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なぜ「いい大人」がマスコットに魅了されるのか? Jリーグマスコット総選挙に寄せて

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
第1回総選挙の集合写真。センターポジションのベガッ太(仙台)は昨年も1位に輝く。

■Jリーグマスコット総選挙とは何か?

2017年のJリーグ開幕を告げるFUJI XEROX SUPER CUP(以下、ゼロックス)が、今年も2月18日に日産スタジアムで開催される。この大会は、J1のチャンピオンと天皇杯王者による対戦がメインだが、U-18Jリーグ選抜と日本高校サッカー選抜による親善試合『NEXT GENERATION MATCH』、そして『Jリーグマスコット総選挙(以下、総選挙)』を楽しみにしているファンも少なくない。このうち総選挙については、「いい大人がなぜマスコットに熱を上げているのか」と首を傾げる向きも少なくないだろう。その疑問に答えるべく、あらためてマスコットの魅力について考察してみたい。

まずは総選挙の概要から説明しよう。2013年のゼロックスからスタートし、今回で5回目を数える総選挙。今回はJ1・J2に加えて、新たにJ3のマスコットも参戦し、過去最多49体のマスコットがエントリーしている。投票方法は以下の4つ。

(1)Jリーグ公式サイト内特設ページの投票ボタンから投票

(2)事前に指定したマスコットごとのハッシュタグをつけたツイートで投票

(3)Jリーグ公式サイト内特設ページのマスコット一覧ページにおける各マスコットのFacebookいいねボタンを押して投票

(4)マスコット総選挙2017公式Instagram(@jmascot2017ig)に投稿された各マスコット画像の「いいね」で投票

なお投票については「1日1票」となっている(参照)

サッカーファンの間で、最近SNSでのマスコットに関する言及が増えたのは、上記した投票方式が影響している。かつてゼロックスは、当該チーム以外のファンの関心は、それほど高いものではなかった。だが、総選挙という新たなイベントが付加されたことで、マスコットを保有するすべてのJクラブのファンも参加意識を持てるようになった。また主催する側のJリーグも、最近はSNSによる広報戦略に力を入れており、マスコットは親和性が高いコンテンツとして活用されている。

■マーチャンダイズの発想から多様化へ

第2回総選挙を制したヴィヴィくん(長崎)。年下キャラ全開の「あざとさ」が武器。
第2回総選挙を制したヴィヴィくん(長崎)。年下キャラ全開の「あざとさ」が武器。

Jリーグのマスコットは、もともとマーチャンダイズの発想から作られた。Jリーグ開幕時(1993年)の10クラブのうち、6つのクラブのマスコットを手掛けたのがソニー・クリエイティブプロダクツ(通称、ソニクリ)という、キャラクターのライセンス事業を行う企業である。当時の関係者に取材した際、非常に興味深かったのが「購買ターゲットを女子高生に設定した」という証言。「あの当時、女子高生たちが火を点けてくれると、一気に世の中に広まっていく状況があった」というのがその理由だ。しかし一方で、「長きにわたって愛されるために、媚び過ぎないようなデザインを心がけた」とも語っている。

Jリーグのマスコットに、大きな時代の変化が起こったのは99年である。この年、J2が創設されたため、Jクラブの数はそれまでの18から一気に28に急増。加えて前年、ソニクリがJリーグのマーチャンダイズから撤退したため、新たなJクラブに関してはマスコットの扱いが「自由化」されることとなった。ここで言う「自由化」とは2つの意味がある。すなわち、ソニクリのテイストから離れたデザインが作れるようになったこと、そして「(すぐに)作らなくてもよい」という選択肢も生まれたこと。この自由化により、それまで良くも悪くも統一感が保たれていたJクラブのマスコットは、より多様性を帯びるようになったのである。

デザインの多様化と相まって、個々のマスコットのパーソナリティもまた、それぞれに幅広い特色が見られるようになっていく。Jリーグ黎明期の頃は、マスコットの着ぐるみは作ったものの、試合外の時間帯で愛想を振りまくくらいしか芸がなかった。しかしその後、マスコット同士の交流が生まれるようになると、差別化を意識した「キャラクター付け」が積極的に行われるようになる。やがてクラブ公式とは別に、独自のTwitterアカウントから発信するマスコットも相次いで登場。本格的なSNS時代の到来により、今やマスコットは「ただ可愛いだけ」では生き残れない時代を迎えている。

■マスコットが時代を超えて愛される理由

第3回総選挙で1位となったサンチェ(広島)。「プチ整形」の努力が評価された。
第3回総選挙で1位となったサンチェ(広島)。「プチ整形」の努力が評価された。

開幕当初は「女子高生がターゲットだった」というJクラブのマスコットだが、今では世代や年齢や性別を超えて愛される存在となっている。ではなぜ、いい大人までもがマスコットに魅了されているのだろうか。もちろんJクラブのサポーターの中には、マスコットに冷淡な人たちも決して皆無ではない。「勝つことが一番。マスコットなんかうぜえ!」という、試合オリエンテッドな人たちというのは、どのクラブにも一定数存在するものだ。もっともそういう人たちにしても、マイクラブのマスコットが貶められたら無条件で反発することだろう。

好き嫌いを問わず、なぜにサポーターはマスコットに反応してしまうのか。私なりの仮説(といっても確信はあるのだが)は、「マスコットはクラブ不変のアイコンだから」というものだ。クラブは生き物であり、常に新陳代謝を繰り返す。選手や監督は毎シーズンのように変わるし、フロントや社長も気がつけば入れ替わっている。クラブ名やエンブレムがリニューアルされることもあるし、親会社が変わってクラブカラーが変更されることだってある。そんな中、変わらないのはマスコットだけ。たまにマイナーチェンジする(あるいはプチ整形する)ことはあっても、熊がいきなり鳥に替わることはない。極論するなら、クラブで唯一不変のアイコンが、実はマスコットなのである。Jリーグ開幕当時に10代だった若者も、今ではわが子を連れて観戦するようになっていることだろう。往時とはスタンドの風景もクラブのフィロソフィーもかなり異なっているかもしれない。それでもマスコットだけが変わっていなかったら、深い愛情を抱くのは当然である。

最後に、個人的な経験に基づいた指摘をしておきたい。それはJリーグのマスコットは、世界的に見ても極めてクオリティが高い、ということだ。私はこれまで、さまざまな国でリーグ戦や国際試合を取材し、そのたびに異国のマスコットを撮影してきた。そこでいつも感じるのが「なぜ、この程度の完成度で許されるのだろう」という義憤を伴う違和感と、「日本のマスコットは世界的にレベルが高いんだな」という陶酔にも似た優越感である。ことマスコット(そしてスタジアムグルメ)に関しては、Jリーグは世界に誇れる文化を有していると言ってよい。そうした文化は、今後も大切にしていきたいものである。

なお、総選挙の投票締め切りは、本日(2月13日)23日59分まで。興味を抱いた方は、ぜひともこちらにアクセスして、清き一票を投じていただければ幸いである。

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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