就活相談4・就活後ろ倒しでどう変わる?
本当の選考時期を知る方法は?
質問:本当の選考時期を知る方法は何かありますか?
回答:インターンシップやセミナー、企業説明会などに参加するしかありません。
もし、日程が合わないようなら、電話で直接聞く、という方法もあります。
インターンシップ・セミナー参加よりも教えてくれる確率は減りますが、それでも教えてくれる企業は相当数あるでしょう。
なお、メールはアウト。
企業からすれば、メールという楽な手段を使う学生はどうもなあ、と思ってしまいます。
学生にとって心理的ハードルのある電話をかけてくる学生であれば選考に参加してほしい、と思う確率は上がります。
就活後ろ倒しは誰得?
質問:就活後ろ倒し、結局得をするのは誰ですか?
回答:得をする人はほとんどいません。
むしろ、損をする立場の人の方が多そうです。
学生で言えば、大多数が損。
何しろ、就活スケジュールがぐちゃぐちゃになるわけですから。
得をするのは、1年間以上の長期留学に参加した学生くらい。
帰国する時期が4年生6月としても、就活スケジュールには間に合うので。
ただ、こうした学生、もともと、留学経験者向け選考を実施する企業がそれなりにあって、実はそれほど影響しません。
「留学して留年すると就活に不利になりそう」と考えてしまう学生が減って留学希望者が増える効果はありそうですが、それなら就活後ろ倒しをしなくてもいいわけで。
一方、留学をするわけではない多くの学生は、のんびり構えてしまい、結果、出遅れてしまいます。
企業もスケジュールが読めない、という点では損をします。
黙っていても学生を確保できるごく少数の大企業はまだいいでしょう。
問題はそれ以外の大多数の企業です。
時期は読めない、早めに内定を出せば学生に逃げられるリスクが高い、遅く出せば欲しい学生を確保できないリスクが高い、追加募集をかけても集まらない可能性が高い、など、どっちを向いてもリスクが高くていばらの道。
大学もやはり損をします。
大学関係者は就活後ろ倒しの旗を一生懸命振っていました。
後ろ倒し実現イコール学業が阻害されなくなる、という理屈からです。
ところが、いざ、後ろ倒しが実現すると、学生がのんびり構えてしまい、学生も大学も損をする、ということがキャリアセンター職員を中心に判明してきました。
2015年1月現在、就活後ろ倒しで良くなる、と本気で思い込んでいるのは、ごく少数の教員だけ。
大学職員は表立っては「後ろ倒しで変わる」と言い張っていますが、あとで聞くと
「大声では言えませんが、後ろ倒しで大変なことになりそうです。こんなことなら3年生12月広報解禁の方が良かった」
と話す方ばかり。
まあ、黙っていてもどこかには内定が決まりそうな難関大、それに留学者の多い東京外国語大、国際教養大などは得をするかもしれませんが、全体からみればごく少数でしょう。
このほか、大学生協は書籍・リクルートスーツなどの売り上げがガタ落ち(3月広報解禁だと、そもそも春休み期間中で学生は大学に来ない)など、こちらも損。
この後ろ倒し、誰が得をするのか、と言えば、ほとんどが損をする方策、と言わざるを得ません。
17卒の就活時期はどうなる?
質問:大学2年生で2017年卒業予定です。この就活後ろ倒しがどう推移するか気になるのですが、石渡さんはどう見ていますか?
回答:私個人としてはこの後ろ倒しをすぐやめて、2015年卒と同じ「3年生12月広報解禁・4年生4月選考開始」に戻した方がまだまし、と考えます。
しかし、2015年1月現在、政府・文部科学省・日本経団連などいずれも元に戻そうという話は全くありません。
2016年卒が大混乱するのが明らかになるのが2015年9月以降。
そこから、スケジュール変更が議論されるにしても、対象となるのは早くても2018年卒からでしょう。
それと、この就活後ろ倒し、安倍内閣主導というところもポイント。
第一次内閣(2006年~2007年)のとき、教育再生会議を作り、教育関連の改革を色々進めようとしました。
ところが、教育バウチャー、秋入学制度への移行、学校選択制などは失敗。教育再生会議自体も教育の専門家が少ないこともあり、迷走したまま退陣してしまいます。
その後、ときは流れて2012年に第二次内閣が成立。ところが、第一次内閣で導入を目指していたはずの教育バウチャー、秋入学制度への移行、学校選択制などは話題にもなりません。
一方、一次内閣では目立った動きのなかった就活後ろ倒しは2013年にあっさり決まってしまいます。
ここからは、ウワサレベルの話です。第一次内閣で検討していた教育バウチャーなどの政策はハードルが高すぎることに気付いて断念。で、教育・大学関連で何かできないか、というときに話が一番早かったのが、就活後ろ倒し。
本当かどうかは不明ですが、政策の実現性を考えれば、そうかな、と。
で、安倍内閣の威信を考えればそう簡単にやめられない、という事情もあります。
安倍さん、再登板の今回は外遊や国内視察を強化するとか、色々いいこともやっているのに、この就活後ろ倒しはちょっとなあ……。
話を戻すと、つまり、2017年卒は2016年卒と公式スケジュールである「3年生3月広報解禁・4年生8月選考開始」は変わらないでしょう。
ただし、企業側は2016年卒の大混乱と公式スケジュールを守った企業がほぼ皆無であることから、一斉に後ろ倒しの逆、前倒しに動きます。
IT業界やベンチャー企業・外資系企業などは3年2月以前に選考開始、それ以外の多くの企業は3年3月または4年4月に選考開始。つまり、2015年卒採用とほぼ同じスケジュールに落ち着きます。
2017年卒業予定のあなたが就活で動き出すとすれば、3年生の10~11月ごろから。10月あたりから各企業とも秋・冬インターンシップという名のセミナーを開催。このセミナー参加者のみを対象に選考を進める可能性が高いでしょう。
もちろん、業界・企業によって時期も前後するでしょうけど、3年秋から志望業界を絞らずインターンシップ・セミナーに参加して将来を考える、という作業は必要です。
8月選考前の企業研究、間に合う?
質問:某週刊誌で「8月選考開始となったので、その前に十分な企業研究を行うことが大事」と書いてありました。これって正しいのでしょうか?
回答:結論から言えば、間違い、大外れ記事の典型です。4年生8月に選考開始と言っても、それはあくまでも公式スケジュールであり、守る企業はごく少数。
のんびり、企業研究を8月選考前にやっていたところで、ほとんどの企業は選考を終えています。
これ以外にも、就活後ろ倒しの記事を色々読むと、結構な外れ記事があります。
「後ろ倒しによって、8月は夏休みを取れない採用担当者が増えそうだ」→取材した企業に話を聞くと、そんな心配をしている企業は皆無でした。
その前に選考、内定出しが終わっているのですから心配する必要などありません。
こうした記事、書き手が大企業だけに取材をしているのか、あるいは色々な立場があって公式スケジュールに基づく話しか書けないのか、など様々な事情が私には透けて見えます。
しかし、事情を知らない学生や一般社会人からすれば信じてしまうわけで、困ったものです。
後ろ倒しを守る方法はある?
質問:就活後ろ倒し、企業も学生も守るようにするためにはどうすればいいと思いますか?
回答:一時は法律整備でどうにかなる、と考えていました。今は、そうではなく、そもそも「守る」という発想に無理があるとすら考えています。
仮に法律を作ったとしましょう。では、その法律が守られているかどうか誰が監視して誰が執行するのでしょうか?
警察? 民事不介入が原則ですし、そもそも、就活に警察が介入すべきか、という問題があります。
ハローワーク? 労働基準監督署? どちらも、現状の仕事で手一杯で就活の監視などそもそも無理。
経団連などの経済団体? 当の加盟企業からして守っているかどうか怪しいですし、そもそも経済団体に法律の執行を任せること自体がおかしいです。
まあ、警察にしろ、労働監督基準署にしろ、新たな取り締まり組織を設立するにしろ、どこかの組織に任せたとしましょう。
ところが、今度はどこからどこまでがアウトとなるセミナーで、どこからどこまでがセーフとなるのか、線引きが大変です。
学生と社会人の接触を禁止するにしても、そのような法律は日本国憲法第21条(集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する)に抵触するので憲法改正をしない限り無理。
憲法まで持ち出さなくても、企業側が「学生と個人的に会っていた」「学生団体が主催のイベントに招かれた」「ビジネスコンテストを実施してそれに学生が参加しただけ」など、言い逃れる方法はいくらでもあります。なお、ここで挙げた例は過去の就活後ろ倒し論議、あるいは2015年現在、実際にあったものです。
そうしたものを含めて取り締まるにしても、莫大な予算が必要です。
そうですねえ、労働基準監督官が約3200人。ただし、現状(労働者1万人当たり0.5人)は適正でなく、その倍は必要、とILOは述べています。ちなみにドイツは約6300人。
ここからフェルミ推定で考えると、5000人規模の公務員組織と施設、予算。公務員の平均年収が633万円ですから、人件費だけで316億円。これに施設、施設運営費、諸経費などを考えれば最低でも500億円。
そこまでして、取り締まりが可能かどうか、怪しいものです。
500億円使っても効果は見込めないのなら、2015年卒と同じく、「3年生12月広報解禁・4年生4月選考開始」「ただし、法律で固めない。守らない企業があっても黙認する」という緩やかな方策の方がまだまし、と私は考えます。
※『300円就活 準備編』(角川書店 電子書籍)より引用