男子ラグビー 「家族が支えてくれた」金メダル!フィジーがオリンピック連覇を達成
東京スタジアムで7月26日〜28日にかけて行われた、東京五輪の男子ラグビー(セブンズ=7人制ラグビー)は前回大会王者フィジーが、同じく優勝候補のニュージーランド(NZ)を決勝で27ー12で下し、リオデジャネイロ五輪から2大会連続の金メダルを獲得して、幕を閉じた。
◆予選プールは大きな波乱なし
それでは3日間で行われた大会を振り返っていきたい。
大会1日目と2日目の午前中に4チームずつ3つの組で行われた予選プールでは、フィジー、NZ、南アフリカが3連勝を飾った。
前回大会・銀メダルの英国、強豪アメリカ、大会前の国際大会で優勝し好調なアルゼンチンも2勝1敗で8強入り。各プールの3位のうちオーストラリア、カナダがトーナメントへ進出した。カナダは初日に2連敗を喫したが、プール最終の日本戦で快勝し準々決勝へ滑り込んだ。
◆6人のアルゼンチンが南アフリカを下して4強入り
大会2日目の午後に行われた準々決勝ではフィジーはオーストラリアを19-0、NZはカナダを21-10で下し、順当に準決勝へ駒を進めた。
ペリー・ベーカー、カーリン・アイルズらスター選手を擁し初のメダルを狙うアメリカと、2大会連続でメダル獲得を目指す英国との一戦は、前半3トライでアメリカがリードするが、後半になって英国が一気に巻き返し26-21で逆転勝ちした。
前回大会銅メダルの南アフリカは、アルゼンチンと対戦した。南アフリカが先制した後、3分、アルゼンチンの中軸のガストン・レボルがレッドカードで一発退場。6人になったアルゼンチンだが、21歳のマルコス・モネタが活躍し3トライを重ねて突き放し、19-14で初のベスト4進出を果たした。
優勝候補の一角と目された南アフリカだったが、リオ大会の銅メダルメンバーの多くが15人制に転向したことや、日本に入国時の飛行機でコロナ感染者が出た影響が響いた。またニール・パウエル監督が新型コロナの陽性で事前合宿地の鹿児島に一人残されるなど、大会直前に十分な調整ができず、5位に終わった。
◆アルゼンチンが英国を倒して初の銅メダルを獲得!
大会3日目に行われた準決勝はNZ対英国、アルゼンチン対フィジーとなった。予選プールでは安定したパフォーマンスを見せていた英国だったが、ベテランが多かった影響か7-29とNZに力負けして、前回大会から続いてのファイナル進出はかなわなかった。南アフリカを撃破したアルゼンチンも、やはりフィジーの壁は厚く、14-26と敗戦し3位決定戦に回った。
アルゼンチン対英国による3位決定戦は、開始早々に新鋭ベン・ハリスのトライで英国が先制したが、アルゼンチンもトライ王となった21歳のマルコス・モネタらの活躍で逆転し、後半追い上げる英国を振り切って17-12で勝利。セブンズのW杯では2001年は3位、2009年は2位だったが、オリンピックでは嬉しい初の銅メダル獲得となった。
アルゼンチンは、同国7人制代表のレジェンド、サンチャゴ・ゴメス・コラHCが2013年から指揮を執り、強化を続けてきた。キャプテンのサンチャゴ・アルバレスやマティアス・オサドチュクといった国際舞台の経験値の高い選手に加え、2018年ユース五輪金メダルメンバーのマルコス・モネタ、ルシオ・シンティ、イグナシオ・メンディと若い選手を融合させてチームを作り上げた。
昨年はコロナ禍で海外遠征もかなわない中、若手選手たちは15人制代表のトレーニングに参加させるなど環境を整備し、今年に入ってからは3月にスペインで行われた大会に参加し、6月末にアメリカで行われた大会ではアメリカを下して優勝するなど、上手くピークをオリンピックに合わせ、下馬評通りの実力を本番で発揮し、長い強化が実を結んだ形となった。
◆決勝戦は前回大会王者と2018年セブンズW杯王者が激突
東京五輪の決勝戦には、ディフェンディングチャンピオンのフィジーと、前回大会ではメダルなしの5位に終わり「ラグビー王国」の威厳をかけて大会に臨んだ2018年セブンズ杯の王者NZが相まみえた。
先制して勢いに乗りたいNZだったが、フィジーがメリ・デレナランギ、シレリ・マカラとトライを早々に決めて12-0とリードした。
それでもNZ共同キャプテンの一人、スコット・カリーが今大会5つ目となるトライを挙げるが、フィジーもチュータ・ワイニコロが追加トライを挙げて19-7と再び12点差としたが、NZも前半で1本トライを返して19-12で前半を折り返した。
後半序盤、反撃を試みるNZはワイドに展開し相手陣内に攻め込むが、フィジーの守備の前になかなか得点を挙げることができない。ペナルティを獲得しても、マイボールラインアウトをキープできなかったことが響いた。
NZは再び突破しようとするがパスが乱れてしまい、そのこぼれ球を拾ったフィジーのアサエリ・ツイヴァカがトライ。終了間際にはさらにワイセア・ナスクが落ち着いてPGを決めて、フィジーが27-12で大会2連覇を飾った。
◆準優勝だがNZ主将は「ここまでの道のりを本当に愛しく思う」
リオ五輪5位のNZはスコットランド出身のクラーク・レイドロー(日本のNTTコミュニケーションズでプレーするSHグレイグの従兄弟)HC体制下で、選手を一か所に集め強化を図ってきた。2018年のワールドカップ優勝、2019-20シーズンはワールドシリーズの総合優勝と結果を残してきた。
東京五輪に向けて、東京の暑さを想定して、複数ポジションでプレー可能な経験値の高い選手を編成して大会に臨んだ。目指していた優勝はできなかったが、共同キャプテンのティム・ミケルソンは、「ワールドカップ 、ワールドシリーズと優勝し、オリンピックでは銀メダルを獲得した。このチームがここまできた道のりを本当に愛しく思う」と振り返り、レイドローHCも「敗戦はもちろん悔しいが、メダルの色が何色であろうと、選手たちが成し遂げたことに変わりはない」と胸を張った。
◆「家族が支えてくれた金メダル」(ツワイ主将)
連覇を達成したフィジーも、ここまでの5年間は決して平坦な道ではなかった。特に昨年はコロナ禍により、国が渡航制限をかけていたこともあり、対外試合ができなかった。それでも、リオ五輪でフィジー史上初の金メダルを獲得した「国技」で再び母国のために金メダルを勝ち取るために、チームは奮起した。
今年に入ってからは家族と会う時間はほとんど得られず、オリンピックが始まる前の4ヶ月間は一度も家族の元へ帰れずトレーニングに明け暮れた。また早々にワクチン接種も行って、冷凍魚とともに貨物飛行機で来日した。
「家族と会えない日々は辛いが、年長の選手が若い選手を励まし、チームは本当の家族のように過ごした」(キャプテンのジェリー・ツワイ)と日ごとに結束を増していった。さらにセミ・ラドラドラ、ビリモニ・ボティツといったフランスでプレーしていた選手の招聘にも成功し、選手層が厚くなった。
ワールドシリーズでもすっかりお馴染みとなった、大会の序盤では調子が出ないスロースターターのフィジーは、オリンピックでも変わらなかった。初戦の日本戦ではリードを許す展開となり、英国、カナダとも接戦だったが3連勝を飾った。そして決勝トーナメントに入ると試合を重ねるごとにリズムを取り戻し、王者の強さを見せつけた。
「家族が支えてくれたこの金メダルは格別だ」と、チームで唯一前回大会を知るキャプテンのツワイが語ると、ギャレス・ババーHCは「金メダルを獲得を成し遂げた選手とスタッフに特別な敬意を払わなければいけない」とねぎらった。
◆来年のW杯、24年のパリ五輪も「2強」の時代が続くか
男子セブンズはフィジーが金メダル、NZが銀メダル、アルゼンチンが銅メダルという結果で幕を閉じた。コロナ禍で行われたオリンピックで、さまざまな制限があった中でも、ワールドシリーズで実力を発揮してきた「セブンズ王国」フィジーが、酷暑の東京でもしっかりと日々の努力を試合で発揮し、2度目の頂点に立った。
なお今大会のトライ王にはアルゼンチンの新星マルコス・モネタが6トライ、得点王にはニュージーランドのアンドリュー・ニュースタッブが37得点で輝いた。
来年は南アフリカでセブンズW杯が開催され、3年後にはパリ五輪も行われる。いずれにせよ男子のセブンズはフィジーとNZ中心に繰り広げられていくだろう。
◆男子ラグビー 最終順位
金 フィジー
銀 ニュージーランド
銅 アルゼンチン
4 英国
5 南アフリカ
6 アメリカ
7 オーストラリア
8 カナダ
9 ケニヤ
10 アイルランド
11 日本
12 韓国
◆トライランキング
1位(6トライ)
マルコス・モネタ(アルゼンチン)
2 位(5トライ)
スコット・カリー(NZ)
チュウタ・ワイニコロ(フィジー)
4位(4トライ)
コナー・ブレイド(カナダ)
セルヴィン・デーヴィッツ(南アフリカ)
ベン・ハリス(英国)
松井千士(日本)
イグナシオ・メンディ(アルゼンチン)
ラシー・ミラー(オーストラリア)
ダン・ノートン(英国)
アサエリ・ツイヴァカ(フィジー)
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】