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全豪オープンレポート:9カ月のブランクを経てつかんだ勝利 西岡良仁がシードを破り2回戦へ

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

男子シングルス1回戦

○西岡良仁 63、26、60、16、62 P・コールシュライバー

 試合時間は2時間40分。強風が吹きすさぶ困難な状況下でのフルセットの戦いでしたが、彼がこの舞台に戻ってくるために要した時間に比べれば、一瞬にも満たなかったかもしれません。

「リハビリは本当に辛かったので……それに比べれば、確かに大変じゃなかったかもしれませんね」

 穏やかな笑みをこぼしながら、西岡良仁は今しがた手にした全豪初戦勝利と、過ぎた日々を照らし合わせているようでした。

「復帰までどれくらい掛かるかわからないけれど、この経験は無くならない。時間は掛かるかもしれないけれど、戻ってきた時に思い出してやっていきたい」

 それは昨年3月のマイアミ・マスターズ2回戦で、前十字じん帯裂傷の大ケガを負った直後の彼が口にした言葉です。その後じん帯の再建術を受け、復帰までは早くても8カ月掛かると言われた後も、彼は「ベルディフら上位選手を破った良いイメージを残したまま次にコートに戻れるので、僕はラッキーです」とまで言い切り前を向き続けてきました。

 それから、9カ月――彼は自分の認識が正しかったことを、第27シードのコールシュライバー相手に証明します。2週間前のチャレンジャーでは試合勘が戻らないもどかしさを覚えましたが、その後クーヨン・エキジビションでの2勝を通じて、徐々に感覚と自信を回復。全豪初戦の相手が決まった時も「一発でオーバーパワーされることはない相手。ラリー戦になるだろうから、長い打ち合いでポイントを作れるんじゃないかなと思います」と、勝利へのイメージを思い描いていました。

 そのイメージを、彼は試合立ち上がりからコート上に描きます。コールシュライバーの多彩なショットに対し、それを上回るコースバリエーションと、軽快なフットワークで応じる西岡。18本のラリーを重ねた末に、最後はストレートへのフォアウイナーで奪ったこのポイントが、その後の展開を象徴するようでもありました。

 セットが変わる度に流れが入れ替わる混戦ではありましたが、それも西岡にしてみれば想定内。「今日は風が強かったのであまりリスクを負わず、叩かれても良いから相手のコートに入れてというのを心がけた」からこそ劣勢になっても精神的に乱れることなく、相手のミスや攻撃の機をじっくり待ち続けられたのでしょう。ファナルセットでは、最初のゲームでこの日最長の33本のラリー戦を制しブレークに成功。試合前に思い描いた勝利へのイメージを、一度はメスを入れた足とラケットで、彼は最後までコートに描き切りました。

「純粋にコートに立てることがうれしかったので……、変にイライラすることも無くなりました」

 テニスの感覚そのものにはまだ物足りなさを覚えながらも、内面の成長を自覚できた2時間40分。それは、試合から離れた月日を「プラスになる」と信じ続け大舞台に戻ってきた西岡の、コートに立つ喜びと冷静さが相手を上回った末の“快勝”でした。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日大会レポート等を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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