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「下手すれば死刑」金正恩、カメラ前で“禁断の行為”の現場写真

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮の金正恩総書記は、「戦術核攻撃潜水艦」の進水式に参加した。国営の朝鮮中央テレビはその様子を大きく報じた。

 映像には、白い服を着た崔善姫(チェ・ソニ)外相が、潜水艦の船体にシャンパンを瓶ごとぶつけて割り、その後に金正恩氏と共に立つ様子が収められている(下の写真)。一見よくある進水式の光景だが、これが国民の間で話題となっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

「進水式のことが市民の間で話題になっている」と伝えた羅先(ラソン)の情報筋は、その理由をこのように説明した。

「当局が厳しく統制し処罰する『迷信』に基づいた儀式を、金正恩氏が参加した潜水艦進水式で行ったから」

 北朝鮮で「迷信行為」は、刑法で懲役7年以下、反動思想文化排撃法で懲役10年以下の刑と定められており、運が悪ければ死刑にもなる。実際、過去に占い師やキリスト教信者が処刑された事例がいくつもある。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 このシャンパンの儀式だが、起源は古代ギリシャにまで遡るようだ。当時、進水式の参加者はオリーブの枝を頭に巻き、ワインを飲んで、祝福の象徴として船に水をかけるという儀式を行っていた。

 また、その後のキリスト教国でも船の洗礼の意味を込めて、聖水をかけたり、ワインを一口飲んで残りを船にかけたりする儀式を行っていた。それが17世紀後半のイギリスで、船首で瓶を割る習慣へと変わった。この役割は、女性が担うことになっている。

潜水艦にシャンパンをかける崔善姫氏とそれを見守る金正恩氏ら(朝鮮中央通信)
潜水艦にシャンパンをかける崔善姫氏とそれを見守る金正恩氏ら(朝鮮中央通信)

 北朝鮮でも、漁師が漁船の進水式のときに、豚の頭など様々な料理を用意して、拝んで船に酒をかける「コスレ」という儀式を行うが、当局はこれを迷信だとして取り締まっているため、漁師たちは夜中や明け方に密かに行っている。

 ところが、崔善姫氏が金正恩氏の門前で「コスレ」をしているのをテレビで見た人々は、非常にびっくりして、「今後は、漁師も住民も『コスレ』をコッソリやらなくてもよくなった」と言って、当局のダブスタぶりを非難した。

 咸鏡北道(ハムギョンブクト)の別の情報筋も、現地住民が潜水式の「コスレ」を見て非常に驚いたと伝えている。

「今まで貿易船や軍艦の進水式で、航海の安全を願ってこのような儀式が行われてきたのかは分からないが、少なくとも船に酒瓶をぶつけて割る儀式をテレビや新聞では見たことがない」(情報筋)

 迷信を信じるな、迷信行為を行うなと口うるさい当局が、自分たちは潜水艦の進水式で迷信行為を行っているのは矛盾だとして、人々は「将軍様(金正恩氏)も迷信を信じているのか?」「将軍様の前で迷信行為をしてもいいとか?」などと皮肉っている。

 金正恩氏が、儀式に込められた意味を知っていたのかは定かでないが、少なくとも地方政府の幹部の中に、占い師のところに通うなど、迷信行為を行う者がいることは、誰でも知っているだろう。幹部の言行不一致は何ら珍しいことではないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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