セルビア戦で示したスケールアップ。MF長谷川唯が世界最高峰リーグで磨いた個の強さ
敵のタックルを吸収するように反転してかわし、ボールを運ぶ。ショートパスで相手を食いつかせて、精緻なロングパスで急所を突く。
セルビアと対戦し、5-0で勝利したなでしこジャパン。この試合で、攻守の歯車を勢いよく回していたのがMF長谷川唯(ウェストハム)だ。
テクニック、アジリティ、スピード。海外の厳しい環境で磨き上げられた武器が、セルビアの守備を切り裂いた。
「彼女は相手との駆け引きの中で空いているスペースを見つけることができる」と池田太監督が語るように、ポジションに縛られない動きも魅力だ。
前半は4-4-2の右サイドハーフでスタート。残り30分でトップ下にポジションを移すと水を得た魚のように躍動し、再び前線を活性化した。終盤には、絶妙なクロスでFW千葉玲海菜の4点目とMF成宮唯の5点目をアシストした。
身体能力の高い相手に1対1で勝つためにどんな工夫をしているのか?
後日の取材で聞かれ、長谷川はこう明かしている。
「普段から外国人選手とプレーすることで間合いに慣れて、『この間合いだと取られないな』とわかるようになりました」
「日本でプレーしていた時は、フィジカル的にも自分が上回っていることが多くて、(ボールを)足下に止めても、スペースに止めても自分のやりたいことができていたのですが、海外に行って最初の頃は、ファーストタッチが大きくなるとボールをつつかれたりスライディングで取られる場面もありました。今は外国人に対するボールの置きどころが感覚的に身についてきているのかなと思います」
長谷川が海を渡って海外に挑戦したのは、2021年1月。
イタリアのACミランで評価を高め、昨夏にはイングランドのウェストハムに移籍した。同国のFA WSL(FA女子スーパーリーグ)は世界屈指の強豪リーグで、世界中の猛者が集う。
パワーやスピードのある選手がゴロゴロいる中で、157cmの長谷川は、ボールを奪われない間合いやポジショニング、ボールタッチを体に染み込ませてきた。それは守備にも共通していて、オフザボールで駆け引きをしながら相手のパスコースを限定し、味方と連係して奪う。
今年1月のアジアカップで、その成果の一端を示した。
「今まで、アジアの大会はやりにくいと感じていました。(アジア特有の)粘り強さが苦手だったのですが、今回のアジアカップでは、余裕を持ってプレーできました。そういう部分で成長を感じています」
ウェストハムでは、スーパーゴールも決めている。第4節のマンチェスター・シティ戦(○2-0)で決めた30m超のロングシュートや、今年4月24日のレディング戦(○2-1)で決めた3人抜きゴール。「尋常じゃない!」「魔法のようだ!」ーークラブ公式SNSや現地サポーターの反応を通じてその衝撃が日本にも伝わった。
海外でのキャリアは順風満帆に映るが、人知れず奮闘してきたこともある。
「海外では伝え方が難しいと思うことがたくさんあって、『どう伝えるか』を、いつも考えています」(アジアカップ時)
長谷川は、周りの選手を生かすことで自らも輝きを増す。そのために、ピッチ内外でのコミュニケーションを大切にしている。ベレーザでプレーしていた時は、練習でも試合でも、周囲と頻繁に言葉を交わしていた。
ウェストハムでも試合中にチームメートに声をかける場面はあるが、国内や、代表でプレーする時ほどではない。言葉の壁に加えて、「日本人ほど細かくお互いに考えてプレーすることがあまりないんです」と長谷川は言う。
その大きな壁と、どう向き合ってきたのか。
「ある程度『こうして欲しい』と伝えていますが、味方のプレーの特徴を利用しながら自分でどうにかする、ということも意識しています。そういうふうに、臨機応変に対応する力がついているのではないかと思います」
代表では細部までしっかりとすり合わせて、短期間で周囲との連係を深めることができる。一方で、孤立した場面でもボールを失わない。それも、長谷川が磨いてきた個の力だろう。
なでしこジャパンは、27日にフィンランドと戦う。
「中2日という短い間ですが、しっかりリカバリーと準備をして、次も必ず勝ちます。日本で応援してくれている皆さんに勝利だけではなく、内容でもこれからに期待を持ってもらえるような試合をして帰国したいと思います」
長谷川は、セルビア戦の試合後に生き生きとした表情でそう語った。
次の試合でも、ワクワクするようなプレーでチームを導いてくれるはずだ。