金正恩に会えなかった」と公表はしている。本当に会っていないのかに関しては疑問だ。少なくとも、宋濤帰国後に、中朝は水面下で交渉を続けていなければ、3月26日の北京行きの特別列車に、金正恩とともに宋濤が乗っているなどということはあり得ない(宋濤は丹東から乗り込んでいる)。しかも北朝鮮が公開した列車内の映像(上掲写真)から見るに、宋濤は金正恩の真正面に座り、実に親しげに談笑している。北朝鮮が発表した映像の中には、二人がにこやかに握手している場面もある。
おまけに宋濤は、中国芸術団を率いて、金正恩の祖父である金日成(キム・イルソン)(元主席)の誕生日(4月15日)を祝う祭典に参加するため、13日に平壌を訪れることになっている。国務院(中央政府)系列の外交部でもなければ国家副主席でもなく、中国共産党系列の対外聯絡部であるということが重要なのだ。
対外聯絡部は、今では中国国内を対象とするようになった中共中央統一戦線工作部(1937年成立)の対外版であると位置づけることができる。外国の政党を、中国共産党に結び付けて「統一戦線」を組もうというのが目的だ。
日本人には馴染みはないだろうが、このことがとてつもなく重要なのである。
◆「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」との整合性
昨年10月に開催された第19回党大会で「習近平思想」が党規約の冒頭に書き込まれることが決議された。具体的には「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」という名の「習近平思想」だ。この長いフレーズの最初の「習近平」と最後の「思想」が、表面的には重要だが、もっと深読みすれば、実は「社会主義思想」の部分がさらに重要だという要素が潜んでいる。
すなわち、一党支配体制を維持させるために、「社会主義思想」の正当性を中国人民に強調して示していくという目的が秘められているのである。
どの国であれ、独裁が長く続けば、必ず権力の腐敗が起きる。
2012年11月の第18回党大会で胡錦濤前総書記も、新しく選ばれた習近平総書記も、口を揃えて「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が滅ぶ」と叫んだ。二人ともその危機感を強く抱いていたのだ。
だからこそ胡錦濤は全ての権力を習近平に移譲して習近平政権が強固な地盤を持ち、腐敗撲滅運動を断行できるように協力した。その結果、「ハエも虎も同時に叩く」というスローガンの下に激しい反腐敗運動を習近平は展開してきた。しかし腐敗の蔓延度は底なしで、このままでは中国共産党は一党支配を維持することはできない。
そのため習近平は国家主席の任期制限を撤廃し、絶大な権力を手にして、「社会主義思想」を、まるで1949年の新中国誕生時のように真っ赤に燃え上がらせたのである。これができるのは「紅い血」を引いた習近平以外に今ではいない。習近平の父親、習仲勲(しゅう・ちゅうくん)は延安で毛沢東と共に戦った革命第一世代。
この「紅さ」を強めるには、元共産主義国家の牙城であった旧ソ連が崩壊して新たに誕生したロシアと親密になり、北朝鮮という、未だに社会主義思想を堅持している国家を味方に付けておかなければならない。ロシアのプーチンは「紅い国家」の独裁的遺伝子をそこはかとなくまとっており、長期政権を狙っている。その意味で中国もロシアも北朝鮮も、「紅い」あるいは「紅みがかった」独裁的な長期政権の国家だ。
「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に盛り込んだ習近平には今、この「紅い団結」が何としても必要なのである。だから、これまで中国を「1000年の宿敵」などと罵倒する無礼の極みを続けてきた「若造」(金正恩)に百歩譲歩した。
◆習近平の手の上ではしゃぐ金正恩
北朝鮮と中国の首脳が会談を行なわなくなったのは、中国が北朝鮮にとっての最大の敵国であるアメリカと新型大国関係などを築こうとしていたからだ。しかし北朝鮮も、そのアメリカと首脳会談を行なう方向に動こうとしているのだから、中国としては北朝鮮を手なずけやすくなってきた。
「社会主義思想」の政党間の絆を堅固にさせていくことによって、習近平思想を強化し、中国共産党による一党支配体制を、より盤石にしたい。
それが、習近平が最も高いレベルに位置付けている目標であり、戦略なのである。
その目的を果たすために、金正恩に「中朝共同戦線」を張らせた。
習近平にとって金正恩は、一党支配体制を維持するためのコマの一つなのだ。金正恩ははしゃいでいるが、習近平の手の上で踊っているに過ぎないのではないだろうか。