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沖縄・北谷にド派手なカラフルホテルが誕生した意外な理由-いまこそ人や空気が“停滞しない”街づくり

瀧澤信秋ホテル評論家
派手な外観(レクー沖縄北谷スパ&リゾートオフィシャル)

ホテルの外観に唖然とした

シンプルかつヨーロピアン風のシックな館内、淡いトーンの客室インテリアに本格的なプールやスパのパンフレット写真に釘付けとなり、沖縄の新規開業リゾートホテルへ取材に訪れた。向かったのは北谷町。那覇空港からレンタカーを走らせること約40分、カーナビの案内に従って進むも目的のホテルらしき建物はいっこうに見当たらない。周囲をぐるぐる廻り、目指していた「レクー沖縄北谷スパ&リゾート」の小さな「LeQu」というホテルのロゴを発見、唖然とした。

ホテルの常識からはあり得ないカラー(著者撮影)
ホテルの常識からはあり得ないカラー(著者撮影)

パンフレットに外観の写真はなかったが、館内や客室の写真とはまったくイメージの異なるド派手なもの。オレンジ、ピンク、黄色に赤・・・これまで数多くのホテルを見てきたがホテルの外観カラーとしてはあり得ないと思った。これでは簡単に見つかるはずがない。館内に入ると一転、パンフレットの写真通りの素敵な空間が広がった。客室もシンプルながら調度品やアメニティなど相当吟味されていて完成度は高い。最上階にはプール、天然温泉、スパトリートメント施設と“揃っている”。パブリックエリアも白や木目を基調としたシンプルかつラグジュアリーなイメージだ。

ダイニングレストランやバンケットはないがプールや温泉など充実(ホテルオフィシャル)
ダイニングレストランやバンケットはないがプールや温泉など充実(ホテルオフィシャル)

すなわち外観のイメージからは意表を突くホテルということになるが、外観のみを見てこのホテルに泊まるかと聞かれれば、賑やかなイメージだけにホテルではゆったりしたい筆者としてはノーかもしれない。とはいえ、周囲をよく見渡すとホテルに違わず派手な建物ばかり。海外の街を模したような雰囲気を演出している。一帯は「アメリカンビレッジ」と呼ばれており、特にホテルの位置する“デポアイランド”が特徴的なエリアとのこと。早速、ホテルの担当者にド派手な外観の理由を訊ねてみた。

人気街づくりのキーマン

「“とある人”がキーパーソンとなりカラーをはじめエリア全体のイメージを作っているのです」と話してくれた。どのような人なのか興味津々、是非話を聞いてみたい。無理を言って紹介してもらった。その“とある人”とは奥原輝夫さん(62)。風の抜ける気持ちいいカフェで、アメリカンビレッジとデポアイランドについて話を伺った。

いつも朗らかな奥原輝夫さん(著者撮影)
いつも朗らかな奥原輝夫さん(著者撮影)

「ここには電線ないでしょ?地中化したんだよ」と開口一番。「僕らがこの町を作ろうとしたときに海が見えることを大切にしたくて他のインフラも含め地中化した」といい、約7億円かかったと話す。僕らが作った?-もともと北谷町で物販業や飲食業を営んでいたが商環境は厳しくお客様に来ていただくにはエリア全体の魅力を高めなくてはと考えたという奥原さん。民間でここまで開発した街は全国でもあまり例ないのではと、自分たちが作ってきた街という自負が言葉の端々ににじみ出る。

電灯にもストーリーがある(著者撮影)
電灯にもストーリーがある(著者撮影)

前述の電線地中化によって街灯が必要になったが、町が用意する電柱は極めて一般的なもの。それはそれで当然だが納得できず、莫大な費用をかけてアメリカから輸入した。工事後は惜しげも無く北谷町へ移管させたという。何本あるのか想像も出来ないが1本約100万円という電灯が街路に延々と連なる。

曲がりくねった道

デポアイランドがあるアメリカンビレッジは、「近くて安くて楽しめる若者の町」というコンセプトのもと1995年に北谷町が用地処分を開始、2004年に完成した。その中に「サンセット美浜」という国民年金健康センター(社会保険庁の保養施設)があった。3万3000坪の埋め立て地に建つ施設の客室数はたった21室。豪華な設備だったが採算が取れず処分するということで売りに出された。

リーマン・ショックが起きたのが2008年9月。奥原氏が翌10月に落札したことで、デポアイランドのプロジェクトが本格稼働する。「アメリカンビレッジの商業施設は海岸から離れ奥まっているので、お客様がなかなか海まで行くことができなかった」と用地は絶対に取得する必要があったといい、海の見える街を作りたいという強い思いが土地の取得・開発を加速させた。

整備前の荒涼とした海岸の光景(デポアイランド通り会提供)
整備前の荒涼とした海岸の光景(デポアイランド通り会提供)

とはいえ順風満帆にコトは運ばなかった。エピソードのひとつとして“曲がりくねった道”の話がある。曲がりくねった道はリゾート地のワクワク感を高めると考え町へ提案したが、「道は真っすぐでかつ平坦でなければいけない」と却下された。どうしたのか。なんと巨額の費用をかけて自前で曲がりくねった道を作ったのだ。さらに驚くのは電柱同様に完成後は町へ移管、町道となった。

海岸沿いの遊歩道(著者撮影)
海岸沿いの遊歩道(著者撮影)

2013年には奥原氏が中心となり「デポアイランド通り会」という商店会を5社で作った。回遊性を高める仕掛けを作り歩く楽しさにも着目した開発についてみんなで話し合ってきたという。2014年に完成したのが海沿いの遊歩道。手前にはオープンカフェなどもあり、海を見ながらコーヒーやワインが楽しめるようになっている。

カラフルなテトラポットの理由

遊歩道の手すり手前に植栽が施されているが、テトラポットを隠すためで海だけが見えるような工夫もされている。そんなテトラポットがブルーやネイビーにペイントされているのも印象的な光景だ。海から見ても美しい街にしたいといい、将来的にクルーズ船なども出したいと奥原氏は語る。気になる費用だがプール用の環境に優しい塗料などを用い3億5000万円かかったとのこと。

テトラポットもデポアイランド名物の一つ(著者撮影)
テトラポットもデポアイランド名物の一つ(著者撮影)

こうした奥原さんらの努力により沖縄ではない外国にいるような雰囲気の街へ多くの人が訪れるようになった。特に夕日の沈む頃は人が多くなり、夕日が楽しめるまちづくりも視野にナイトタイムエコノミーという観点からもホテルは必須と考えた。2012年に開業したのが「ベッセルホテルカンパーナ」沖縄だ。冒頭に紹介したド派手なホテルもベッセルホテルズにる運営。ちなみにベッセルホテルカンパーナ沖縄、レクー沖縄北谷スパ&リゾート共にダイニングレストランがない。

広々とした朝食会場(ホテルオフィシャル)
広々とした朝食会場(ホテルオフィシャル)

株式会社ベッセルホテル開発(広島県福山市)の瀬尾吉郎氏(41)は、「ホテルの朝食会場はブッフェレストランなどできるクオリティだが、エリア内の飲食店と提携、宿泊者は割引されるなど協同的な関係を保っている」という。これも奥原氏の考えに賛同した結果だ。ちなみにベッセルホテルズは、前述のテトラポットのプロジェクトにも費用の一部3000万円の負担を申し出た。自らの利害に直接的には関わらない部分ではあるが、これもエリアあってのホテルという思いゆえだ。

57.4平方mのジュニアスイートでもルームチャージ(1室2名利用で)26400円~(著者撮影)
57.4平方mのジュニアスイートでもルームチャージ(1室2名利用で)26400円~(著者撮影)

新たに誕生したレクー沖縄北谷スパ&リゾートの宿泊料金はかなり安い。正規料金でスンダタードツイン1室2名利用12400円~(税込)、57.4平方mのジュニアスイートでも同26400円~とオープン記念の設定ということもあるが、ホテルのクオリティから考えるとかなりハイコスパ。これもエリア全体の集客を考えてのことと瀬尾氏は語る。

奥原氏をはじめとした関係者の努力は、アメリカンビレッジが圧倒的な集客力を誇るエリアとして認知されるようになった。沖縄県内で1時間以上滞在した外国人数(2018年)をみると、美ら海水族館が約66万人に対してアメリカンビレッジは約150万人と圧巻だ。

しかし、ここにきてやはり新型コロナウィルスの影響が出ているという。実際出向いてみると、デポアイランドのカフェやレストランは必ずテラス席が設けられている(そういうルールがあるとのこと)が、カフェの窓も開け放たれ店内を心地よい風が通り抜ける。感染症予防には室内の換気が大切というが、人や空気が停滞しないというのは、回遊性に重きを置いた街づくりの効用だろうか。

デポアイランドは地元のファミリーやカップルにも人気のスポット(著者撮影)
デポアイランドは地元のファミリーやカップルにも人気のスポット(著者撮影)

ホテルをはじめエリアの建物がド派手なことについて奥原氏に訊ねると「もうすこし派手にもっと大胆にやりたかった(笑)沖縄の太陽に負けないような色にしたい」と話してくれた。色は誰が決めているのかと問うと「僕が好きな色。やりたいことにみんな共感してくれた」と語る。

ハードもソフトもそして人々も守りに入りクローズドになりがちな現代社会。新型コロナウィルス感染症の拡大はさらに日本全体をクローズドにしている。確かにクローズドというワードにはある種の安心感はある。でもデポアイランドは、お店の間口が物語るようにいつもオープンだ。程よい海風を感じつつ、遊歩道に面するお店にはいつも新しい空気が流れている。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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