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元関脇・隠岐の海の君ヶ濱親方が9月末に断髪式を開催「自分の部屋をもって、やる気のある子を育てたい」

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
おちゃめなポーズで撮影に応じてくださった君ヶ濱親方(写真:筆者撮影)

今年の初場所で惜しまれながら引退した、元関脇・隠岐の海の君ヶ濱親方。幕内に75場所在位し、殊勲賞1回、敢闘賞を4回受賞、約18年間と長く現役を務めた。現在は警備担当を務めながら、9月30日(土)の断髪式に向け、準備に奔走する。そんな親方に、引退に際する心境や髷への思い、親方としての今後の展望などについて伺った。

髷は「早く切りたい。坊主がいいかな」

――引退から約半年。引退に際する心境と、現在の様子はいかがですか。

「いまは断髪式の準備でバタバタしています。もう10年くらい前から自分の相撲がなかなか取れず、『もうそろそろ』という気持ちでいたので、引退したあの場所が何か特別ということではありませんでした。十両に落ちてまではやりたくなかったので、落ちたらもう仕方ない、落ちなければまた頑張ろうという気持ちでいて、あの場所でもう落ちる枚数だったから決断したということです」

――現在はまわしもつけていないとのこと。

「はい、もう稽古場で胸も出していないです。体が動かないので。もう相撲はいいです。疲れました」

――断髪式の準備はどんなところが大変ですか。

「一番大変なのは集客。自分は興行を打つつもりもなかったんですけど、せっかくだからとやることになりました。奥さんと二人で準備しているんですが、部屋をはじめ周りの皆さんに助けていただきながら頑張っている感じです。鋏を入れていただける方も、チケットを買って見に来ていただける方も、どう呼ぶのか。それが難しいです」

――髷への思いは。

「早く切りたいです。もうお相撲さんじゃないですからね。ちょんまげをつけながら寝るのも大変ですし、どこ行くにしても見られますから、大変ですよ。辞めたなら早く切ったほうがいいです。さみしいとか名残惜しいというのは後から来る感情だと思う。いまは早くおさらばしたい気持ちです。切ったら坊主がいいかな。もともと坊主だったので」

大切なのは「やる気になれる環境づくり」

――親方になられて、現在はどんな職務についていますか。

「警備の仕事です。まだまだ慣れないですよ。いつお相撲さんがケガするか、飛んで行っても無事に運べるかわからないので。いろんな先輩の親方のやり方を見て学ぶのも仕事だと思っています」

――現在は八角部屋の部屋付き親方として指導もされていると思いますが、指導においてはどんなことが大切だと感じていますか。

「昔と違ってビシバシやれる時代じゃないので気合入んないですけど、いろんな子がいるなかで、ちゃんとやる気のある子もいますからね。一番大事なのは、本人がやる気になれる環境づくりなのかな。自分は稽古嫌いだったけど、いまの子たちは嫌いも好きもありません。目標があって入ってきたのに、すぐにそれを忘れちゃうのはもったいない。辞めていってから気づいても遅いですからね。やる気のある子とない子が入り交じっているので、そういうのを打開して、部屋全体をやる気あるようにもっていきたいです」

約18年間と、長く現役を務めた隠岐の海。やる気のない若い力士たちに対し「目標を見失ってはもったいない」と力説する
約18年間と、長く現役を務めた隠岐の海。やる気のない若い力士たちに対し「目標を見失ってはもったいない」と力説する写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

――すでにそういった指導の難しさを感じていらっしゃるんですね。

「そうですね。本当は、入門の時点で厳しいことを言って説明して、納得してから入っていただくのがいいと思います。いいことばかり言うんじゃなくて、やる気のある子が入れる、入った子にいい稽古をさせてあげられるような環境をつくれるといいですね。角界は、悪いことをする子よりも、悪かった子を更生させたことのほうが多いわけですから。ある程度厳しくないとだめだと思いますよ。時代の流れに合わせていくのは楽だけど、相撲文化の先輩方が守ってきたものを残しつつ、お互いにいい道を探るのが理想ですよね」

――そんな理想を追求していく相撲界でありたいですよね。親方ご自身の今後の展望は。

「ここまできたら、自分の部屋をもって弟子を育ててみたいと思うのが普通かなと思いますが、こればかりは自分一人で決められないこと。簡単にできる話ではないので、慎重に決断して見極めたいと思っています。が、自分は独立できる資格をもって辞めたわけですから、応援してくれる人がいれば、そこを目指していきたいですね」

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スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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