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【肌の老化予防】有色人種女性の声に耳を傾ける時 - 皮膚科学の多様性不足が浮き彫りに

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

アメリカでは、有色人種が人口の約40%を占めています。しかし、医学・皮膚科学の文献では、私たち日本人を含む有色人種の肌の表現が著しく少ないことが指摘されています。この多様性の欠如が、有色人種コミュニティへの医療の質に重大な影響を及ぼしているようです。

そんな中、米国の皮膚科医たちが、有色人種女性の肌の老化予防に関する考えを探るべく、興味深い調査を行いました。米国在住の18~70歳の有色人種女性1646人を対象に、肌の老化予防の重要性、専門家への信頼度、情報源での代表性などについてオンラインアンケートを実施したのです。

【有色人種女性にとっての肌の老化予防の重要性】

調査の結果、全ての民族グループで肌の老化予防の重要性が高く評価されました(平均7.63/10点)。シワ・たるみ・肌質の低下・色素沈着の予防が、専門家に相談する主な理由だったそうです。

【専門家への信頼と情報源の偏り】

全民族で、肌の老化予防製品・治療の情報源として最も信頼されていたのは、皮膚科医を含む専門家でした。一方で、かなりの割合の参加者が、現在の情報源で十分に代表されていないと感じていました。白人のみの対照群と比べ、特定の民族グループではその傾向が顕著でした。

これは、皮膚科学の文献における有色人種の過小評価が原因と考えられます。実際、医学テキストや皮膚科学雑誌では、有色人種の肌の画像はそれぞれ21%、4.5%しか登場しないのです。日本ではあまり感じることはないでしょうが、欧米では白人中心のスキンケア情報が主流です。この多様性の欠如により、有色人種の患者は専門的な情報を求めにくくなり、自分の肌に合った製品が手に入りにくいなどの障壁に直面しています。これは患者の信頼に影響を与えるだけでなく、治療の決定、アドヒアランス、治療結果にも影響を及ぼすでしょう。

【皮膚科医に求められる4つの改善策】

多様な民族の患者の懸念や認識を理解することは、患者中心のケアを提供する上で不可欠です。今後、日本でも様々な肌の種類の人が増えることでしょう。我々皮膚科医も他人事とはせず、代表性の格差を認識し、以下の3つの方法を今後検討すべきでしょう。

  1. 教育リソースの多様性向上:患者層の多様性を反映した、様々な肌に関連する画像・情報を増やす。
  2. 文化的能力の向上:多様な民族の患者特有のニーズを理解し、対応するための文化的能力トレーニングを受ける。
  3. 手頃な価格のケア:コストは専門的ケアを求める際の大きな障壁。手頃な価格の治療オプションや相談を提供することでこのギャップを埋める。

肌の老化は万国共通の悩みですが、有色人種にはまだ情報の偏りや障壁が存在するのが現状のようです。多様性を尊重し、誰もが自分らしい肌で年齢を重ねられる社会を目指して、私たち一人一人が多様性について考えるきっかけになればと思います。

<参考文献>

Frey WH, et al. New 2020 census results show increased diversity countering decade-long declines in America's white and youth populations. Brookings. 2023.

Callender VD, et al. Do women with skin of color think they are well represented in skin aging prevention information? J Clin Aesthet Dermatol. 2024.

Louie P, Wilkes R. Representations of race and skin tone in medical textbook imagery. Soc Sci Med. 2018.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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