森保ジャパンが格下相手に完勝した試合のなかで浮かび上がった2つの傾向とは何か?【モンゴル戦分析】
大敗しても収穫を得たモンゴル
9月のミャンマー戦に勝利して2022年W杯アジア2次予選で白星スタートを切った森保ジャパンが、2次予選2戦目でモンゴルと対戦し、6-0で圧勝した。
対戦相手のモンゴルは、最新のFIFAランキングで210チーム中183位。この試合が日本のホームで行われたことを考慮すれば、予想通りの結果だったといえる。
「コンパクトなディフェンスをしようとしましたが、できませんでした。前線はほとんど何もできませんでした」
試合後の会見で白旗を挙げたのは、モンゴル率いるドイツ人ミヒャエル・ワイス監督だった。しかし完敗したにもかかわらず、その表情は爽やかで明るかった。
「しかし我々が持っている力の最大限を出せたと思います。20分過ぎまでは失点をゼロに抑えることもできました」
アジア2次予選に初めて駒を進めたモンゴルにとって、現在6大会連続でW杯本大会に出場している日本は、比べようもないほどの格上。そんな強豪相手に6失点したことを嘆くより、指揮官は前半20分間を失点ゼロでしのいだことにフォーカスした。
そのモンゴルは、2次予選の初戦でミャンマーを1-0で下し、2戦目のタジキスタン戦は0-1の惜敗。いずれもホーム戦ではあったが、ミャンマーとタジキスタンに対しては互角に戦えることを証明している。
「日本のようなハイレベルのチームと対戦することで、力をつけられる。今日のような経験を選手は忘れないでしょう」
ワイス監督がそう振り返ったように、彼らにとっての日本戦は、将来のための貴重なレッスンの場でもある。チーム強化のプロセスにおいては、今回の大敗も収穫のひとつとなったことは間違いないだろう。
公式戦では常にベストメンバー
一方、日本を率いる森保一監督は、そんな格下相手にいつものようにベストメンバーを編成した。
まず、GKと最終ライン4人はミャンマー戦と同じメンバーを起用。ダブルボランチの一角には橋本拳人ではなく遠藤航を、右ウイングに堂安律ではなく伊東純也を起用し、負傷欠場した大迫勇也の代わりに永井謙佑を1トップに配置した。
ここで注目すべきは、遠藤と伊東の起用だ。橋本と堂安がこの試合の控えメンバーに登録されていたことから推測すると、森保監督が最も確認したかったのは遠藤と伊東のパフォーマンスであり、そこにはテストの意味合いがうかがえた。
遠藤は、今季加入したシュツットガルト(ブンデスリーガ2部)で出場機会を得られない状況が続いており、代表戦でもアジアカップ準決勝(1月28日)以来となる久しぶりの出場となった。そこには、昨季の柴崎岳のように、クラブで出場できない選手を代表戦で起用し、実戦感覚を取り戻させようとする指揮官の狙いが見え隠れする。
所属クラブで活躍していることを条件に代表メンバーを編成するのが一般的な手法だとすれば、この”再生工場”的な起用方法は森保流だ。同時に、主力メンバーが固定化しやすい原因でもある。
逆に、これまで森保ジャパンがBチームを編成する時に出場する機会が多かった伊東は、所属のヘンク(ベルギー)でレギュラーをつかみ、今季はチャンピオンズリーグにも出場中。その活躍と成長が認められ、スタメンを勝ち取った格好だ。
実際、このモンゴル戦では右サイドからクロスを供給して3アシストを記録するなど、マン・オブ・ザ・マッチ級の活躍ぶりだった。もちろん相手がモンゴルだったことを加味する必要があるが、少なくとも伊東の活躍によって堂安の右ウイング固定化が崩れ始め、久保建英も含めた三つ巴のポジション争いが繰り広げられることになるはずだ。
ただし、遠藤と伊東もそうだが、基本的に永井以外はアジアカップ時のメンバーである。そういう点では、どんなに相手が格下であろうとも、公式戦では常にベストメンバーを編成するという森保監督のスタンスに変化はなく、今後もそれが変わりそうな気配はうかがえない。
2022年の本番まで約2年半、森保監督がどのようにしてチームをフレッシュな状態に保ちながら強化していくのか。引き続き注視していく必要がありそうだ。
クロス本数は過去最高を記録
そんななか、格下モンゴルに対してパーフェクトな戦いを見せた日本の攻撃には、あるひとつの特徴的な傾向があった。それが、多くのゴールに結びついたサイドからのクロスボール攻撃だ。
これまで森保ジャパンの攻撃の柱となっていたのは、攻撃のスイッチを入れる縦パスにあった。これはポストプレーを得意とする大迫を生かす戦術であると同時に、森保ジャパンの攻撃のバロメーターでもある。
しかしこの試合で1トップに入ったのは、スピードと裏への抜け出しが特徴の永井。モンゴルがディフェンシブな戦い方を選択することがわかっていただけに、注目ポイントはそこに絞られていた。
そういう意味では、この試合の傾向を、同じく永井が1トップで先発した6月9日のエルサルバドルとの親善試合と比較すると、日本の狙いと修正点が見えてくる。
まず2-0で勝利したエルサルバドル戦では、19分に冨安健洋のロングフィードから裏に抜け出した永井がDFを振り切って先制ゴールを決めると、41分には原口元気のクロスに永井が合わせて2ゴール目をマーク。縦パスをきっかけに前線のアタッカーが連動しながらフィニッシュする形ではなく、シンプルな攻撃から2度ネットを揺らしている。
その試合で日本が見せた縦パスは、前後半合わせて計46本。その一方で、サイドからのクロスは計9本だった(前半4本、後半5本)。
もっともエルサルバドル戦は、その4日前に行なわれたトリニダード・トバゴ戦同様、森保監督が開始から3バックを採用したことが最大の焦点となった試合だ。
とりわけ右ウイングバックに伊東、左ウイングバックに原口と、酒井宏樹と長友佑都が先発したトリニダード・トバゴ戦よりも攻撃的な駒を配置しながら、クロス本数が大幅減となった現象がクローズアップされた。伊東にいたっては、1本もクロスを供給できずに終わっている。
その原因のひとつとなっていたのが、大迫ではなく永井が1トップに入ったことだった。それにより、永井の特徴を生かすべく縦パスの供給が増え、サイドからのクロスボールが激減したのである。
ところが、モンゴル戦は違っていた。
この試合で日本が記録したクロスは計45本(前半23本、後半22本)と、森保ジャパン過去最高を記録。意図的にサイド攻撃を多用したことは明らかだった。なかでも4-2-3-1の右ウイングでプレーした伊東は、前半5本、後半8本と、計13本のクロスを供給し、そのうち前半の3本から3ゴールを生み出している。
逆に、モンゴル戦で日本が見せた縦パスは前後半合わせて12本のみ。しかも、ほとんどがカウンターや相手の裏のスペースを狙った縦パスで、その多くが南野拓実をターゲットにしたもの。永井が足元でくさびのパスを収めたシーンは一度もなかった。
引いて守るモンゴルの最終ラインの背後にスペースがない状況からすれば、当然の傾向だ。大迫不在のなかで、引いて守る相手に対する攻撃のアプローチとしては間違ってはいなかったことになる。
実際、この試合で日本がマークした6ゴールのうち3ゴールがクロスから生まれ、それ以外はコーナーキックから2本、ミドルシュートのこぼれ球に詰めたゴールが1本という内訳だった。
縦パスを捨て、サイドからのクロス供給をベースにした日本の攻撃が奏功した格好だ。左サイドの中島翔哉にしても、前半に6本、後半に1本と、珍しく計7本のクロスを記録したことも見逃せなかった。
ただし、モンゴルの守備ブロックはボールに食いつく選手が多いためにところどころにスペースが空きやすく、サイドからのクロスに対する対処も稚拙だった点を考慮する必要はある。普通はこれだけサイドからのクロスを入れると単調な攻撃に陥りやすいものだが、そうはならなかった。
要するに日本の攻撃を評価するより、守備戦術を整備しきれていなかったモンゴルの問題ととらえる方が妥当といえる。
プランBは守備重視型の布陣
そしてもうひとつ、エルサルバドル戦との比較で言えることは、森保ジャパンの場合、4-2-3-1のほうが3-4-2-1よりも攻撃的であるという点だ。伊東と原口を両ウイングバックに起用するよりも、右サイドに酒井と伊東、左サイドに長友と中島という2枚を縦に並べる4-2-3-1は、明らかにサイド攻撃が活性化する傾向にある。
これは、59分に3バックから4-2-3-1にシステム変更したエルサルバドル戦で見えた現象の裏付けにもなった。その時も、4-2-3-1に変更してからボール支配率が上昇し、クロス本数も増えてサイド攻撃が活性化した。
つまり森保監督のプランBである3バックは、現状、守備的に戦う時のオプションとしてとらえていいだろう。次に3バックを採用する機会がいつになるのかはわからないが、少なくとも3バック採用時の戦況と照らし合わせて、森保監督の采配をチェックする基準となる。
いずれにしても、モンゴル相手に機能したサイド攻撃を評価するのは時期尚早であり、アジア最終予選やW杯本大会で継続できなければ意味はない。悲しいかな、それがアジア2次予選の現実だ。
それを考えると、2次予選で優先すべきは、新戦力発掘のための選手起用をしながら勝ち点3を確保することではないか。現在の日本の実力と、対戦相手の実力を比べれば、そのミッションを遂行できるだけの差があるはずだ。
果たして、10月15日に予定されるアウェーでのタジキスタン戦でも、負傷欠場者以外はモンゴル戦と同じスタメンが名をつらねるのか。さすがに3バックの採用はないにしても、森保監督にはモンゴル戦の控えメンバーをなるべく多くスタメン起用する采配が望まれる。
不必要な負傷者を出さないためにも、それが得策ではないだろうか。
(集英社 Web Sportiva 10月14日掲載・加筆訂正)