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何故FENDIのはぎれを売ると書類送検されてしまうのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:アフロ)

「ダイソーが高級ブランド”FENDI”のロゴ入り“はぎれ”を無断販売?女性社員”仕入れ先から大丈夫と”」というニュースがありました。100均ショップのダイソーが販売する裁縫用のはぎれセットの中にイタリアの高級ブランドFENDIのロゴが書かれていたものがあったことで、商標権侵害の疑いにより、仕入担当のダイソー社員と企業としてのダイソーが書類送検された(逮捕ではありません)という事件です。

FENDI社(伊FENDI S.r.l)は「織物」を指定商品に含む、”FENDI”という文字商標登録(たとえば、2141386号)の権利者になっていますので、FENDIと書かれた布を業として販売することが、少なくとも形式的には商標権侵害になることに疑いの余地はありません。

冒頭の記事によると、「布はもともとFENDIが発注していたが、検品ではじかれたものが出回り、ダイソーの店で売られていたという」ということなので、まったくのパチモノというわけではなさそうですが、はぎれがFENDIの正規商品ではない以上、商標権侵害になることに変わりはありません。

考え方としてはちょっと前にあった(それ以前からもちょくちょくあった)ブランドジーンズを改造してバッグにし、商標が付された状態で販売した人が、商標権侵害により逮捕されてしまった事例と同様です(関連過去記事)。

ただ、書類送検(あるいは、逮捕)となると、単に民事上の差止めや損害賠償という話ではなく、刑事事件です。商標権侵害を刑事事件化するためには、「故意」という要件が必要です(過失商標権侵害罪といったものはありません)。今回のケースが故意にあたるかどうかは微妙だと思います。冒頭記事でも、ダイソーの社員の方は「仕入れ先から大丈夫と言われ、確認をしなかった」と述べているようで、過失はあったとしても故意とまでは言いにくいでしょう。

商標権侵害は非親告罪なので、制度的にはFENDIの告訴がなくても起訴は可能ですが、おそらくは不起訴になるのではと思います(23-03-29追記:やはり不起訴になりました)。これは想像でしかないですが、検察の運用としては海外高級ブランドの商標権侵害事件はまず立件するということなのかもしれません。また、今回のケースで言えば、はぎれを流出させたサプライヤーの方の責任が重い(FENDIとの契約違反の可能性が高いでしょう)と思われますので、そちらの捜査を進めるためにまずは書類送検という話なのかもしれません。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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