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アンジェリーナ・ジョリー監督作『不屈の男 アンブロークン』は、「反日映画」じゃなくて「○○○映画」!

渥美志保映画ライター

今回は「反日映画」と噂される『不屈の男 アンブロークン』をご紹介します。映画の日本公開が決まる前は、そこら中のマスコミが「アンジェリーナ・ジョリーが撮った”反日映画”」と喧伝していましたが、公開が決まってからは実際に見た人が増えたせいでしょうか、トーンダウンしているような気がしますが、それ私の勘違い?

まあ結論から言うと、私も「反日映画」ってほどじゃないし……むしろ「○○○映画」?と思っていて、まあそのへんを面白可笑しくまあまあ真面目という、いつもの感じで書いてみたいと思いますー。各方面から怒られちゃったりしてなー。最初に謝っとくかゴメン!

収容所で「はきだめにに鶴」のイケメンぶりで、MIYAVIに目をつけられてしまうジャック・オコンネル
収容所で「はきだめにに鶴」のイケメンぶりで、MIYAVIに目をつけられてしまうジャック・オコンネル

まずは物語を大まかに。

主人公のルイはアメリカの田舎町に住む不良少年。兄の勧めで陸上の長距離選手となって頭角を現し、ベルリン・オリンピックで記録を残すのですが、戦争が始まり戦場へ。そして南太平洋上で乗っていた爆撃機が墜落し、飢えと疲労と脱水に苦しみながらゴムボートで数週間の漂流した挙句、助けが来た~!と思ったら日本軍で、捕虜にされてしまいます。

送られた大森の収容所では、サディスティックな所長・渡辺に目をつけられ、ことあるごとに陰湿にいじめられます。途中、有名人ゆえに日本のプロパガンダに利用されそうになり拒否したことも、いじめに拍車をかけるのですが、ここで渡辺が昇進して別の収容所へ。ホッとしたのもつかの間、ルイを含めた一部の捕虜が移送され、その先にはまたしても渡辺が!再び始まるいじめの毎日――というところで戦争が終わり、生き抜いたルイは無事アメリカへ帰還します。いやもうとんでもない苦難の連続、波乱万丈です。

公開も危ぶまれたこの映画、業界向けの試写もかなり混んでいて、おお、さすが話題の「反日映画」!なんて思って見たのですが、見終わった直後の感想は「え?これだけ?」。

ルイが収容所に入るのは後半で、MIYAVI演じる渡辺にいじめられるんですが、その描かれかたは「渡辺=日本軍人の代表」という感じではなく、「ああ、こういうやついるよね」っていう感じの、個人の問題として最低ヤローという描かれ方です。いうなれば、わがままお坊ちゃんが、戦争で悪い方向にタガが外れた、という感じ。そして暴力描写ももちろんありますが、この手の映画にしてはややユルめです。私がバイオレンス系女子だからかもしれませんが(^^;)、タランティーノ映画のほうがよっぽどキツい。

さらに言うと、「こ、これは『戦メリ』的な?」って感じちゃったんですね。若い人のために説明しますけど、『戦メリ』ったら、大島渚監督の大傑作『戦場のメリークリスマス』のこと。この間なくなったデビッド・ボウイが出てた日本映画ですが、彼が演じるイケメン捕虜を好きになっちゃう、日本人将校(なんと坂本龍一)の話です(←乱暴な要約)。そうです、腐臭がするんです~。

渡辺の標的がルイだけなのは、渡辺は実のところイケメンのルイが大好きだからで、屈折したサディスティックな性格ゆえに、屈服させ泣く姿が見たくてたまらず、でもルイは“不屈の男 アンブロークン”なんで絶対に屈服せず、可愛さ余って憎さ百倍の渡辺は、いじめをエスカレートさせていっちゃうんです(←勝手に妄想)。ルイもそれを分かってる感じで、渡辺の昇進に伴う転勤が決まった時なんて、渡辺がついにルイにセマるのではないか!?というのを、なんとなくかわしてみたりして、腐女子センサーの弱い私ですらドキドキしてしまいました。

移送されたルイが着いた収容所にまた渡辺がいた時なんて正直吹いちゃったし、最後の最後まで屈しなかったルイを見る渡辺に最後に漂うのは「あらゆる男を奴隷にしてきたのに、初めて調教に失敗した女王様」といった感じの敗北感です。昭和初期の男らしからぬグラムな空気を発散させるMIYAVIが演じてるんで、なおさらなんですねー。「反日映画」のリビューとは思えぬ展開でしたねー。

MIYAVIさん、顔を近づけすぎるとドキドキするので。
MIYAVIさん、顔を近づけすぎるとドキドキするので。

さて、真面目な話。この一連の「反日映画騒動」で一番気になるのは、映画の中で描かれていることが、間違った方向で「事実」ととらえられている気がする事です。

正直言えば、渡辺ぐらいのキャラクターは、私が幼い頃に見た日本映画の中にもうじゃうじゃいたと思います。でもってそいつらが苛めぬくのは、日本軍の部下たちでした。これは別に日本に限ったことではなく、アメリカの『フルメタル・ジャケット』も『プラトーン』も似たようなもの。実際のニュースでも時折、軍隊内のイジメなど耳にしますよね。誤解を恐れず言えは、上官への絶対服従で成り立つ軍隊という組織では、大なり小なりこういうことが起こるものなんです。

自分とこの部下にそれだけやる軍人が、人権意識って言葉すらなかった時代に、敵の兵隊をそれ以上にいたぶるのは当たり前です。21世紀になってからでさえ、イラク戦争におけるアブグレイブ刑務所での捕虜虐待など、戦争が普通の人間すら虐待者に変えてしまう例がいくつもあります。

そういう意味では、この映画での描写は「日本をわざと貶めるための偏見に満ちたもの」とまではいかず、「まあこのくらいのことはあったんだろうな」というレベルにとどまっていると感じました。それでも渡辺のキャラクターを「あんなにひどい虐待があったとは思えない。事実と思われたら困る」と考える方もいるかもしれませんが、そもそも本当の戦争における最悪の事実は、映画で「リアルに」描けるほど生易しいものではないという気がするのですが、いかがでしょうか。

登場シーンは常にボロボロという、イケメン3人の無駄遣い
登場シーンは常にボロボロという、イケメン3人の無駄遣い

個人的にすごーく印象に残ったのは、飛行機の墜落で生き延びた3人の、ゴムボートでの数週間にわたる漂流です。

「墜落グッズ」の中に入っていたチョコレートを、「大切に食べてなんとか生き延びよう」と思ってたのに、「もうどうせ俺たちは死ぬんだ」と取り乱した一人が翌朝1枚全部食ってしまって、ばーかーやーろー!!!な局面とか、周囲をぐるぐる回るサメにボートひっくり返されて、ぎゃー!な局面とか、たまたまボートに止まった海鳥にそーっと近づきとっ捕まえて、うわあそのまま食うんだ当然か!な局面とか、マジで頑張った、不屈の男です。

ルイ役ジャック・オコンネル(『ベルファスト71』)に加え、最近売れまくりのドーナル・グリーソン(『SWフォースの覚醒』)とフィン・ウィットロック(『マネーショート 華麗なる大逆転』)というイケメン3人が、絶望の中痩せこけただれるほど日焼けしていくので、変な話、収容所に入れられたルイが次第に太り肌に潤いが戻っていくのを見て、ああ、ご飯ちゃんと食べられてるのね……とすら思ってしまいましたwww

そんな感じで、なかなか見どころもある作品です。話題作でもありますし、「どんなもんじゃい」というご興味のある方はどうぞご覧になってみて下さいね~。

『不屈の男 アンブロークン』

2月6日公開

(c)2014 UNIVERSAL STUDIOS

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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