自民党・公認争いを激化させる“二階派ファースト”
山口3区で出るなら林氏を処分?
「現職優先であることは間違いありません」
6月29日の自民党幹事長会見で、衆議院山口県第3区について尋ねられた二階俊博幹事長は体を前方に傾け、質問した記者をやや睨みながらこう言った。衆議院山口県第3区は二階派の河村建夫衆議院議員のおひざ元だが、ここに次期衆議院選挙で岸田派の林芳正参議院議員が鞍替えの予定。すでに林氏は昨年末に4区内の下関市から3区内で最多の人口を擁する宇部市に住民票を移転し、6月には3区内で5つめの事務所を開設した。もし林氏が出馬した場合、処分もありうるのかとの質問に、二階氏は「ずっと進んでくれば、そういうことになる。党則に書いてある」と語気を強めた。
小選挙区制度が導入されて以来、公認権を持った党本部の権限は大きくなった。一方で公認決定の前提として、各都道府県連から推薦が上がってくる仕組みになっている。山口県の場合、林氏を推すのは柳居俊学県議会議長らであるために、県連では林氏が優勢。昨年11月の宇部市長選でも、林氏の元秘書で前県議の篠崎圭二氏が当選した。
だが今年3月の萩市長選では、林氏や柳居氏らが応援した現職の藤道健二氏が河村氏の実弟で前県議の田中文夫氏に敗退。そもそも衆議院山口県第3区の公認問題は、二階氏が言うほどすっきりといきそうにない。
群馬1区では「地元の意見を聞く」
一方で二階氏の発言にしても、矛盾を含む。衆議院群馬県第1区の現職は細田派の尾身朝子衆議院議員だが、二階派で比例選出の中曽根康隆衆議院議員も手を挙げている。これについて安倍普三前首相は6月25日に前橋市内の講演で、「尾身さんが公認候補でなくなることはありえないと思っている」と尾身氏を支援。細田派復帰と派閥継承を踏まえた発言として、実質的に二階派に対して牽制したといわれている。これについて二階氏は、「地元の意見を十分聞いた上で慎重に判断したい」と述べ、「現職優先」としなかった。
新潟2区、静岡5区はどうするのか
これを「ダブルスタンダード」との批判があるが、そもそも二階派には「現職優先」と割り切れない個別の事情がある。たとえば新潟県第2区の鷲尾英一郎衆議院議員は、2019年に自民党に入党して二階派に所属しているが、入党条件は比例復活した細田健一衆議院議員の2区支部長続投だった。「現職優先」ならば、細田氏優先となってしまう。
さらにややこしいのが静岡県第5区だ。ここは二階派の細野豪志衆議院議員が勝利し、岸田派の吉川赳衆議院議員が比例で復活した。
2人は2012年の衆議院選から3度対決しているが、吉川氏は一度も細野氏に勝てず、惜敗率を見ても2012年は54.05%、2014年は59.14%、2017年は67.24%と高くない。2012年に比例復活したのは自民党が圧勝したためで、現在吉川氏が議席を得ているのは、2019年3月に田畑毅氏の議員辞職によって繰り上げ当選したおかげだ。
しかし細野氏はまだ自民党の党籍を持っていないため、「現職」は吉川氏になってしまうが、二階氏は2019年11月に沼津市で開かれた細野氏のパーティーで、「我々は細野さんを支援する」と言明。吉川氏側から「東京の理論や派閥の理論で決められる政党であってはならない」と批判を浴びた。
“二階派ファースト”で党内抗争を乗り切るつもりか
こうしてみると、二階氏はダブルスタンダードではなく、二階派ファーストではないだろうか。党の幹事長の顔と派閥の領袖の顔を巧みに使い分ける二階氏にとって、幹事長ポストは権力の源泉であり、派閥の躍進はさらなる権力に結びつく。
「前々には派閥同志の抗争、俗にいう足の引っ張り合いがなかったとは言い切れない」
6月29日に開かれた谷垣派のパーティーで二階氏が“過去の話”として述べたことは、まさに現在にあてはまる。このような激しい党内抗争で生き抜くため、二階氏は谷垣禎一氏の後任として2016年8月に得た幹事長ポストを決して手放さないに違いない。