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コロナ第2波の闘い始まる 英イングランドでは7人以上の集まりを禁止 罰金は最大44万円

木村正人在英国際ジャーナリスト
新型コロナウイルスの流行を的確に把握するためPCR検査の実施能力を拡大させた英国(写真:ロイター/アフロ)

英国の1日の新規感染者数は2948人に

[ロンドン発]経済を再開させるため外食すれば代金は半額(上限は1人10ポンド)という「Eat Out(イート・アウト)」キャンペーンを実施したイギリスで1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が9月7日、2948人に達し、危機感が高まっています。

このため14日からイングランドでは学校や職場、結婚式、葬式、チームスポーツを除いて原則7人以上の集まりは禁止されます。違反すれば100ポンド(約1万3700円)の罰金。警察の指示に従わず違反を繰り返すと最大3200ポンド(約44万円)の罰金が科せられます。

英政府は感染が拡大している国からの渡航者には2週間の自己隔離を求めているほか、イングランド北部の都市ボルトンなどで都市封鎖(ロックダウン)を実施。ハイリスクの国や地域ごとに選択的な公衆衛生的介入措置をとっています。

経済に致命的な打撃を与える全国一律の都市封鎖を避けながら新型コロナウイルスの再生産数を「1」未満に抑え、インフルエンザの流行などで病院や診療所がパンク寸前になる冬が訪れる前に感染の再拡大を鎮静化するのが狙いです。

ピーク時の5488人に比べると新規感染者数はまだ少ないとは言え、5月22日の2988件以来、最も多くなりました。人の交流や接触回数が増えれば感染は拡大します。

感染者は増えても入院患者は増えず

英政府が公開しているデータから日々の感染者数、入院患者数、死者数、PCR検査の実施件数のグラフをまとめてみました。

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1日当たりの新規入院患者数は124人。現在入院しているのは756人で人工呼吸器につながれているのは69人。1日当たりの新規死者数は3人にとどまっています。感染者数は増えても重症化する患者が非常に少なくなっていることが分かります。

3月21日時点で1日6127件しか実施する能力がなかったPCR検査が今では1日36万9937件にまで拡大。連日15万~20万件にのぼる大量のPCR検査を実施し、無症状者による「ステルス感染」を見える化して感染状況をより的確に把握できるようになりました。

新規感染者の約3割は重症化しにくい若者、特に17~21歳の感染者数が顕著に増加していることが、幸いにも感染が拡大しても入院患者や死者が増えない一因です。

英専門家「指数関数的な成長期に移行しているようだ」

しかし1人の感染者から何人の感染者にうつるかを示す再生産数が「1」を超える地域もあるため、楽観は禁物です。英イースト・アングリア大学のポール・ハンター教授(疫学・公衆衛生)は6日、次のように述べています。

「幸いにも新型コロナウイルスが原因で日々報告されている死亡数は非常に低く、7日間の移動平均では1日当たり7人の死亡です。しかし残念ながらイギリスでの流行は指数関数的な成長期に移行しているように見え始めており、今後数週間でさらに増加する恐れがあります」

イギリスはコロナの死者を陽性確定から28日以内と限定しています。死者は計4万1586人。罹患率を10%とした場合、例年より死者がどれだけ多いかを示す超過死亡は7万人に達すると推定されており、このうち95%は70歳以上か基礎疾患のある人です(英医療データリサーチ)。

欧州最大の被害を出したイギリスは当初、発症者から感染することを前提にしたインフルエンザ対策を踏襲しました。発症者を追跡すれば感染の拡大をコントロールできると思い込み、都市封鎖の発動が1週間遅れたことで感染爆発の抑制に失敗したと批判されました。

6月8日にイギリスに到着した人全員に2週間の自己隔離を求めるまで入国制限を実施しなかったことも感染を拡大させました。7月10日にはホリデーが解禁され、ドイツ、イタリア、日本など59カ国から帰国しても2週間の自己隔離が必要でなくなりました。

しかし第2波を防ぐため感染が再拡大するスペイン、ポルトガル、ギリシャ、フランスへの渡航には再び制限が課せられています。

大規模な治療薬のランダム化比較試験を実施

科学者とメディアをつなぐサイエンス・メディア・センター(SMC)の責任者フィオナ・フォックス氏は筆者にこう語ります。

「1年経ってみないと英政府の対応が間違っていたかどうかは分かりません。しかし1つだけ明らかなのはPCR検査の実施能力が限られていたことです。このためイギリスは当初、病院内や高齢者介護施設での検査を優先して地域の検査をあきらめざるを得ませんでした」

「感染がどのように広がっているのかつかめませんでした。中国湖北省武漢市からの渡航者には2週間自己隔離を求めたのに、イタリアやスペインからの渡航者には規制がありませんでした」

「都市封鎖を1週間早く実施しておけば犠牲者は半分以上減らせたという指摘もあります。しかし都市封鎖は英国民には受け入れられないという危惧が政治家にも科学者にもありました。主席医務官も非常に厳格な都市封鎖になるのですぐに実施したくないと発言していました」

「大きな犠牲を出したものの、よくやったのは十分な患者を対象にリカバリートライアル、治療薬に対するランダム化比較試験を実施し、重症患者にはステロイド系抗炎症薬の一つ、デキサメタゾンが効くことが分かりました」

フォックス氏は「今は誰が悪かったかと議論するより冬に医療崩壊が起きないよう全力を尽くすことです」と強調します。

失敗から学んだ国が最後には救われる

インフルエンザと新型コロナウイルスの大きな違いの一つは無症状者からの感染があるかどうかです。インフルエンザでは結論は出ていませんが、新型コロナウイルスでは無症状者からの感染が確認されています。世界がPCR検査の実施能力を拡大させているのはこのためです。

1日の新規感染者数が9000人近くに激増し、第2波の山が第1波を上回ったフランスでも死者数は目立って増えていないものの、1週間に100万件のPCR検査を目標にしています。コロナ対策はマラソンレースです。失敗から学んだ国が最後に救われる可能性はまだ残されています。

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(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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