北朝鮮警察も手を出せない「盗賊団リーダー」の素性
北朝鮮の町の通りは、いつも歩行者で溢れている。人口がさほど多くない地域でも、町は歩く人でいっぱいだ。公共交通機関が発達していないからだ。
首都・平壌は地下鉄、路面電車、トロリーバス、バスと様々な公共交通機関が揃っているが、それ以外の地方では地域間を結ぶバスやポリ車(個人経営のバスやタクシー)はあっても、地域内の交通手段は皆無に近い。そのため、どこかに出かけるには歩くしかないのだ。
そんな北朝鮮で、速く移動できて多くの荷物を運べる自転車は、非常に便利な交通手段だ。しかし、かなり値が張るため、手が出せないという人も多い。それだけあって、自転車泥棒も横行している。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
咸鏡北道(ハムギョンブクト)安全局(県警本部)は、過去数年間に渡って道内各地で自転車泥棒を繰り返していた一味5人を逮捕したと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
過去数年間、清津(チョンジン)、金策(キムチェク)、吉州(キルチュ)などの都市部の機関、企業所、大学周辺で、自転車を盗まれたとの通報が相次いでいた。
自転車を使って通勤、通学する人は、勤め先や学校の建物の周辺にきちんと鍵をかけた上で駐車するが、この一味は器具を使って鍵を切断していた。また、足がつかないように、盗んだ自転車を解体して、組み立て直して色を塗り替えた上で市場で売り飛ばしたり、部品にして修理屋に販売したりするなどの緻密さを見せていた。
安全局は1年にわたる捜査の末に、一味の逮捕に成功した。そこには労働者や大学生も含まれていた。機関、企業所、大学で盗難が多発したのも、自分たちの通う職場や学校で盗みを繰り返していたからだ。
彼らだけではなく、内部協力者がいたことが明らかになった。「自転車を盗み出すには行政機関や企業所、大学の正門や裏門から運び出さなければならないので、警備員と内通していなければならない」と情報筋は説明した。協力者はターゲットとなる自転車の位置を一味に教え、犯行の最中には見張りをするなどして、手間賃を受け取っていたとのことだ。
北朝鮮では、窃盗事件であっても、見せしめの意味で処刑してしまうことがしばしばある。逮捕された一味と協力者は、道内を数年間にわたって不安に陥れただけあって、重い刑が予想されていた。
一味には少なくとも実刑判決が下されるものと見られているが、その一方で一味のリーダーは軽い処罰、それも罰金刑で済まされるとの話が出ている。というのも、このリーダーはなんと、清津市保衛部(秘密警察)の関係者だったのだ。
もちろん何らかの強いコネがあったからこそ可能だったわけだが、市民からは不公平だとの声が上がっている。
ふだんは事件捜査より庶民からワイロを巻き上げることに熱心な安全部だが、久々に本気を出して捜査したのに、強大な権力を持つ保衛部に行く手を阻まれてしまった形だ。