Yahoo!ニュース

【解説】任天堂の決算 営業利益70%減は「ダメ」?

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:アフロ)

 任天堂の2024年度(2025年3月期)第1四半期連結決算(4~6月)が発表されました。売上高は前年同期比46.5%減の約2466億円、本業のもうけを示す営業利益は70.6減の約545億円。「ダメ出し」もある、今回の大幅な減収減益について考えてみます。

◇記事の見出しが似るのは…

 ヤフートピックスでも「任天堂の営業益が大幅減 4-6月期」などと取り上げられた通り、営業利益70%減は経営視点で見ると無視できないポイントです。そのため、どの記事の見出し、内容も似たものになります。なお当期純利益の大幅減も、同じ意味合いになります。

・任天堂4-6月営業益は7割減、前年の反動大きくスイッチ46%減(ブルームバーグ)

・任天堂の4-6月期は営業益70%減 スイッチ販売台数は46%減(ロイター)

・任天堂、「最長寿」ゆえの苦しみ 4~6月純利益55%減(日本経済新聞)

 大幅な減収減益の理由は二つあります。多くの記事で触れている通り、家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」が発売から8年目に突入し、以前のような爆発的な売り上げが見込めないこと。前年同期に大ヒットした「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(2023年5月発売、出荷数1851万本)の反動です。

 「ゼルダ」のヒットの「穴埋め」ができなかったというのは、その通りなのですが、この規模のヒットを「穴埋めするべき」というのは、ある種の無理難題でもあります。エンタメのヒットは「水もの」であり、狙って生み出して業績をコントロールできるのであれば、誰も経営に苦労しないからです。

 同時に、ゲームビジネスは5~6年周期で展開され、4年目あたりにピークを迎え、その後は右肩下がりになります。ニンテンドースイッチがピークを過ぎて8年目に突入し、減収減益ながら緩やかに推移しており、依然として高利益体質を維持しています。減収減益は避けられないのに、ここまでゲーム機のビジネスを長期にわたってひっぱることができていること。そのことのほうが「イレギュラー」と言えるのではないでしょうか。

◇営業利益率 20%台維持

 近年の四半期決算のグラフを見てみましよう。2023年10~12月までは、営業利益が30%前後で推移。そして2024年1~3月と2024年4~6月は、営業利益は20%前半にガクッと下がっています。それでも20%台の営業利益率は高く、ビジネスとしてはまだうまみがあるという判断できます。

任天堂の公式サイトに公開されている四半期の売上高、営業利益、営業利益率(折れ線)のグラフ。全体で見るとさがっているものの、依然として高い営業利益率であることが分かります。
任天堂の公式サイトに公開されている四半期の売上高、営業利益、営業利益率(折れ線)のグラフ。全体で見るとさがっているものの、依然として高い営業利益率であることが分かります。

 もう一つ、任天堂の決算説明資料には、ニンテンドーアカウントで1年間に1回以上スイッチのソフトを起動したユーザーの数「年間プレイユーザー数」というデータがあり、右肩上がりになっています。ゲーム機の売り上げは右肩下がりでも、現行機が遊ばれているのです。

任天堂の「2025年3月期第1四半期 決算説明資料」で公開された「年間プレイユーザー」。ゲーム機(ニンテンドースイッチ)の売り上げが落ちても、ゲーム機そのものを触る人は増えていることになります
任天堂の「2025年3月期第1四半期 決算説明資料」で公開された「年間プレイユーザー」。ゲーム機(ニンテンドースイッチ)の売り上げが落ちても、ゲーム機そのものを触る人は増えていることになります

 なおゲームビジネスの稼ぎ時は年末商戦ですから、今期うんぬんよりも、第3四半期(今年10~12月)の売れ行きがどうなるかがポイント。任天堂の2025年3月期の売上高予想は1兆3500億円(前年同期比19.3%減)、営業利益予想は4000億円(同38.3%減)で、この高いハードルにどこまで近づけるかです。

 なお決算短信には、ニンテンドースイッチの後継機種のことは触れられておらず、「業績予想の変更は現時点ではない」「プラットフォーム(現行機)の活性化に努める」とあります。

 営業利益の大幅減は、もちろん経営的には歓迎できないことです。しかしゲームビジネスで、それが避けられないのは前述のとおり。また企業の置かれている立場、状況、方向性でも変わります。全社員を数年食わせられる約1兆4900億円の「現金及び預金」を保有し(それとは別に6700億円の有価証券もある)、営業利益率が20%以上あることを考えると、「営業利益70%減」でも様子見レベルでしょうか。

 もちろん常時の「増収増益」を求める投資家、一部のファンからすると不満でしょうが、任天堂は「決算の数字作り」のようなことは重視しないスタンスなので、これはもう方向性の違いとしか言いようがありません。

 そしてニンテンドースイッチの後継機種の成功の確率は高いのですが、それでも成功が保証されているわけではありません。ポイントは後継機種が想定通りにいかなくても、耐えられる経営基盤を構築していること。そして業績に大きな波のあるゲーム事業で、巨額のキャッシュは心強いのです。

 今回の任天堂の決算発表を受けて、「悲報」「ダメ」などというニュアンスの書き込み、情報も見かけました。刺激的な見出し・断言で注目を集めたい気持ちは理解できますが、せめてPLやBSなどをサラッとでも読むことをお勧めする次第です。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事