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ウクライナ空軍パイロット、イラン製ドローン1日に5機撃破・破片が戦闘機に衝突したが無事脱出して英雄に

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

住民のいない場所を選らんで戦闘機墜落、自身もパラシュートで脱出

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生品ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍でドローンの撃墜が繰り返されている。

2022年10月に入ってからロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んでいき爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウを攻撃していた。さらにロシア軍は国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義(軍事目標のみを軍事行動の対象としなければならない)を無視して文民たる住民、軍事施設ではない民間の建物に対して攻撃を行っていた。ウクライナの一般市民の犠牲者も出ていた。イラン製の「シャハド136」は現在ではもうロシア軍の在庫が枯渇したと英国の情報機関は見解を2022年11月に示していた。

だが2022年12月になってからイラン製の軍事ドローンによる攻撃は再開し、ウクライナの民間施設やエネルギー施設を攻撃しており、オデーサなど主要都市では電力供給が停止されてしまい150万人以上の市民生活にも大きな影響が出ている。

そんな中、ウクライナ空軍の公式SNSでは、2022年10月12日にロシア軍のイラン製ドローンを1日に5機迎撃したパイロットのワジム・ウォロシフロフ少佐を動画で紹介していた。ワジム・ウォロシフロフ少佐は「カラヤ(Karaya)」と呼ばれている。

この日は早朝に空襲警報がありイラン製軍事ドローン「シャハド136」を3機撃墜、その後基地に戻って、夜に2機撃墜。だが軍事ドローンの残骸がミグ29戦闘機の機首に衝突して、機体が燃え上がり、窓ガラスも割れて、ワジム・ウォロシフロフ少佐も頭から血を出していた。

迎撃中に破片が衝突して航続不可能になったが、安全を確認して市民のいない場所を選んで墜落させて、自身もパラシュートで生還した。スマホで血だらけの顔を自撮りして、空軍の仲間に無事を伝えていた。そして12月5日にはゼレンスキー大統領が「ウクライナの英雄」の称号を授与し、ウクライナで英雄(ヒーロー)になっている。

▼ウクライナ空軍のSNSより

上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破する、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。地上からの迎撃と破壊ばかりが目立っているが、このように空軍パイロットが戦闘機で上空から撃破することもある。戦闘機での迎撃は"ハードキル"だ。

だが今回のワジム・ウォロシフロフ少佐のように、破片が戦闘機に衝突して、戦闘機に火がついて戦闘機が爆破してしまう危険性もある。ワジム・ウォロシフロフ少佐はスキルがあり、戦闘機が燃えたらいち早くパラシュートで脱出して、住民のいない場所を選んで戦闘機を墜落させることができた。だが、うまくいかなかった場合はパイロットの命も危険であり、地上にいる市民も燃えた戦闘機が落下してきて大きな事故に巻き込まれる恐れもある。

▼ワジム・ウォロシフロフ少佐

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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