Yahoo!ニュース

WHOがゲームを中毒病リストに追加、そのうちスマホも?真っ白なカフェで考えることとは

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
オークランドのカフェで見かけた「デバイスを使うな」のサイン(筆者撮影)

退廃的な雰囲気から少しずつ変貌を遂げようとしていて、でもまだやっぱり雰囲気の悪いサンフランシスコ対岸の港町、ウエストオークランドにあるカフェ「トラブルコーヒー」の2号店。ここには、サンフランシスコ・サンセットの1号店と同じサインがあります。

No use of electronic devices

レトロなタイプフェイスには、とてもモダンなメッセージが込められていました。

というのも、2018年に入ってから、シリコンバレーは「テクノロジーの使いすぎ」に対していかに立ち向かうかというテーマが、トレンドの中心になっているからです。

Google、Appleは、相次いで、秋に公開するスマートフォン向けの新ソフトウェア、Android PとiOS 12に、使っている人がどれだけスマートフォンを見ているか、どんなアプリに何時間費やしているのかを可視化し、場合によっては1日のアプリの使用時間を制限する機能を取り入れました。

この話は「ゲームは1日1時間」という子どもの頃の親とのルールを思い出させます。当時「ゲームをすると馬鹿になる」という、今思えば非常に疑わしい「言いがかり」を振りかざし、ゲームの時間を決めていました。馬鹿になるかどうかは別として、結果的に、ゲームに限らず節度を持って時間を過ごすことを身につけられた点、また1時間に全神経を傾ける集中力を養えた点で、「良い習慣だった」とふりかえることができます。

しかし、そうして育ってきた大人である筆者が、自分自身に対して再び、ゲームではなくスマートフォンの使い過ぎへの対処を行わなければならなくなっている点は、非常に複雑な心境になってきます。正直なところ、前述のような自分の使用状態を可視化するツールがなければ、自分でも、1日に何時間スマホを見ているのかわからないわけですから、現状では「スマホを見ない」と意識するほかないわけです。

最近、世界保健機関(WHO)は、ゲームを、ギャンブルなどと同じような中毒病に加えました。このままだと、スマートフォンの使いすぎも「病気」のリストに加えられてしまうかもしれません。

https://www.engadget.com/2018/06/18/the-who-officially-puts-gaming-on-its-list-of-addictions/

GoogleもAppleも、それぞれ20億台、10億台のアクティブデバイスを抱え、デバイス本体やサービス使用、アプリの売り上げなど収益を上げる手段になっています。そんな大切なユーザーのスマホ利用時間を減らす方法を用意したわけで、ビジネス上大胆な「身を切る」姿勢を見せ、今後さらに巻き起こるであろう批判に先手を打ったように見えます。

Appleについては、このスマホ中毒対策が今年のトレンドに設定されるきっかけとなった主要な株主2者からの公開書簡もあり、対策を採らないわけには行かなかった、という事情もありました。スティーブ・ジョブズ時代の有名なキャッチコピーを捩ったのは、ジョブズがこどもにテクノロジーを与えなかったことにも関係しているのでしょうか。

https://thinkdifferentlyaboutkids.com

もちろん、ゲームはやめられるかもしれませんが、スマホは現代生活において、そう簡単にやめられるモノではありません。わりと多くのことがスマートフォンを前提にした仕組みに切り替わりつつあるからです。

そのため、適度な関係を自分で考えたり、カウンセリングを受けたり、子どもの場合は家族で話し合ってルール化し、そのルールが守れる仕組みを活用することが大切でしょう。

オークランドにあるトラブルコーヒーの真っ白な空間(筆者撮影)
オークランドにあるトラブルコーヒーの真っ白な空間(筆者撮影)

話をウエストオークランドのトラブルコーヒーにもどします。

サンフランシスコのコーヒースタンドとは違い、オークランドのカフェには広々とした空間があります。しかも、床・壁・天井が全て白く塗られている無の空間。外がちょっと曇っていれば、カラーなのに白黒写真を撮ったような仕上がりになるほど白い情景です。

こうした空間とデバイスを使うなというサインは、目の前にいる人やコーヒーに向き合う時間を作ってはどうか、という提案にも思えます。生活の中でスマホを触らない時間や空間を「聖域」として設けて、生活の中に取り入れられるようにする、という場は、街の機能として今後注目を集めていくかもしれません。

しかしながら、私自身、そのサインと白い空間をiPhoneで撮影しているわけで、若干申し訳ない気分になってきます。

ただ、今一度、1枚目の写真をよく見て下さい。

お店のカウンターの上には、iPadが仕込まれたSquareスタンドがあるのが見えます。iPadをレジにしてカード決済への対応や売り上げ管理をすることは、スモールビジネスでは当たり前の話。お店の人も、お客さんが来る度に、使うなと張り紙をしている「Electronic Device」を使わざるを得ないのです。

このことからも、我々がスマートフォンやタブレットから逃げられない、前提とした生活のバランスをとる必要性を感じることができます。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

松村太郎の「情報通信文化論」

税込330円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

松村太郎の最近の記事