上木原弘修・横尾俊成・後藤寛勝 『18歳からの選択-社会に出る前に考えておきたい20のこと』書評
上木原弘修・横尾俊成・後藤寛勝 『18歳からの選択-社会に出る前に考えておきたい20のこと』(フィルムアート社、2016年)
著者のお一人、横尾俊成さんからいただきました。ありがとうございました。
先日、松田薫さんの著書の書評でも書いたように、投票年齢の引き下げを受けて、最近、「18歳からの」「誰でもわかる」タイプの政治入門、選挙入門書籍が多数出版されています。仕事ですから、いろいろ手にとってみました。
松田馨著『残念な政治家を選ばない技術 「選挙リテラシー入門」』(光文社)書評
http://ryosukenishida.blogspot.com/2016/07/blog-post_7.html?spref=tw
その多くは投票率の低さ、とくに20代の低さを嘆きつつ、投票年齢の引き下げが歴史的なものだったこと、人口構成で見ると年長世代が圧倒的に多いこと、大人も別に政治のことなどそんなによくわかっていないので気軽に投票に行けば良いことなどを述べたあとに、とりあえず投票にいってみよう、という論旨で展開されます。加えて、それだけだと分量が足りないからか、政治家たちに話を聞いてみたり、あとは左右ともに思想的なスパイスをふりかけてみたりといったところでしょうか。どれもとってもよく似ています。果たして、これらの本は売れるのでしょうか。しかし類書がこれだけ出るということはもしかすると少しは売れるのかもしれませんし、社会的なイベントにはなにかしら本を出版して万が一売れるときの可能性に備えるというのが出版社の投資戦略なのかもしれません。いずれにせよ、あまり書いた本がバカ売れしたことがないので、その辺のことはちょっとよくわからないというほかありません。
「これから政治を勉強したい」とか「選挙や政治に関心を持った」人が読むべき本は定番の古典も含めていろいろありますが(というより、山のようにありますが)、そうではなくて、「選挙も近いし、どっちでもいいんだけど、せっかくだし、ちょっとオトナの教養として何か手にとってみるか」そんな気分の、意識高いとまではいかないが、普通の、常識的にちょっとは社会のことを気にかけてみた若い人や、若い人に限らず年長世代も含めた生活者が読むべき政治入門、選挙入門の本を選ぶのはとてもむずかしいのが実情だと思います。
少々、というよりずいぶん前置きが長くなってしまいましたが、そんな類書が並ぶなかで、松田さんの書籍と並んで、オススメなのが本書です。本書がちょっと他の類書と異なるのは、必ずしも選挙や政治にフォーカスした書籍ではないからです。おそらく書店では類書とまとめて並べられるので、選挙入門本と思われ、あまり気づかれない可能性がありますが、本書の題名には、選挙や政治、民主主義といった定番のフレーズが入っていないのですね。本書の題目は、「選択」「社会に出る前に考えておきたいこと」とされています。いや、タイトルだけじゃないか、という気もしますが、本書で取り上げられるのは、地域コミュニティやLGBTも含めて、いわゆる広義の政治的、社会的事象の解説にページが割かれています。これがなかなかわかりやすいわけです。ぼくの考えでは、本書は、高校で多くの人が受けたのではないかと思われる、「現代社会」の最新版+18歳選挙権解説だといえると思います。参院選は盛り上がっていないし、政治家もなにか胡散臭い。デモや反安倍もいいけど、もう少し落ち着いて社会のことから考えたい。そんな人におススメです。あと、大学受験やAO入試対策、小論文対策として、なんなら理工系大学をはじめあまり社会の問題に自身がないかもしれない、そんな人たちの就活対策のはじめの一歩としてもおススメできる一冊に仕上がっています。もちろん選挙や政治についても、著書のお一人、横尾俊成さんは現役の地方議員(無所属)ですから、その点も問題なしです。投開票日前日ですが、今から少し大きめの書店に走っても良いかもしれません。