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<ガンバ大阪>新強化部長に就任した松波正信氏が激白。「クラブ、チームが気持ちを揃えて進みたい」

高村美砂フリーランス・スポーツライター

 体内に流れる『青い血』、ガンバ愛が、松波正信を突き動かした。

 成績不振の責任をとる形で梶居勝志前強化部長が辞任したことに伴って、クラブから出された強化アカデミー部長就任のオファー。正直、悩まなかったといえば嘘になる。責任感の強さから、これまで預かってきた仕事を志半ばで離れることが果たして正しい選択なのか、自問自答も繰り返した。

 それでも最後は、引き受けると決めた。

「今年1月にアカデミーダイレクターとしてガンバに復帰させていただいていた中で、中長期的な計画のもとでいろんなプロジェクトを立ち上げ、進めてきました。現に今もジュニアユース所属の中学3年生を二人、約10日間、アルゼンチンに留学させていて、もうすぐ帰国しますが、そういった育成年代では初の試みに取り組んできたのも1つです。また、アカデミー寮が完成したことを受け、人間的にも成長させていこうという狙いで、いろんなチャレンジもしてきました。それ以外にもまだ実現していないものや、取り組んでいる途中のプランがある中で、自分の責任ということを考えたときに、今の仕事を離れることが果たして正しい選択なのか、すごく考えました。また、強化アカデミー部長という立場として今の自分に何ができるのか、を改めて考えても、今の自分がトップチームに対してやれることはすごく少ないな、と。だからこそ、その思いは素直にクラブにも伝えましたが、それでも、と求めていただいたこともあり、また、立場こそ変わってもこのクラブのために戦うことには変わりがないと考え、引き続き、アカデミーダイレクターは兼任しながら、トップチームにも自分のできる限りの力を注いでいこうと心を決めました。もちろん、いま、クラブとして一番に考えなければいけないのは、トップチームが勝つこと、成績をあげること。僕自身も中途半端にならないよう、まずはそこにパワーを費やしつつ、他の強化スタッフともしっかりコミュニケーションをとって、チームが集中してサッカーに取り組める環境を整えたいし、それをクラブ全体でサポートしていきたいと思っています」

 そう話す姿に6年前、当時のセホーン監督の成績不振を受け、クラブ史上最年少、OBとしては初のトップチーム監督に就任した姿が重なる。あの時も、窮地に立たされていたチームを救いたい一心で引き受けた任だったが、今回もそれは同じだろう。とはいえ、このサッカー界において、シーズン途中に監督や強化部長、GMといったクラブの主要ポストが交代するのは、大抵の場合、成績不振が理由だ。すなわち、チーム状況は悪く、仕事も困難を極めることが予想される。にも関わらず、松波はなぜ再び、大役を引き受けることにしたのか。それに対して彼は、意外にもクラブへの感謝の意を示す。

「周りからは『大変な役回りだね』と言われたりもしますが、僕自身は、大変な状況の時にクラブが僕に期待して、信用して、そういうポストを用意してくれることに、感謝の気持ちしかありません。だからこそ、その思いに結果で応えたいとも思う。それに、12年にチームを降格させてしまったことを考えれば、こんなにも早くガンバに戻ってこれるとは思ってもみなかったですからね。それをいろんな方のご尽力で戻していただいて…もっと言えば、あの時、指導者としてのキャリアをスタートさせてもらえたから、ガンバを出てからも指導者をさせてもらったり、いろいろなことを経験させてもらうこともできた。それが今の自分自身の財産になっていると考えれば、僕のサッカー人としてのキャリアの大半は、このガンバに支えられているといっても過言ではない。だからこそ、そのガンバに恩返しをするためにも、またガンバを応援してくださるたくさんの皆さんの思いに応えるためにも、全力でこの仕事に取り組みたいと思います」

 と同時に、就任に際して松波が強く打ち出したのは、『一致』という言葉だ。自身の選手時代の経験を踏まえ、またその後のキャリアにおいて様々な現場を目の当たりにしてきた中で、厳しい状況にあるチームを救う手立てとなるのは、その場にいる全員の気持ち、力を同じ方向に向かわせるという意味での『一致』だと松波は言う。だからこそ、就任に際してもチームに向けて、その思いを言葉に変えたと聞く。

「今は僕が12年に監督を預かった時以上に、難しい状況に置かれていると思います。僕の時ほど、ツネ(宮本恒靖監督)には準備期間もない。そうした今だからこそ、全員の気持ち、プレーを一つに向かわせることが必要だなと考えます。実際、僕の現役時代も、クラブ、チーム、選手、スタッフ、スタイルやサッカー感などいろんな面での『一致』があって、タイトルに繋がった。その経験からも、とにかく現場には目の前の1試合に対して、それを支える僕たちはそのサポートということに対して気持ちを『一致』させて進んでいきたい。この現状を目の前にして、チームが結果を出すために努力をしていない人間は一人もいないと信じていますが、改めて『一致』という言葉のもと、クラブ、チームに携わる全員の気持ちをひとつに揃えて進みたいと思います」

 

 言葉の端々に感じる『覚悟』は、松波がクラブに願い出た、というよりは「当たり前のこと」として申し出た、選手と同じ『プロ契約』という契約形態にも表れている。これまでのガンバ大阪の強化部長は、社員契約をしている人材が就任してきた流れで、その契約形態を変えずに同職に就いてきたが、松波は違う。そこにも彼の思いが見え隠れする。

「プロである以上、スタッフ、選手と同じように、いろんな成果を残してこそ評価されるべきなので。僕がその契約形態を願い出たというほど大げさな話ではなく、ごく当たり前のことだと思っています。これは、過去に歴任されてきた方と比べてとか、そこに異を唱えてということでは決してないし、むしろ他の方がどういう契約だったかもあまり分かっていません。ただ僕自身は、現場のスタッフ、選手と同じ形で勝負したい、という思いからそうさせてもらったということです」

 あとはそうした信念をいかにクラブ力として膨らませ、『結果』につなげていくか。松波が言うように状況は決して楽観視できるものではない。それは、彼が話した「12年より難しい状況」という言葉からも明らかだろう。だが宮本監督然り、元選手であるコーチングスタッフやクラブスタッフ然り、かつては弱小チームと言われたガンバ大阪が強豪クラブへと成長を遂げていく過程を選手として体感してきた彼らが、その中で常に『青い血』を煮えたぎらせて戦ってきた彼らが、チーム再建には欠かせない熱を与えてくれることは間違いないはずだ。

 だからこそーー。プロの世界、情熱や思いだけで結果が導きだせるほど甘くはないことを理解しながらも、今はただ、彼らの『ガンバ愛』が『常勝軍団』への復活に繋がると信じている。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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