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入管は国内最大の「ヘイト団体」―収容施設での死亡事件、恐るべき実例の数々

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
入管法の「改正」ならぬ改悪に反対する弁護士達のデモ 筆者撮影

 名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)が、先月、死亡した問題で、出入国在留管理庁(入管)での収容施設での人権侵害に注目が集まっている。犠牲となったのは、ウィシュマさんだけではなく、全国難民弁護団連絡会議(全難連)の調べでは確認できただけで、過去24人が入管の収容施設内か送還中に死亡しているというのだ。難民、移民の受け入れについては、日本の市民の間でも様々な意見があるだろう。ただ、一つ確実なことは、どんな理由、立場であるにせよ、入管の収容施設に拘束している被収容者の命と健康に対し責任があるのは、あくまで入管であるということだ。当たり前であるが虐待はしてはならないし、死なせてしまうなど論外なのである。今回の定期購読記事では、その詳細が明らかになっている事案を紹介していく。収容施設の中にいるというだけで、人権が蹂躙され命さえ奪われるようなことは、もう繰り返されるべきではない。

○2019年6月 大村入管センター ナイジェリア人男性の死亡事件

 長崎県大村市にある入管の収容施設「大村入国管理センター」で2019年6月、収容中だった40代のナイジェリア人男性が死亡。死因は「餓死」だった。「サニーさん」と呼ばれていた男性は、日本人女性と結婚し、子どももいたが、在留資格を得られず、2015年11月に収容された。日本に家族がいることを理由に帰国を拒み、3年7ヶ月にわたり、長期収容されていたのだという(西日本新聞2019年07月18日付の記事による)。サニーさんは弁護士を通じて4度仮放免(就労しない等、一定の条件の下で収容施設から解放されること)を申請していたが、いずれも認められなかったのだという。入管の調査報告書によれば、2019年5月末頃から、サニーさんは食事を取らなくなり、同6月5日から点滴も拒否するようになった。さらに水分を取ることすら少なくなり、6月18日以降は、ほぼ寝たきりの状態だったのだという。同月24日の午後1時に入管職員が異変に気づき肩を叩くなどしながら呼びかけたが反応がなく、救急車で外部の病院に搬送され、同日2時11分、死亡が確認された。同25日に司法解剖が行われ、死因は餓死とされた。身長171センチに対し、体重はわずか46.6キロまでに減少していたのだという。報告書によれば、入管側はサニーさんの体調の悪化を懸念していたが、「患者の意志を無視した強制的な治療は許されない」(世界医師リスボン宣言)との考えから、積極的な治療は行わなかったとしている。本件についての入管の調査報告は今後の改善策として「拒食の防止と早期の終了に向けた説得、カウンセリングの実施」等を挙げたものの、結局のところ、「大村入国管理センターの対応は問題ない」とするものであった。

 そもそも、サニーさんがなぜ食事を取らなくなったかについては、ハンガーストライキを行っていたという可能性が高いが、入管の報告書では明言はされてない。ただ、食事を取るよう進められた際に「私は自由がほしい」と言っていたことから、ハンガーストライキか、それとも長期の収容によるストレスによる拒食であることが考えられる。入管の報告書によると、4回目の仮放免の不許可が2019年6月であり、サニーさんが拒食を始めた要因として、やはり長期収容があると見るべきだろう。仮放免が許可されなかった理由として、入管の報告書はサニーさんが窃盗等の犯罪歴があったからだとしている。これは入管が仮放免を認めるか否かの要件の一つではあるが、犯罪抑止という目的で無期限に収容を続けることは、国内法・国際法に抵触しうる「予防拘禁」だという主張もある。過去に犯罪を犯したとしても、刑法に定められた刑罰を科された後は、それ以上の刑罰を加える二重処罰は日本国憲法第39上でも禁止されている。また、2018年に採択され日本も支持した国連文書「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」では、在留資格のない外国人の収容は「最後の手段」とされ、代替措置を取ることが推奨されている。つまり、入管の収容及び仮放免の規定が憲法や国際法に反しているのであり、サニーさんが餓死するまで仮放免を認めなかったこと自体に問題があることは、入管の調査報告書では言及されていない。

 サニーさんの死をきっかけに、法務省及び入管は「長期収容の解消」を掲げ、入管法の「改正」案を今国会に提出したが、同「改正」案は、収容期間に上限を設定していないこと、収容に際し裁判所等の第三者機関による速やかな判断、救済措置がなく、入管がほぼ独占的な権限を持たせたままであることについて、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会や国連特別報告者達が「国際人権規約に反する」との異例の声明を公表している。また、「長期収容の解消」のため、難民認定申請中でも強制送還できる例外規定を設けることや送還を拒否した場合に刑事罰を科すことが、入管法「改正」案には盛り込まれているが、これらも上述の声明や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解で批判されているものだ。

○2014年3月 東日本入国管理センターでの被収容者の連続死亡事件

 今年3月の名古屋入管でのウィシュマさんが死亡した事件では、彼女が体調の悪化を今年1月の時点で訴えていたにもかかわらず、治療らしい治療を受けらなかったことが、痛ましい結果を招いたと言えるだろう。入管の収容施設の医療環境の悪さは、2010年の時点で移住者の人権に関する国連の特別報告者ホルヘ・ブスタマンテ氏からも指摘されていたことであった。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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