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Omoinotake 島根発渋谷ストリートライヴ育ちの注目バンドが、満を持してメジャーデビュー

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

注目のバンドが満を持してメジャーデビュー。「やっとだなっていう気持ちはありつつ、でも浮かれる気持ちは全くなくて、これからが本当の勝負」

その音楽が徐々に広がりを見せていた、3ピースピアノロックバンドOmoinotakeが、11月17日にEP「EVERBLUE」でメジャーデビューした。藤井怜央/レオ(Vo&Key)、福島智朗/エモアキ(B)、冨田洋之進/ドラゲ(Dr)の3人には、これまでも何度かインタビューしてきたが、ひとつの目標でもあったメジャーデビューを果たしての思いは「やっとだなっていう気持ちはありつつ、でも浮かれる気持ちは全くなくて、これからが本当の勝負。ここからやり続けるしかないという思いを新たにしました」という、藤井の言葉に集約されているのではないだろうか。

2019年12月に配信した「トニカ」の歌詞にこんな一節がある。<抜け出せない日々をまたloop 出口を探すよ 弱く脆い心を抱えていたって>と、3人が感じている日々の葛藤やもどかしさをぶつけた。それは同郷の同世代のバンド・Official髭男dismのブレイクも、大きな刺激になっているからだった。以前のインタビューでレオはこのことについて「同郷の同年代のバンドの活躍は嬉しくもあり、刺激にもなり、同時に焦りにもつながりました」とその胸の内を吐露してくれた。そんな思いの中で迎えた2020年。コロナ禍で思うように活動ができず、もどかしさはさらに増すばかりだった。しかし彼らは止まってはいられないとばかりに楽曲とオンラインライヴを精力的に配信し、7月からは8週連続で"無観客"のオンライン・ストリート・ライヴ・ツアー"#NoBuskNoLife"を開催。自分達の音楽と思いを届け続けた。コロナ禍での日々を、“地力“をさらに向上させ、自分達を“更新”する時間と捉えて、メジャーデビューというスタートラインに立った。

メジャーデビューEP「EVERBLUE」の表題曲は、10月にスタートした人気アニメ『ブルーピリオド』(2020年マンガ大賞受賞作品)のオープニングテーマとして書き下ろしたもので、主人公の思い、原作のファンからも話題を集めている。この曲に込めた思い、そして「By My Side」「クロスワード」、銀杏BOYZの「漂流教室」という4曲で構成された彼らの“はじまり”の一枚について3人にインタビューした。

アニメ『ブルーピリオド』の主題歌として書き下ろした「EVERBLUE」が話題。主人公とバンドの重なる部分を丁寧に掬う

メジャーデビューEP「EVERBLUE」(11月17日発売/通常盤)
メジャーデビューEP「EVERBLUE」(11月17日発売/通常盤)

人気アニメ『ブルーピリオド』の主題歌として書き下ろした「EVERBLUE」。“はじまり”の一曲、人気アニメの主題歌という部分で、プレッシャーを感じた部分もあったと思うが「自分達と重なる部分がある」(レオ)という主人公、物語の曲を作るにあたって、原作のどの部分を一番「掬おう」と思ったのだろうか?

レオ 美大を目指す学生たちを描いたストーリーで、僕らもたくさんの人に音楽を届けるために色々なことがありながらもバンドを9年間続けてきて、主人公の八虎君が悩んだり苦しんだりする姿と重なるものがありました。制作サイドからは“疾走感”というテーマをいただいて、でもこれまでの僕らの曲って、疾走感があるものが意外に少なくて、最初はどんな疾走感にするか、悩みました。でも、八虎君が美術に向かう時に感じる苦悩と、僕らが音楽に向き合っているものがシンクロしていたので、疾走感がありつつも、その苦悩や葛藤をちゃんとメロディに映し出そうと思いました。僕達は“踊れる泣ける”曲というのをいつも目指していて、でも今回は前のめりに踊れる疾走感を表現しました。

エモアキ 元々大好きなマンガで、やっぱり僕達が歩んできた道と重なるシーンが多くて、言葉も刺さりまくりでボロボロ泣けるんです。例えば<そして俺はやっぱりただの人だ 特別じゃない 天才にはなれない やった分しかうまくならない だったら天才と見分けがつかなくなるまでやればいい>というセリフがあって、僕達も天才じゃないから、ストリートライヴをやっても最初は全然人が集まらなくて、でもやり続けているとだんだん足を止めてくれる人が増えてきて、そんな状況とすごく重なりました。苦悩や葛藤の先にある希望や喜びを感じてもらえるように、想いを込めて歌詞を書きました。

「EVERBLUE」は蔦谷好位置プロデュース。「自分たちの手が届かないレベルまで引き上げていただきました」

思い悩み、葛藤と闘いながらも、とにかく前へ前へと進んでいく主人公・八虎の強い“推進力”がリンクして、疾走感に繋がっている。「関ジャム完全燃SHOW」(テレビ朝日系)でOmoinotakeを激推しした(「2019年ベスト10」「2020年ベスト10」)、音楽プロデューサー蔦谷好位置が、Omoinotakeのメジャー一発目のアレンジを手がけるということで、注目を集めた。歌も演奏もかなり高度なテクニックが求められる曲だが、その制作はどのように進んでいったのだろうか。

ドラゲ Aメロ、Bメロはラテンっぽいニュアンスで、デモの段階ではAメロはもう少しファンク寄りでした。でも蔦谷さんがラテンっぽいアレンジにして、そこからどうやって疾走感を出すかを練っていって、すごく攻めているドラムなので難しかったです(笑)。でも今回、蔦谷さんがアレンジを手がけてくださると決まった時、ひとつの挑戦として、蔦谷さんのイメージ通りに叩こうと決めて臨んだので、気合が入りました。

エモアキ 僕らが作ったデモのイメージもかなり残してくださりつつ、そこからグンとレベルを上げていただいた感じです。

レオ やっぱり自分たちの手が届かないレベルのところまで引き上げていただいた感じです。足し算ではなく、掛け算になって、曲がどんどん進化していきました。

「EVERBLUE」は、ピアノがグルーヴィーで、ギターレスバンドの意味、ギターレスだからこそのグルーヴを感じさせてくれる。MUSIC VIDEOは御茶の水美術学院という芸大・美大の予備校に3ヵ月密着。受験生の様子を捉えたドキュメンタリー映像と、演奏シーンも同校でシューティングした。生徒たちのリアルな声も入っていて、アニメの世界とリアルな世界、楽曲とがひとつにつながっているような印象を受ける。

エモアキ 演奏をやらせていただいた教室には、これまでの卒業生が卒業制作で描いた絵がたくさん置いてあって、その絵がものすごいパワーを放っていて、それを感じながら演奏しました。その力強さが映像にも出ていると思います。

「大きな会場で鳴らす曲が欲しい」と思い作った「By My Side」だったが…

2曲目の「By My Side」は、NTTドコモ新料金プラン「ahamo」とのコラボレーション企画として書き下ろし、3月にデジタルリリースされた作品だ。メロディも歌詞もサウンドも、ライヴで盛り上がることを想定して作ったもので、しかしこの状況で思うようにライヴができず、ライヴをやってもまだシンガロングできないもどかしさを、3人は今感じている。

エモアキ 去年(開催中止となってしまった)SUPER SONIC前に作っていて、その時は歌詞がまとまらなくてペンディングになった曲です。でもやっぱり大きな会場で鳴らす曲が欲しいと思って作り始めたので、今年に入って、3月にコロナ禍ということもあるし、“繋がり”ということをテーマにして改めて書こうと思って、やっと歌詞が乗りました。ライヴは徐々にできるようになってきましたけど、この曲は、結局お客さんが声を出して盛り上がることが大事になってくるので、早くその光景を見たいです。

歌詞とサウンド、歌がひとつになって切なさが薫り立ってくる「クロスワード」

「By My Side」は、離れていても、想い合うことで繋がれるんだという思いや友情が描かれている前向きな歌詞とエレクトロなサウンドが相まって、気持ちをあげてくれる。曲の展開の意外性もOmoinotakeの真骨頂のひとつだ。3曲目の「クロスワード」はチルな雰囲気の、楽曲の中の“空間”を大切にしているOmoinotakeらしいバラードだ。

レオ この曲は珍しく詞先で、とにかく歌詞の世界観を大切にしようと思いました。いつもだったらすごく音程の高低差が激しいメロディを作りがちですが、今回は歌詞の世界観がそういう感じではなかったので、淡々としたメロディから始めてみました。

Aメロ、Bメロは淡々と進んで、でも淡々としてるからこそ聴き手はそこで色々想いを巡らせることができる。エモアキが書く歌詞がOmoinotakeの音楽に貫かれている“切なさ”に繋がっている。この曲も歌詞とサウンド、歌がひとつになって、切なさが薫り立ってくる。

エモアキ やっぱりこの女性目線の相手は、僕なんです。あの時ああ言うべきだったとか、こう言って欲しかったんだなとか、そういうことをひとつの恋が終わった後に考えるタイプで、僕のダメなところが全部詰まってる曲です(笑)。それがクロスワードみたいに、本当はこの言葉をはめて欲しかったのに、僕はこれをはめてしまっていたんだなって思ったことがきっかけでできた歌詞です。

ドラゲ レオがスタジオでこの曲をピアノを弾きながら歌っているのを聴いた時、メロディの美しさをいつも以上に感じて。なので今回は打ち込みのニュアンスが強いアレンジになっていますが、アコースティックでジャズっぽいアレンジでやっても、すごく映えそうなので、早くライヴでそのアレンジでもやってみたいです。

銀杏BOYZ「漂流教室」をカバー

福島智朗/エモアキ(B)、藤井怜央/レオ(Vo&Key)、冨田洋之進/ドラゲ(Dr)
福島智朗/エモアキ(B)、藤井怜央/レオ(Vo&Key)、冨田洋之進/ドラゲ(Dr)

ラストは銀杏BOYZ「漂流教室」のカバーが収録されている。メジャーデビューE.P.で銀杏BOYZをカバーしようと思ったのは、どういう思いからなのだろうか。

レオ メジャーE.P.に入れる曲を考えていた時に、カバーを一曲入れてみようっていうアイディアが出てきて、そんなことやっちゃっていいんですか?って思いながらも嬉しくて(笑)、そうなるとやっぱり自分たちの濃いルーツになっている、本当に大事なアーティストさんのカバーがいいなと思って、銀杏BOYZさんのこの曲を選びました。

ドラゲ レオとエモアキは銀杏BOYZを通ってきていますが、僕は通っていなくて。でもこのバンドの音楽を作っている2人のルーツになっている音楽なので、そこは尊重したかったです。この曲は独特のため感というか、曲のテンポ感やパターンもそうなんですけど、いつものように“色気”を叩いて表現するのが難しかったです。

この曲も初期衝動や青春が抱える“青さ”を描いていて「EVERBLUE」とどこか繋がっている、通じる部分がある。

レオ そこは全く意識していなくて、単純に銀杏BOYZさんの曲をやりたいけれど、Omoinotakeがカバーすることによって、原曲のよさをさらに引き出せそうな曲が想像してもなかなかなくて、逆によさを殺してしまいそうな恐怖もあったので、諦めかけたこともありました。でも唯一「漂流教室」だけは、僕達が演奏している姿をイメージすることができました。

エモアキ 銀杏ファンの方に気に入ってもらえると嬉しいです。

1月から全国ツアーがスタート

さあいよいよこれから、とギアを入れた途端、コロナ禍で思うように活動ができなくなってしまった焦りや悔しさ葛藤、それらを全て詰め込み、さらにありったけの希望をそこに乗せた3人の“叫び“が、メジャーデビューEP「EVERBLUE」だ。とにかく前へ進むんだというOmoinotakeの強い意志を感じさせてくれる。1月からは

全国ツアー『Omoinotake Major 1st EP「EVERBLUE」Release One Man Tour 2022』がスタートする。渋谷でのストリートライヴが彼らの原点。ライヴこそが3人が思いの丈を伝える、最高、最強の場所だ。

Omoinotake オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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