「ひたち」仙台行復活 常磐線の富岡~浪江間で運転再開へ 復興への一里塚
東日本大震災により、東北の太平洋沿岸の鉄道は大きな被害を受けた。津波で被災した気仙沼線や大船渡線はBRTとなり、ちかく鉄道路線ですらなくなってしまう。三陸鉄道はJRからの移管区間を含めて復旧したものの、長い年月がかかった。
影響が大きかったのは、福島第一原発の事故で放射線量が上がり、警戒区域、帰還困難区域となった常磐線の一部区間である。3月14日のダイヤ改正でようやく、運行が再開されるのだ。
原発事故の影響で復旧が長期化
原発事故から時間が経ち放射線量が少なくなった。また福島第一原発から近い線路や駅周辺の除染作業も進んだことで、鉄道の復旧作業も本格的に着手することができた。ようやくの再開となる。
いまなお原発事故の影響の大きい福島の現状を考えると、鉄路の復旧を優先させ、そこにかんたんに人が来ることが可能になったということは、大きいのである。
鉄道は地域のシンボルであり、そのシンボルが機能することが可能になることで、復興を促進させるという考え方が背景にある。鉄道の運行再開は復興の完成ではなく、スタート地点というべきものである。これは世界から「フクシマ」と呼ばれた地域が長い時間をかけて「福島」に戻っていくためには、必要なプロセスである。
東京からの直通特急が走る
もし東日本大震災と福島第一原発事故がなければ、2012年のダイヤ改正でいわきで都内と仙台を結ぶ特急列車は分離され、いわきで乗り換えなければならない、ということになっていたはずである。その列車名の公募も行われていた。おそらく、その際には普通車だけの特急となり、グリーン車は連結されていなかっただろう。
品川・上野~仙台間の特急「ひたち」はE657系を使用し、グリーン車も連結される。震災前と同じ、都心からの直通特急となっている。運行は3往復、6本。
停車駅を見ると、いわき~原ノ町間では全列車が広野・富岡・大野・双葉・浪江と停車する。都内や仙台と地域を結ぶために、停車駅を確保している。
地域に人が戻ってもらうため、福島第一原発事故からの復興を多くの人に見てもらうために、これらの列車はこまめに停車する。
「ひたち」に使用されるE657系は、10両編成である。これについては、輸送力過剰という指摘をする人もいた。かつての「スーパーひたち」は、このエリアでは4両の付属編成で走行していた列車もあった。しかし運転再開にあたって、グリーン車連結のフル編成で走行するという方針を打ち出した。
地域の人が利用する普通列車は、広野~原ノ町間で22本となっている。これも、地域に戻って住む人にとっては、必要な交通機関だ。
ある新聞記者は、東電関係者しか乗らないのでは、という指摘をツイッターで行った。しかし、これまでは東電関係者も鉄道で現地にたどりつくことはできず、そういう人が乗るためには鉄道は必要である。とくに、東電や原発関連企業の経営陣にはグリーン車に乗っていただき、福島第一原発の廃炉作業の現状を見に来てもらい、あの事故と原子力推進の過ちを深く考えてほしいものである。
政治家は議員パスを使用しグリーン車に乗って現地に来ていただき、視察し福島の復興や日本のエネルギー政策の今後、廃炉作業の難しさや将来の展望などを考えてほしい、ということもある。
そういう意味では、グリーン車連結のフル編成特急が走ることは、意義の深いものである。
また地域の人にとっても、戻ってきた地域に鉄道があるのとないのとでは大違いだ。鉄道があるからこそ地域に帰る気になる、という人もいるだろう。
JR東日本の対応は
JR東日本は、この運転再開・特急3往復走行のために、「Smart Station for EXPRESS」を整備する。運転再開区間の大野・双葉および広野・富岡・浪江の各駅には、「話せる指定席券売機」や多機能券売機、自動精算機などを整備し、モニター機器も装備する。オペレーターが券売機利用者のサポートをすることも可能だ。
JR東日本はJR西日本などに比べると「話せる指定席券売機」の導入をこれまで行わなかった(ただし、「もしもし券売機kaeruくん」という同趣旨の券売機を導入し、使用しなくなったという経緯がある)。しかしそういったJR東日本でも、駅での対応は難しくてもこういった技術を導入して特急の利用者や定期券の利用者に対応しようとしている。
利用者の少ない区間での乗客サポートをJR東日本は弱める傾向があったものの、今回の運転再開にあたってのこういった対応は英断である。ふつうの路線なら、指定席券売機を設置して終わりというところだっただろう。
宣伝にも力を入れ、各種プロモーション活動にも取り組む。
復興にはまだまだ時間がかかる。しかし鉄道の運行再開により、今後の見通しがついてきた。ここが復興の一里塚として重要な役割を果たすことは確かだろう。