カワサキ伝統のビッグネイキッド「ZRX1200」が20年の歴史に幕!
カワサキがついにZRX1200 DAEGの最終モデルを発表。9月15日に発売される「ZRX1200 DAEG Final Edition」を最後に20年余りの歴史に幕を閉じることになる。今回は90年代からのビッグネイキッドブームの一翼を担ったZRXについて、自分の記憶も織り交ぜて振り返ってみたいと思う。
デビューから大人気を博した「ZRX1100」
ZRX1100は1996年12月に発売されたカワサキのスポーツネイキッドモデルである。
先に発売されていたZRX400の人気を受けたスケールアップモデルとしての位置づけだが、実際のところはビッグネイキッドのブームの先駆けであったゼファー1100に続く第二の柱となるべく投入された戦略モデルである。
折しも、96年は大型二輪教習が開始された年であり、教習所で免許が取得できるようになったことから大型二輪免許取得者が増大。大型バイク市場が活況を呈したことで、各メーカーからニューモデルが相次いで発売された時期と重なる。
すでに旧車として出回りはじめた70年代~80年代初頭のカワサキを代表する大型スポーツモデルである空冷「Z」シリーズの国内でのリバイバル人気も手伝い、ZRX1100はデビューから大人気を博した。
最速マシン「ZZR1100」のパワーユニットを搭載
ZRX1100はビッグネイキッドで先行するライバル、ホンダ CB1300SFやヤマハ XJR1200などに対抗するため強力なエンジンが求められた。
そこで白羽の矢が立ったのが、当時の最速系メガスポーツ、ZZR1100に採用されていた水冷直4パワーユニット。厳密にはこれをベースにしたスポーツツアラーGPZ1100のエンジンをさらに低中速寄りの設定として搭載することで100ps/8,500rpmを実現。
ビッグネイキッドの中にあってひときわ軽量コンパクトな車体を持ち、元々余裕のある設計からチューニングによる大幅なパワーアップが見込めることもあり、当時盛んだったNKレースなどでも華々しく活躍した。
ちなみに1999年からノジマエンジニアリングが鈴鹿8耐にZRXベースのレーサーで参戦し、当時のS-NK(スーパーネイキッド)クラスでコースレコードを樹立するなど、優れたスポーツ性能を発揮した。元WGPライダーの新垣選手のアップハンをねじ伏せるような鬼気迫る走りで、フルカウルのスーパーバイク勢に追いすがる姿に鳥肌が立ったものだ。
「黄金の70年代」を”演出”したビッグネイキッド
90年代ライダーのハートをワシ掴みにしたビッグネイキッドは、ある意味で性能に偏り過ぎたレーサーレプリカに対するアンチテーゼであり、その反動としての懐古主義を具現化したものだったと言える。それ故、各メーカーともかつての名車のイメージを強く打ち出したモデルを展開していた。
CB1000SF/1300SFはCB750F、XJR1200/1300は「XJ750」、GSX1400は「GS750」といった具合に、90年代に突如湧き上がったビッグネイキッドブームは、日本メーカーが世界に躍進した黄金の70年代を彩ったライバルたちの再共演を思わせるものだった。
その中でカワサキはすでに「Z」という強力なカードを「ゼファー」で使っていたため、別の切り札が必要だった。そこで出してきた最強の隠し玉が「Z1000R」、いわゆる“ローソンレプリカ”である。
伝説のローソン・レプリカを現代的に解釈
当時のカワサキのリリースでは正式にアナウンスはされていなかったと記憶しているが、ZRX1100のビキニカウル付きの角張ったデザインは、当初から「ローレプ」を意識したものだったことは明らかである。それを決定づけたのが、発売2年目に採用されたライムグリーンカラーである。ボディーサイドを前後に貫く白紺のツインストライプまで忠実に再現され、まさに「ローレプ」の再来とファンは熱狂した。
ちなみにZ1000Rとは、のちにWGP500ccクラスで4度の世界王座に輝いた伝説的ライダー、エディ・ローソンが、1981年にAMAスーパーバイクの年間チャンピオンを獲得したことを記念して発売されたモデルである。
当時、荒ぶるZ1000を駆るローソンとCB900Fを乗りこなす若き天才、フレディ・スペンサーとの一騎打ちには胸を熱くしたものだ。彼らの戦いはその後、世界グランプリに舞台を移して続くことになる。
話しを戻して、そのZ1000Rはローソンが走らせたレーサーと同じZ1000Jをベースに同様のビキニカウル付きの外装とライムグリーンの車体色が施され、ブレーキやサスペンションなどの足回りを強化、吸排気系なども専用にチューニングされた特別仕様モデルであった。
新車当時から高価だったが、現在はその希少価値からプレミアムが付いているのは知ってのとおり。カワサキファン、特に空冷Z系マニアにとっては垂涎の的、永遠の憧れである。
排気量を拡大した「ZRX1200」へ進化。そして「DAEG」へと受け継がれた
2001年にはエンジンの排気量を拡大した新世代モデル、「ZRX1200Rへと進化。ハーフカウル付きのZRX1200Sも登場した。最高出力こそ先代と変わらないが、低中速トルクを増してより扱いやすくなったエンジンと新設計のフレーム&スイングアームの採用により、走りのポテンシャルは高められている。当時、新型で出たばかりのZRX1200Sを試乗したときの記憶としては、車体剛性がカチッとしてディメンションも熟成され、ハンドリングがよりスポーティに洗練された印象を覚えている。
その後、排ガス規制の度重なる強化に適合するためのマイナーチェンジを受けつつ、2008年モデルをもって生産終了となるものの、根強いファンの要望に応える形で復活したのが「ZRX1200 DAEG」である。
DAEG=ダエグとは、古代ヨーロッパで使われていたルーン文字で進化や発展を表すものとされる。つまり、ZRX1200Rの正常進化版ということだ。
DAEGは日本専用モデルとして開発され、最新の排ガス規制に対応すべくFI化を敢行しつつ、最高出力もシリーズ歴代最強となる110psにアップ。エンジンも熟成され、6速ミッションが与えられた。外装もよりエッジが効いたアグレッシブなデザインとなり、テールランプもLED化。タッチ感を高めた新型ブレーキキャリパーと前後ウェーブディスク、ZZR1400タイプのホイールを装備するなど、ユーザーからのニーズを丁寧に織り込んだ完成度の高いモデルとして根強い人気を誇る。
DAEGにも試乗したことがあるが、印象はまさに熟成の極み。プラス10psのパワーの余裕を含めて、FIで正確さを増したパワーデリバリーのメリットは街乗りレベルでも感じられるものだった。
有終の美を飾るのはやはり“ローレプ”をイメージした「Final Edition」
そのDAEGも発売から7年目の今年、10月より新たに適用される排ガス規制の影響を受けて生産終了。「ZRX1200 DAEG Final Edition」を最後にその長い歴史に幕を下ろす。
ファイナルエディションだが、ローソンレプリカZ1000Rのテイストを盛り込んだカラー&グラフィックに専用エンブレムとデカールを採用するなど、ラストを飾るに相応しい特別感のある仕上がりになっているようだ。
時代を代表する名車がまたひとつ、カタログから姿を消していくのは寂しい限りだが、これもまた世の流れというものだろう。ZRXに特別の思い入れがある人は後悔しないよう、是非このラストチャンスを捉えていただきたい。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。
.