Yahoo!ニュース

嵐・二宮和也のYouTubeはなぜ自分達で編集するのか?「クリエイター型芸能人」が急増する時代の変化

谷田彰吾放送作家
(写真:ロイター/アフロ)

 まさに圧巻のスピードだった。嵐の二宮和也が開設したYouTubeチャンネル『ジャにのちゃんねる』が、「#1」と題された動画投稿から約1日でチャンネル登録者数100万人を突破した。YouTube界で一流の証となる100万人登録を、いとも簡単に成し遂げてしまったのである。

 だが、驚くべきはスピードだけではない。動画の内容にもサプライズが隠されていたのである。『ジャにのちゃんねる』は、二宮が一緒にYouTubeを作ってくれる仲間を探す動画からスタートした。そして、KAT-TUNの中丸雄一を誘い、こう言ったのだ。「編集やって」と。

 「編集」とは、撮影した映像を切り抜き、つないで、テロップや音楽などを付け足して動画を完成させる作業。通常なら、ディレクターや編集マンと呼ばれる人たちが行う、「裏方」の仕事だ。それを、37歳、デビュー15年の現役ジャニーズアイドルに「やれ」というのである。何も知らされていない中、言われた側の中丸も「やる」と答えた。わずかではあるが編集の経験があり、YouTubeをやってみたい気持ちがずっとあったのだという。

 とはいえ、15周年で全国ツアーを周り、レギュラー番組も持っている現役バリバリのジャニーズである。普通はプロのスタッフに任せるものだ。動画制作は企画・撮影・編集などたくさんの工程があるため、タレントが自分で行うのは限界がある。ブログやTwitter、Instagramなどとは制作にかかる労力もスキルも、大きく異なるのだ。実際、昨年から芸能人が多数YouTubeに参入したが、その多くがテレビなどのスタッフによって制作されている。その結果、クオリティの高い動画となり、既存のYouTuberと差別化できた。

 しかし、その流れが最近、大きく変わりつつある。タレント自ら編集を行うケースが増えてきたのだ。いわばタレントの「クリエイター化」である。

 その代表格が、本田翼、仲里依紗、指原莉乃の3人だ。いずれも女優業、タレント業でトップクラスの実績を持つ。しかも、今が一番脂が乗っている時期と言っていいだろう。本業で忙しい中、彼女たちはYouTubeの動画を自ら編集していると公言している。

 中でも、動画の本数やクオリティで抜きん出ているのが、仲里依紗だ。「え、仲里依紗ってこんな人だったの?」と驚くほどのハイテンション。テロップを多用し、自分で自分にツッコミを入れまくるスタイル。自らを「この女」、息子を「トカゲくん」と呼ぶなど、ワードセンスも光る。サムネイルの色使いや文字をギュウギュウに詰め込む感じも新しい。YouTube界の王様・ヒカキンとのコラボも実現し、タレントのみならずYouTuberとも積極的に共演している。動画を一度見れば、心からYouTubeが好きなんだなとわかる。チャンネル登録者は129万人。名実ともに一流YouTuberと呼ぶにふさわしい。プロとは違う我流の感性がウケている。

 そんな中、ジャニーズのトップクラスのタレントまでもが編集をする時代に突入した。なぜ流れが変わってきたのか?

 誤解を恐れずに言えば、テレビへの「アンチテーゼ」だ。テレビにおいてタレントは、あくまでも出演者にすぎない。企画も撮影も編集もすべてスタッフが担当し、タレントは演出(指示)の通りの役割を演じるだけだ。バラエティ番組では、撮影以降、タレントのチェックが入ることはほとんどない。つまり、編集の権限は完全にスタッフが握り、タレントは放送されるまでどんな内容に仕上がっているか知る由もないのである。だから蓋を開けてみたら「何これ!」という時もある。仲が良く、信頼関係があるスタッフならまだしも、関係値が一切ないスタッフと仕事をすることは多々ある。自分の発言をどう切り取られ、どうつながれるかわからないというのは、今やリスクと感じても仕方がない。

 かつては、それが当たり前だった。しかし、SNSによって、タレントが小さなコンテンツを自ら作る機会が増えた。自分の発言によって炎上する怖さも知った。だからこそ、自分のコンテンツに対して責任を持つ意識が格段に上がった。となると、視聴者との接点となる「編集」の作業を第3者に任せたくないという思いが湧き上がるのは、当然と言える。仲は過去にポッドキャストの番組で、編集を他人任せにしない理由をこう言っていた。「すごくきれいに編集されそうで。女優だから、『こういうことは映したらダメ』とか。自分でやった方がバンバンやれそうだから、バンバンやっちゃった!」

 自前編集は、視聴者にとっても新鮮だ。タレントの独特の感性が出るし、プロならやらないようなセオリー無視のおもしろさもある。そして何より、タレント自身が作っているという熱量が、視聴者との距離を縮める。応援したいという気持ちにさせる。ジャニーズならばなおさらで、プロが作ったコンテンツはテレビに溢れている。だからYouTubeだけは親近感を持てるものにしようという戦略なのかもしれない。動画で二宮は「お金(予算)がないから」と言っていたが、天下の嵐のメンバーがスタートする初めての個人チャンネルである。本当にそうなのか?動画編集を自分達で行うのは、あえての新しい試みなのではないだろうか。

 二宮のチャンネルは、数字ばかりが注目されがちだが、芸能人YouTube界に新たなトレンドを確立するという意味でも注目だ。芸能人のクリエイター化は、これから加速するかもしれない。

 

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

谷田彰吾の最近の記事