マスク時代が終わると美容師のスキルも変わる?コロナ禍で美容師のスキルや働く環境が変化したワケとは。
先月5月8日(月)から、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが「新型インフルエンザ等感染症「2類相当」から「5類感染症」に移行された。それに伴いマスク着用に注目が集まるが、3月に「個人の判断」に緩和されて以降「脱マスク」は進んでいない。花粉症対策だったり、状況に応じて着脱を使い分ける人が増えている中、人の目やそもそもの習慣化という理由で「脱マスク」は進まないようだが、この状況を少し変わった角度から捉えているのが美容師だ。
コロナ禍で注目された「生活に必要な仕事」
日本でも2020年3月から本格的に新型コロナウイルスの影響により多くの業界がビジネスに大きなダメージを受けた。一方で、休業要請から美容室や理容室が除外されたことが話題になったが、それまで生活の中に当たり前に溶け込んでしまっていたが、美容師は生活に「必要」な仕事であることに気付いた人は多かっただろう。
工夫が繰り返された3年間
今回取材をした美容師の中村さんは、コロナ禍初期に「美容師のはたらく」についてお話をお聞きした美容師さんです。Ley by KINGDOM(横浜店)Supervisor兼Salon Director、様々なカットコンテストに参加し、優勝、入賞を経験。その中でもYOKOHAMA CHALLENGE STREET カットモデル部門で優勝横浜市長賞受賞の経歴があるカリスマ美容師。また、美容師の傍ら、横浜発祥の文化、西洋理容を残すために横浜市が運営している教育機関であり、全国唯一の公立美容専門学校横浜市立横浜商業高等学校別科美容科にて非常勤講師として技術講師を務める二刀流。2022年には所属するKINGDOM GROUPで若くして新店舗の立ち上げ業務から店長職にまで駆け上がっていた。そこに隠されたさまざまな工夫、コロナ禍で変化した美容業界のはたらくに注目をしてみた。
――コロナ禍3年を振り返ると?
中村さん|行政のアナウンスで休業要請から美容室が除外されたことでお客様が減ることはなかったです。KINGDOMでは長く通ってくださっていて関係性が築けているお客様が多く、コロナ禍に入っても変わらずにご来店頂けていました。今までお客様一人一人に真剣に向き合ってきた結果だと思っています。また、世の中ではコロナ禍に入り美容室を選び直すきっかけとなった方も多いと思います。その中で新たにKINGDOMを選んだお客様が増えたということもあり、コロナ禍に入ってからの方がむしろお客様が増えたと思います。やはり、世の中から必要とされている職業なんだと誇りを強く思える様になりました。
一方で感染症対策はより力を入れたと思いますし、オンライン・マスク時代に適したデザインを日々研究してお客様と相談しながら新しいカタチを創り上げたという点は、美容師としてプラスの経験になりました。正直、マスクをされている印象に合わせてデザインするという文化がそれまでなかったので当初は苦戦しましたが、今ではそれが当たり前になっているので、脱マスクとなるとやっと本来の形に戻る、といった感じでしょうか。改めてヘアデザインはお客様と美容師が一緒に創り上げていくものなのだと感じています。
――コロナ禍3年で大きく変わったことは?
中村さん|美容師は常にスキルアップのために、休みの日や営業後に練習をして技術を磨きながらデザインを研究します。そこに追い風だったのは、コロナ禍でオンラインの講習会が増えたことと、SNS等でテクニックをシェアをする美容師が増えたこと。本来であれば、有名な講師の元に足を運び講習を受けるというのが基本でしたが、動画等でテクニックを紹介してくれることが増えたことで、学べる機会が圧倒的に増え、業界の技術レベルは上がったと思います。
一方で、難易度があがったのはコンテストです。美容師にとってコンテストは自分の立ち位置を測ること、優勝して知名度を上げ、多くの方に認知してもらうなどの観点から重要なイベントですが、コロナ禍初期はそもそもコンテスト開催が出来なくなりました。デザイン力やテクニックを競う場なので、どうしてもリアルな環境が求められる為、軒並みコンテストが中止となりました。そんな中、コンテストがヘアデザインをフォトで撮りエントリーをするというのがここ最近では当たり前になってきたスタイルです。今までもフォトのコンテストは多くありましたが、コロナ禍に入りそれがスタンダードになりました。
だだ、コロナ禍の変化に伴いコンテストもさらにカタチを変え始めています。エントリーや初期審査はフォトで最終選考はリアルというハイブリッド型コンテストも増えてきていますので、改めて戦い方に工夫が必要になると考えていますが、だからこそ業界全体の技術や想像力はさらに成長するように感じています。
――新型コロナが5類になることで何が変わる?
中村さん|3月13日の政府によるマスクの着用は個人の判断というアナウンスがあってから、いよいよ日常に戻るという雰囲気もあってか、マスクを外すことを前提としたヘアスタイルのご希望が増えました。一気にイメージチェンジをしたいというオーダーもとても増えました。5月8日には正式に5類に移行し、よりその流れは加速した様に感じます。その為、改めてお客様とのコミュニケーションを大事に、そしてあらゆるニーズに応えていけるスキルを身に付けていく必要があると思います。
働く環境や感染症対策は万全を期して3年間でノウハウは蓄積してきたので、特に大きく変わることはないと思います。一方でこの3年間で店舗を持たないフリーランス美容師、まつ毛エクステなどを主に施術しているアイリストなどの新たな市場が拡大しているので、毎年1万人近く美容師国家資格の取得を目指している学生達のキャリアの幅は広がったように思います。
――コロナ禍で新店舗を立ち上げた背景は?
今回の新店舗立ち上げの一番の大きな目的としましては若手の成長の場を作ることです。KINGDOM元町店に在籍していた頃から、後輩の育成に力を入れていましたし、美容学校では未来の美容師である美容学生に向けて技術を通じての美容師、人としての教育に力を入れていました。
そういった部分を会社に認められ、今回新店舗の責任者に選んでいただき、若手の成長の為の「教育」を担っております。コロナ禍で美容師も働き方が大きく変化し、フリーランスの美容師や早くに独立する美容師が増えていますが、私はKINGDOMの人を育てなければサロン繁栄はないの哲学に賛同し、サロンに所属することでの貢献を考えております。
今、新店舗に在籍する若手スタッフを優秀な美容師に育てて行くことでKINGDOMが更に発展し、美容業界に更なる貢献になると思っております。
新店舗の場所は横浜駅エリアになるのですが、横浜駅は利用者が全国3位の巨大ターミナル駅。コロナ禍であっても勢いがあったエリア。美容室も沢山あり、いわば激戦区。美容師としていろいろな力が試される場所でもあり、チャンスが凄くある場所。この場所で横浜を代表する、業界を代表するサロンを作り上げていくことが今の私の目標です。
美容師のキャリア、働く環境は新たなステージへ
日常生活に当たり前に溶け込んでいる美容の世界。一昔前にあった美容師は「きつい」「帰れない」「給料が安い」という、ネガティブイメージの3K職業が、カリスマ美容師ブームや木村拓哉さんが演じた名作ドラマ『Beautiful Life(ビューティフルライフ)』の影響で美容師バブルが起こり、人気爆発となった2000年を機に今では美容師は「かっこいい」「綺麗」「感謝される」というポジティブイメージの職業に変化。さらには美容師になるためには国家試験を受け、美容師免許が必要という点も安定志向が強くなる世代からすれば人気を後押ししている。
そして、コロナ禍でデザインの考え方、学ぶ環境、技術、キャリア、働く環境の幅まで変化した美容師の世界。今回取材した中村さんのようにサロンに所属をして新たな挑戦をする選択以外にも可能性は広がっているようだ。これから美容業界を目指す若者は過去の情報だけではなく、最前線の情報を手にして進化する美容師の世界を覗いてみて欲しい。
はたらくを楽しもう。
【中村駿士さんプロフィール】
美容室「KINGDOM」
Ley by KINGDOM 横浜店 責任者兼Salon Director
※中村さんと一緒に働きたい学生さんは下記をチェックしてみてください※
横浜市立横浜商業高等学校別科 非常勤講師講師
横浜市出身
2011年 KINGDOM入社
2013年 KINGDOM元町店にてスタイリストデビュー
2017年より美容学校非常勤講師を務める
2018年 横浜市長賞受賞
2019年 神奈川県代表として全日本美容技術選手権出場
2022年 Ley by KINGDOM 横浜店 責任者就任