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能登半島の地震や津波、火災で権利証を失った…土地や建物の所有権はどうなる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 能登半島沖を震源とする地震やこれに伴う津波、火災で自宅の権利証を失い、土地や建物の所有権はどうなってしまうのかと不安を抱いている被災者も多いのではないか。法律には救済策が用意されているので、安心してほしい。

所有権は失わない

 権利証は登記済証とも呼ばれ、不動産の売買などに伴う登記に際し、法務局から登記名義人に交付されたものだ。制度改正が行われた2005年以降は、12桁の英数字などからなる登記識別情報が通知されている。これらは失くすと再発行されないが、権利関係などについては次のように取り扱われることになっている。

(1) 権利証などを失っても、土地や建物の所有権まで失うことはない
(2) 権利証などがなくても、相続できるし、所有者は土地や建物を売却したり、担保を設定したりできる
(3) 権利証などを拾った第三者が悪用しようとしても、それだけでは登記名義は移転できない
(4) 不安であれば、あらかじめ法務局に申し出ておくことで、不正な登記を防止できる

 これは、権利証などが単に登記手続固有の本人確認手段にすぎないからだ。法務局が管理する登記簿には土地の地番や面積、所有者の氏名・住所などが記載されているから、これに基づいて自らの所有権を主張できる。売買などを行いたいときは、法務局に事情を説明し、本人あてに「事前通知書」と呼ばれる書類を送付してもらえばよい。必要事項を記載して返送し、受理されれば、所有者の本人確認が済んだということになる。

 また、実際に登記を移転するには、登記名義人の実印のほか、印鑑登録証明書といった別の本人確認書類も必要だから、(3)のとおり第三者が権利証などを簡単に悪用できないような仕組みとなっている。もし所有者自身が実印や印鑑登録カードまで失っていれば、新たに別の印鑑で登録印の変更手続をとればよい。

 それでも不正な登記が行われる差し迫った危険があるようなら、(4)の制度も使える。避難所にいて本人が法務局に出頭できなくても、代理人による手続が可能だ。申し出から3か月以内に何らかの登記申請があればその段階で通知されるので、身に覚えのない登記を未然に防げる。さらには、登記識別情報そのものの失効を申し出ることで、その番号を無効にすることも可能だ。

無料相談の活用を

 ただ、こうした手続には専門的な知識や経験を要する。被災者には、弁護士会や司法書士会などの専門家が電話による無料相談などの形で支援してくれることになっている。専用の受付窓口を設けており、例えば次のようなものだ。

【金沢弁護士会】
 電話番号 080-8995-9483
 受付時間 平日10時~16時(12時~13時を除く)
【日本司法支援センター法テラス】
 電話番号 0120-078309
 受付時間 平日9時~21時、土曜9時~17時
【石川県司法書士会】
 電話番号 076-292-8133
 受付時間 平日10時~16時
【日本司法書士会連合会】
 電話番号 0120-315199
 受付時間 17時~20時(土日祝日を含む・6月30日まで)

 富山県弁護士会や新潟県弁護士会など、ほかの被災県でも県内の被災者向けに同様の受付窓口が設置されている。被災者は、土地や建物の問題に限らず、何か法的な困りごとや心配ごとがあれば、遠慮なくこうした無料相談を活用してもらいたい。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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