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自社の主催棋戦「碁聖戦」の挑戦者となった新聞記者囲碁棋士・一力遼八段とは

内藤由起子囲碁観戦記者・囲碁ライター
碁聖張戦を決めた一力遼八段=2020年6月29日、日本棋院、筆者撮影

碁聖戦挑戦者決定戦が6月29日に打たれ、一力遼八段が前名人の張栩九段に勝って、羽根直樹碁聖への挑戦権を得た。

「碁聖は自分にとって思い入れの強い棋戦で、挑戦者になれて光栄です」と一力八段。

棋士と記者。異色の存在

一力八段といえば、13歳でプロ入りし、NHK杯や阿含・桐山杯、アンダー20の世界戦で優勝した経験もある有望な若手棋士。芝野虎丸三冠(名人、王座、十段)、許家元八段とともに「令和三羽烏」と呼ばれ、次代を担う逸材として期待されている。

一方、今春、早稲田大学を卒業して河北新報社に入社した。

大学に行くだけでも一流棋士としては極めて珍しい(囲碁のタイトル経験者のほとんどが中卒の学歴)のに、会社員となるのは前例がない。

東京支社編集局に配属となり、記者と棋士の二足のわらじで活躍する異色の存在だ。

一力八段は「河北新報社」創業家・一力雅彦社長のひとりっ子。家業を継ぐのは既定路線だったようだ。

碁聖戦は新聞囲碁連盟主催の囲碁棋戦。新聞囲碁連盟には京都新聞や沖縄タイムスなど13社加盟しており、その中には河北新報社もある。

新聞記者が、自身の所属する会社が主催する棋戦の挑戦者になったのは、初めてのことだ。

真面目で努力家の好青年

一力八段を一言で表現すれば、「好青年」がぴったりだろう。真面目で努力家。

時間があれば棋士控室にやってきて熱心に碁を見たり検討をしたり。碁が大好きだということが、伝わってくる。

詰碁研究会では、ほとんどトップの成績を取っているという。

「小学3年生のとき、初めて道場に来ましたが、そのときから敬語が使え、礼儀正しかった。はきはきと話し、賢い子だという印象です」と、一力八段が修業した「洪道場」を主宰する洪清泉四段は振り返る。

何事にも一生懸命であるがゆえ、学業にも手を抜かなかった。

挑戦手合と試験の日程が重なったときには、調整に苦労し、日程も過密になり大変だったという。

師匠の宋光復九段も、道場の洪清泉四段も、その学業に使った時間を囲碁に向けていたらもっともっとすごい活躍をしていたはずだ、もったいないと思っていた。

今度こそタイトルを

これまで19歳のときから七大タイトルに5回挑戦したが、すべて井山裕太三冠に退けられてきた

その間に、洪道場の後輩である芝野虎丸三冠にタイトル獲得で遅れを取ってしまった

今回の碁聖戦には並々ならぬ決意で臨んでいることだろう。

他の棋士が驚くほど、最近の一力八段はAIとの一致率の高い碁を打っている。スキがない戦いぶりで、内容も充実している。

熱戦が期待される羽根直樹碁聖との五番勝負は、7月18日に開幕する。

囲碁観戦記者・囲碁ライター

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等にレギュラー出演。著書に『井山裕太の碁 AI時代の新しい定石』(池田書店)『囲碁ライバル物語』(マイナビ出版)、『井山裕太の碁 強くなる考え方』(池田書店)、『それも一局 弟子たちが語る「木谷道場」のおしえ』(水曜社)等。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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