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24時間テレビに唯一足りないのは「ゴール」である

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
番組ウェブサイト

■24時間テレビの功罪

昨日、文春オンラインで「24時間テレビ」発案者へのインタビュー記事が公開されネット上でプチブレイクしていたので、本記事では方々で議論されている内容についてではなく「企業としてのチャリティ番組運営」についてまとめます。

結論から言えば、24時間テレビに足りないのは「ゴール」ではないか、という話です。私の専門はCSR(企業の社会的責任)という分野でして、企業の社会貢献活動の定点調査をしており、特に24時間テレビは10年ほど前から注目してウォッチしています。その中で、色々な批判や意見も含めて見聞きしてきましたがゴールさえ明確になれば、もっと良い番組になり、企業の取り組みとしても社会的インパクトや企業価値向上に貢献できるのではないか、と考えています。では活動実態を含めて、いくつかの事例も比較してみながら考えてみましょう。

■24時間テレビの実績と寄付事情

先月発表された、2019年放送分の寄付合計は15.5億円でした。42年間の寄付金累計額は396.9億円とかなりのインパクトとなっています。前回(2018年)は8.9億円、前々回(2017年)は6.9億円ですので、今年は大きくジャンプアップしています。非常に素晴らしいことです。

24時間テレビを通じ集まった寄付金の15億円。企業寄付としては、この数字は多いのでしょうか、それとも少ないのでしょうか。この規模感は一般的にはイメージしにくいこともあるでしょうから、参考データですが、大手企業の寄付金額を含めた「社会貢献支出」を見てみましょう。

◯社会貢献支出額ランキング2019

1、トヨタ自動車(243億円)

2、ホンダ(74億円)

3、NTTドコモ(64億円)

4、日本電信電話(64億円)

5、JT(60億円)

6、三井不動産(60億円)

7、サントリーホールディングス(58億円)

8、武田薬品工業(55億円)

9、日本生命保険(53億円)

10、パナソニック(46億円)

出典:最新!「社会貢献にお金を出す」100社ランキング

トヨタは別格としても、大々的なチャリティ番組をしていない企業でも、国内トップ企業群はこれくらい使っています。50位はマツダなどで12億円前後、100位近辺ではセイコーエプソン・ブリヂストン・フジクラあたりで6億円前後、となっています。企業の15億円の金額感となると国内50位内くらいのレベルです。ただし、これは寄付を“受け付けた”もので、支出した金額ではないので、詳しくは運営団体(公益社団法人24時間テレビチャリティー委員会)の決算報告等をご確認ください。あくまで社会貢献費用全般の規模感としての参考情報としていただければと思います。

ちなみに、本メディア運営のヤフー社は「22位:19億円」です。ソフトバンクグループが「20位:21億円」なので、グループひっくるめた数字ではトップ10に加わりそうな勢いです。日本全体の法人寄付/企業寄付は年間8,000億円前後となっていますので(参考:「寄付白書2017」)、トップオブトップの企業群のインパクトはさすがだなと思う次第です。

※ランキングの社名は2018年当時のもの

■どんなゴール設定が必要か

日テレウェブサイトより引用
日テレウェブサイトより引用

さて、話は戻って「ゴール」の問題です。日本テレビホールディングスのCSRウェブコンテンツでは、「4つの約束」という行動指針を掲げています。CSRではこれを「重要課題(マテリアリティ)」と言います。社会貢献活動において注力すべきカテゴリ選定とご理解ください。「4つの約束」を見る限り、抽象的でどうにでも解釈できるような文言が並んでおり、24時間テレビのゴールとは言えなさそうです。

では他にゴールになり得るような考え方があるかというと…ウェブサイトからは確認できませんでした。CSRコンテンツにはニュースリリース以外、本来開示すべき情報がほとんど掲載されていません。もったいない。テレビ業界のCSRではフジテレビの情報開示が一歩進んでいます。昨今のステークホルダー(利害関係者)のほとんどはウェブサイトから情報収集をするので、もっと情報を充実していただきたいです。

NPOや官公庁ではなく、民間の上場企業(実運営は別組織)が寄付を集めるのであれば、投資家への説明責任を含めて、来年以降もっといえば数年後に、どんな価値をこの番組で生み出すのか、その先にどんなゴールを見据えているのかを発信すべきです。前述のインタビューでは、24時間テレビは「コンシャスネス・レイジング(社会問題への意識改革)」のため、ということが言われています。しかし、社会問題について関心をもってもらった先にどんな未来を作れるのかを明確にしないと(手段の目的化)、様々な解釈が生まれてしまい、制作意図がうまく伝わらず誤解が生まれ、その一部が批判となり毎年話題になるのだと思われます。

24時間テレビに足りないのは「理念/ゴール」なんです。これがNPOであれば、寄付金を自社の社会貢献プログラムに使います、でいいのですが上場企業はそうはいかない。基本的に営利組織なので寄付金が生み出した付加価値(企業価値)を明確にする必要があります。

ですので、CSR分野でいうゴールとは、自社の目標というよりは、様々なステークホルダーを含めて、社会全体としてこういう未来のために、番組制作というコミットメントをしています、というようなものが理想と言えるでしょう。CSRや社会貢献活動のゴールに関しては、日本テレビだけではなく、中小企業を含めたすべての企業においても重要な概念ですので覚えておいてください。ゴールというとイメージしにくければ「大義名分」でも良いです。24時間テレビでいえば「その番組の大義名分はなんだね」と。

最近はゴールに近い概念として、自社の将来的なあり方である「パーパス(存在意義)」というワードを使う企業も増えています。ワーディングは企業ごとに使っているものでよいので、明確なスローガンを作りましょう、と。この辺りは、前述した社会貢献支出額ランキング上位企業は明確に定め開示しているので、興味がある人は各社のウェブサイトのCSRコンテンツをチェックしてみてください。

■ポジティブな波を起こす

非上場企業であれば関係ないですが、上場企業であれば「ESG投資」(環境貢献や社会性などで企業評価し投資する方法)の対象でもあります。寄付などの慈善活動(フィランソロピー)は、評価機関によるCSR/ESG評価では下手したらネガティブ評価をされる可能性もありますので、その活動の意義・意味を明確に情報開示する必要があります。

ぜひ日本テレビは、社会的インパクト拡大を含めて継続することだけを目標とせずに、活動のゴールを明確にし、より多くのステークホルダーを巻き込んでいきましょう。スポンサー企業も自社のCSRやSDGs関連の課題と近い活動だとより予算もつけやすいと思います。24時間テレビは、とても良い活動だと思いますので、ぜひ大きなゴールを掲げ、スポンサー企業も個人寄付者も投資家も、みんなをポジティブに巻き込みながら、日本が誇るチャリティ番組として2020年も盛大に「コンシャスネス・レイジング」を進めていただければと思います。

そしてこれは日本テレビだけの問題ではなく、多くの企業にとっての課題だとも感じています。あなたがお勤めの会社・団体では、社会やステークホルダーに対して、明確なメッセージを発信できていますか?

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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