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市民団体によるテレビ朝日HD株主提案。総会前に朝日新聞社長へ送っていた「お願い」の手紙の中身とは?

赤澤竜也作家 編集者
4月8日の議案提出後、会見に臨む「テレビ輝け!市民ネットワーク」の面々 筆者撮影

取材に来たけど報道はされなかった

「テレビジャーナリズムの萎縮を防ぐために、テレビ局の株式を買い取り、株主総会で建設的な提案を行う……。市民グループがそんな活動に乗り出した」

2024年2月10日朝日新聞夕刊(東京)の記事の書き出しである。

タイトルは「テレビ報道、萎縮防ぐため株主に 前川喜平元文科次官ら、テレ朝HD株取得」。

東京都内の日本外国特派員協会であった会見を報じたものだ。

実際に株主提案を行ったのはそれから約2ヵ月後である4月8日のことだった。共同代表の前川喜平元文科相事務次官、田中優子法政大学名誉教授・前総長らがテレビ朝日HDへ赴き、議案を手渡した。その後、行われた会見には朝日新聞からも2名が参加している。しかし、同紙で報道されることはなかった。

もちろん記事にするしないは編集権の問題である。

でも、まあ、この内容なら朝日新聞は報じないだろうなと感じていた。

テレビ朝日HDへの株主提案についての会見であるのに、朝日新聞社についての質問が相次いだからである。

筆頭株主としての責任を果たしているのか?

朝日新聞社はテレビ朝日HDの株の24.72パーセントを持つ筆頭株主だ。(2024年3月31日現在)

今回の株主提案の議決に大きな影響力を持つ。

しかも単なる筆頭株主ではなく、この国の報道ジャーナリズムの一翼を担っている存在である。

4月8日に行われた記者会見では朝日新聞社についての質問が乱れ飛んだ。例えば、元朝日新聞記者でネットメディア「Arc Times」編集長の尾形聡彦氏は、

「今回の株主提案はどれも当たり前の話で、反対する理由がないんですけれども、朝日新聞社に対して議決権行使についての公開質問状を出すことを検討しないんですか?」

と市民グループに迫った。

フリージャーナリストで元NHK記者の相澤冬樹氏も、

「朝日新聞の読者のみなさんを念頭においてなにか呼びかけることは考えられませんか?」

と問う。

要は報道メディアとしての姿勢が問われている子会社テレビ朝日を持つテレビ朝日HDに対し、大株主として牽制をきかせるよう、朝日新聞社に対してもっと強いアクションを起こすつもりはないのかということをふたりとも尋ねているのである。

朝日新聞社・中村史郎社長に対する手紙

今回、株主提案をしている「輝け!テレビ市民ネットワーク」は株主総会前、朝日新聞社の社長に対し、手紙を送った。

その文面は次のような文言ではじまる。

「前略ごめん下さい。突然のお手紙をお許し下さい」

あくまでもお願いベースであることがわかる。

以下、議案の内容について触れている。

「この10年余の間にテレビ朝日HD子会社テレビ朝日の放送に対して内閣官邸の政権幹部がテレビ朝日の個別番組について『介入』する事例があり、コメンテーターやニュース番組スタッフが降板させられることがありました。放送の自由に対する政治の介入やこれを原因として放送番組が萎縮するようなことがあってはなりません。私たちの株主提案は、かかる出来事について第三者委員会の設置と調査を求めることなどを骨格としています」

「また、別紙に添付した『株主提案第5号議案の補足説明』はテレビ朝日の特定の番組で番組審議会委員長が経営する出版社の著作物についてとりあげ、その内容が広告と報道の混同を招きかねない状況となっておりました。これは民間放送連盟の番組基準の定める規範に反しているのではないかとの懸念があります。それはテレビ朝日の番組への信頼性を低下させます。本来であれば番組審議会による適正な審査を期待すべきところ、番組審議会の委員長の経営する会社の出版物が俎上に載せられることを想起すれば、これが無理な状況であることは明らかです。本株主提案はこの点につきましても第三者機関の設置と調査を求めております」

社説でNHKの在り方についても言及した朝日新聞

さらに朝日新聞への期待を語ったあと、

「朝日新聞の公式ホームページ掲載の『トップメッセージ』で中村社長は次のように語っています。『責任ある取材で真実に迫り、埋もれていた事実を掘り起こす。小さな声に耳を傾け、光のあたらなかった社会の矛盾や課題をあぶりだす。多様な見方、考え方、価値観を示し、共有していく。私たちはジャーナリズムの力を信じ、今日より素晴らしい明日を、みなさまとともにつくっていきます』。地球環境の破壊、戦争の多発、世界と日本に拡がる生活と収入の格差など希望を語ることが容易でない時代においてこのメッセージは強い共感を呼ぶ内容となっています」

と社長メッセージに対するシンパシーを表明。さらに、

「加えて、朝日新聞2024年5月21日社説のNHKのあり方についての言及はテレビメデイアへの提言として鮮やかに記憶にのこっております。(以下、社説の抜粋)『NHKは政治的、経済的、様々な意図から役割を期待されるが、放送法1条の健全な民主主義の発達に資することこそが要諦だ。経営計画に掲げる2点の基軸のうち、ネット上の役割として強調されるのは信頼できる情報の提供だが、多角的な視点の確保も劣らず重要だ。政治や企業に忖度しない番組、視聴率に結びつきにくい少数者の声を流して欲しい。‥‥‥〈さすがNHK〉とうなる番組はある。しかし〈健全な民主主義〉に近づいている実感を妨げる出来事も、絶えない』」

とほめたたえた後、本題に入るのである。

報道機関である朝日新聞社はどう反応するのか?

「他方で、朝日新聞社が筆頭大株主となっているテレビ朝日HDの子会社テレビ朝日への政権からの介入事例ついては様々な文献において指摘されています。かかる『介入』事例について朝日新聞がマスメデイアの一角から取材論評したことを私たちは見聞しておらず、第三者委員会が事実の客観的調査や報告も行ったという事実もありません」

テレビ朝日HDに対し、大株主としての役割を果たしているのか疑義を呈す。そして、いよいよ結論に至る。

「2023年春、国会における質問と答弁により安倍内閣の総理大臣補佐官が総務省の高位官僚に放送法4条の定める政治的公平の概念に関する解釈変更について執拗に迫っていた事実も明らかになりました。その内容は総務省の公式ホームページに現在もなお掲載されております」

「テレビ朝日を含む日本のテレビ放送における表現の自由は危機に瀕していると言わざるを得ません。 かかる状況に鑑みて、私どもの株主提案の試みは少なからぬ重要性を持っていると考えております。『小さな声に耳を傾け、光のあたらなかった社会の矛盾や課題をあぶりだす』(中村社長メッセージから)ため、私どもの株主提案に賛同して頂きたく資料を添付してこの要請をお届けいたしました。ご賢察をよろしくお願いいたします

最後の最後まで「お願い」ベースで、議決に賛成してくれるよう懇願しているのである。

さて、明日の株主総会において朝日新聞社は株主提案に対し、どのような議決権行使をするのだろうか?

反対する場合、この手紙に対して社長から返事が届くのか? 

そもそも、明日の株主総会での株主提案について朝日新聞は報道するのか? それとも4月8日の会見のように黙殺なのか?

楽しみでしかたない。

なお手紙のなかで添付資料と記されていた、テレビ朝日HDに対する株主提案の内容は以下のサイトの「株主提案の内容のご案内」「提案の補足説明」で読むことができる。

https://tv-shine-more.awe.jp/

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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