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採用氷河期時代 経団連の1日インターン容認をどう捉えるべきか

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
素材集から就活生「風」の写真を選んでみた。いいじゃん、就活生がネックレスしても。(写真:アフロ)

2018年卒(現在の大学4年生)の就活が真っ最中という段階の中やや気の早い話に聞こえるだろうが、早くも2019年度採用に向けて、企業、学生、大学、就職情報会社が動きつつある。

すでに全国紙などで報じられているが、4月10日、経団連は採用選考の指針の改訂を発表した。2019年度のポイントは就活の日程は2017年度、2018年度と同じく採用広報活動開始が大学3年生の3月、選考活動開始が大学3年生の6月となること、そして、インターンシップに関する最低日数要件を削除した。

経団連が難色を示していた「1日インターン」が容認される。1日インターンとは、文字通り、1日や、半日でインターンシップを行うというものである。1日でワークショップなどを行うものもあれば、単なる会社説明に終始するものなどもあり、賛否を呼んできたものだ。

日本経済新聞は4月29日付の社説で、「1日インターン」に関する懸念を表明している。

「1日インターン」への懸念  :日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXKZO15885910Y7A420C1EA1000/

経団連の採用選考に関する指針からインターンシップの日程に関する制限が撤廃されたことにより、「1日インターン」が広がり、就活の早期加熱を懸念するという論旨のものである。

インターンシップは企業が優秀な学生を見つける場としている例が少なくない。日数規定の廃止により、学生が働きながら自分の適性を見極めるという、本来の趣旨に反する例が増えないか心配だ。

企業説明会の解禁前にインターンシップを開きやすくなることで、採用活動が早くから過熱する心配もある。企業に節度ある対応を求めたい。

出典:日本経済新聞 2017年4月29日付朝刊 社説「1日インターン」への懸念

などと論じている。この経団連の指針の改訂について、全国紙の社説が取り上げたことは注目度の高さを感じるものである。日経電子版などで「就活探偵団」などの人気連載を持っている日経ならではの問題意識だとも言える。

ただ、申し訳ないがこの社説はやや牧歌的なものではないか。すでにインターンシップの取り組みはこれまでの年においても加熱していたからだ。学生から支持されるインターンシップとそうでないものの競争が起こり、淘汰が始まっているという点にも注目したい。

まずは、この経団連の「1日インターン」容認について事実を整理しよう。

既に経団連は4月10日に、「採用選考に関する指針」との改訂版と、その手引きを発表した。

採用選考に関する指針

http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/030.html

「採用選考に関する指針」の手引き

http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/030_tebiki.html

これが何を意味するか。2019年度の採用活動は前倒し傾向が確定的になるだろう。経団連企業も含め、「1日インターン」に本格的に参入することにより、学生への早期接触が行われる。3年連続でスケジュールの変更は行われないことになったが、各社のフライングのやり方もこなれてきている。

実際、現在の大学4年生では内定獲得時期の早期化が見られる。リクルートキャリアが4月25日に発表した『【確報版】「2017年4月1日時点内定状況」 就職プロセス調査(2018年卒)』によると、4月1日時点での大学生の就職内定率は14.5%であり、前年同月の9.7%と比べて4.8ポイント高い結果となった。あくまでモニター調査であり、大学関係者からはやや上位校よりの結果ではないかという指摘が毎年される調査ではあるが、とはいえ、昨年より早くなっていることは明らかだろう。

早期に内定出しが行われている背景には、短期的に売り手市場であることががあげられる。先日、リクルートワークス研究所が発表した「大卒求人倍率調査」によると、2018年卒の求人倍率は1.78倍で前年の1.74倍から微増している。さらには中長期においても若年層の減少に対する懸念などから人材に対する飢餓感があるということが言えるだろう。既に業界、地域、企業規模によっては採用環境が悪化していることは明らかだ。

就活の歴史は時期論争の歴史であり、何度もルールが見直されるが、フライングが目立つようになるということの繰り返しだ。経団連の「1日インターン」容認はこれに拍車をかけることだろう。

なお、経団連は「1日インターン」を「積極的に推進している」わけではない。前出の『「採用選考に関する指針」の手引き』において、企業業が柔軟かつ多様なプログラムを実施できるよう、最低日数要件を削除したというのが正しい。インターンシップのあるべき姿についてかなりの文字数で言及している。「教育的観点から、募集段階において詳しいプログラム内容を学生に公開するとともに、職場への受入れや仕事経験の付与、インターンシップの受入れ後の学生へのフィードバックなどを行うことが望ましい」としている。また、1日限りのプログラムについても警鐘を鳴らしている。「インターンシップ本来の趣旨を踏まえ、教育的効果が乏しく、企業の広報活動や、その後の選考活動につながるような1日限りのプログラムは実施しない。」とある。つまり、最低日数要件は削除し、1日インターンが可能になったものの、インターンとは呼べないような企業説明会的、選考会的プログラムはNOと明記していると言える。

ここで、この「1日インターン」容認がもたらすものについて考えたい。まさに私は10年前、バンダイで新卒採用担当をしていたのだが、その当時は、現在と新卒採用の市場環境が似ていた。空前の売り手市場と言われた時期だ。学生と早期接触するために、「1日インターン」に大手企業も含め取り組んでいた。各社がどれだけ「1日インターン」を行っているのかを全国紙がまとめ、紙面で紹介していたことを覚えている。日経の社説が懸念するように、売り手市場とあいまって、「1日インターン」を実施する企業は目立つことだろう。

もっとも、10年前とは明確に状況が違う部分がある。それは、10年経ったということだ。何を言っているのだと思われるかもしれないが、この10年の間、インターンシップの歴史が積み重ねられてきたわけで、進化を見せている。企業においても、就職情報会社においても、学生が好意的に思うインターンシップ、さらには採用につながるインターンシップとは何か、研究が積み重ねられてきた。

既に起こっているのは、インターンシップ競争である。学生に選ばれるインターンシップ、さらには採用につながるインターンシップにするにはどうすればいいのかという競争だ。いかにその企業らしさを伝えるか、企業や仕事の中身が見えるか。さらには、登場する社員たちが残念な人たちではないか。このあたりにこだわりを見せている。

「1日インターン」については、私は00年代後半〜00年代前半に書いた書籍では、一貫して批判してきた。会社説明、社員紹介などセミナー同然のものもあり、これのどこがインターンシップなのだろうと。もっとも、昨今のインターンシップの進化などを取材した上で考えが変わったのは、優れた「1日インターン」というものもあるということだ。

就活も採用活動も、時間との戦いである。企業は学生の時間の奪い合いをしているわけだ。学生も就活一色というわけではなく、アルバイトにゼミにサークルにと忙しい。1日で参加できるなら、学生にとっても参加しやすいものになる。1日インターンは、皮肉にも学生生活に配慮したものでもあるのだ。学生の利用の仕方も創意工夫が見られ、あえて1日インターンでは社員との接点と、友達をつくることに振り切っているという者もいる。その日の中身には期待しないというわけだ。

例えば、以前取材したこの「キャリア大学」の取り組みなどは、1日のプログラムでも会社や仕事の中身が見える優れたものはあると実感させるものだった。

三井物産も参画する「キャリア大学」の正体 人工知能に負けない若者を育てよ  | 「若き老害」常見陽平が行く サラリーマン今さら解体新書 - 東洋経済オンライン

http://toyokeizai.net/articles/-/93007

厳密には、この取り組みはあくまでもキャリア教育の場であり、インターンシップではないものの、実際に現場で見た中身は1日インターン的だった。皆さんがどう思うかは、リンク先を見てご判断頂きたい。

他にも敢えて、難易度の高いワークショップをする企業もある。多くの学生から支持されるわけではないが、採りたいと思う学生には響き、のちの本選考で応募してくるという流れをつくることに成功している。応募の絶対数は少ないものの、スクリーニングをすることに成功している。

1日インターンもまた進化しており、1日インターン=悪というわけではない。逆に質の低い1日インターンは、学生にとっても企業にとっても不幸なのだ。だから、議論は1日インターンか否かではなく、その1日インターンは学生にとって、企業にとってどんな意義があるのかという話であるべきだ。

別にすべての企業が1日インターンに走るわけではない。逆にこのような局面ではあえて3週間のインターンシップを設定し、学生を囲い込む企業も現れるものだ。やや楽観視するならば、インターンの淘汰が始まっていくとも言えないか。競争イコール悪というわけではない。これが、学生にとってメリットのあるインターンとは何かという健全な競争になることを期待したい。日経もそういう論調で書くとより広く会社員から支持されたのではないか。

もっとも、この経団連の1日インターン容認により、「インターンシップとはそもそも何か?」という議論は起こることだろう。いや、このテーマは昨年も内閣府で有識者による会議が開かれているが、何度でも何度でも蒸し返すべきだろう。あるべきインターンシップとは何かという議論である。インターンシップとは教育なのか、労働なのか。現状、インターンシップの美名のもと、未来ある学生にタダ働きをさせる企業も散見される。インターンシップの議論がいつも噛み合わないのは、多様であることと、様々な利害関係が入り乱れるからだ。1日インターンが本当に増えたのかを見計らった上で、この夏以降に再度議論するべきではないか。

なぜ1日インターンが盛り上がりそうなのか、さらに言うならば、なぜ何度も就活に関するルールは破られ、見直されるのか。この問いについては何度でも考えるべきだろう。問われているのは大学の存在意義なのではないかとも感じる。本来なら、しっかりと教育を受けた者を採用するべきなのにも早期化が繰り返されるのは、よく言うと日本の新卒一括採用は未経験の若者の可能性にかけているということであり、悪くいうと、大学生に期待しているのはレベルではなくラベルということになってしまう。

すでに採用氷河期時代だ。採用できる企業とそうではない企業の差がますます顕著に現れるだろう。1日インターン問題は、そのひとつの象徴なのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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