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リアルタイムで「鬼滅の刃」みたい子どもVS寝かせたい親 夜更し対策どうすれば?

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医
shutterstockより

小中学生の夜更かしが増加中

 コロナ禍の影響で、小中学生の「夜更かし」が進み、結果的に睡眠時間が減少していることを示すデータがある。大阪府堺市教育委員会が2020年12月に行った、小4~中2の約34,000人を対象とする調査結果だ。

 「午後11時までに就寝する」と回答した割合は、中学2年 33.2%(前年より4.5ポイント減)、中学1年 48.3%(前年より5.2ポイント減)と、前年より減少していたという。小6~小4でも同じ傾向がみられ、学年が上がるほど減少幅が大きくなる傾向があった。

 原因としては、やはりというか、夜遅くまでスマホやゲームをする習慣が考えられている。さらに10月10日からは、人気テレビアニメ『「鬼滅の刃」無限列車編』が、フジテレビ系列で日曜23時15分からという遅い時間帯で放送開始された。

 最近の子どもはテレビをみないとは言われるが、学校で友達との話題についていくために、リアル視聴する子どももかなりいるだろう。

なぜ夜更かしは悪いのか

10代~20代前半では、特に男性は夜型傾向が強い。朝起きられないことで遅刻が続くと、不登校につながりやすくなる。学校の朝の始業時間は早いので、寝つくのが遅いとどうしても睡眠不足となり、集中力がなくなり成績も下がってくる。子どもの睡眠不足は、忘れ物やうっかりミスといった不注意や、落ち着きのなさやかんしゃくなど、情緒不安定の要因となる。食生活も夜型化し、寝る前の食事や間食の増加で、肥満にもなりやすくなる。

 学校や家での生活に明らかな支障が生じている場合は、「睡眠・覚醒相後退障害」という睡眠障害の診断が下される。夜の2時~朝の5時くらいに寝ついて、昼過ぎに起きるというのが典型的なパターンだ。

 児童・青年期世代での調査において、「睡眠・覚醒相後退障害」の有病率は7-16%にのぼり、決して珍しくはない睡眠障害といえる[1]。

どうして夜型化するのか 

 メラトニンは、夜中に分泌される神経ホルモンで、睡眠を安定させたり、生体時計の調整を行ったりする作用をもっている。夕方以降に明るい光を浴びると、若者はただでさえ分泌スタート時刻が遅いメラトニンの分泌を、さらに弱くかつ遅くしてしまう。

 スマホなどのLED画面からのブルーライトは、特にメラトニンを抑制するはたらきが強い。子どもが夜にテレビやスマホなどの光を浴びるのは、寝つきが悪くなる、眠りが浅くなる一つの原因だ。

 子どもの場合、大人と比べて瞳孔が大きいこともあり、光の影響を大人より受けやすくなる。「メラトニン」分泌が光によって減る程度は、子どもでは大人の約2倍になることが示されている[2]。

 コロナ禍では、小中学生では、オンライン講義は大学生ほど普及していないかもしれない。しかし、体育や部活動の時間が減っている、分散登校で友達どうしの会話や遊びが減っている、など日中の活動量が低下しているのも、生活リズムが乱れて夜型になりがちな要因となっている。

3つの基本的な夜更かし対策

 ロンドン大学ゴールドスミス校心理学部のアリス・グレゴリー教授は、自身も育児で悩んだ経験のある睡眠科学と心理学の専門家だ。グレゴリー教授が著した直近の書籍では、著者自身の思い入れからか、子どもと親の睡眠については特に力を入れて、彼女自身や出会った人々との経験を、科学的なエビデンスを織り交ぜながら語っている[3]。

 それによると、子どもの夜更かし対策は、以下の3つが基本的な方法である。

1.午前中の光をたっぷり浴びる

 朝はまずカーテンを開けて太陽の光を浴びる。

2.就寝前の光を避ける

 夜の照明を弱くする、少し暗めの暖色系の照明を使ってみる。スマートフォン、タブレットの使用も減らす。

3.昼間に体を動かす

 日中の適度な運動は、体内リズムを整える。できれば太陽の光を浴びる野外運動が望ましい。

 おそらく、聞いたことのある知識だろうが、改めて確認しておきたい生活習慣である。しかし、こういった知識を知っていても、いざ子どもを早く寝かせようとして失敗するなど、「医者や学者の言うようにはうまくいかない」場合が少なくないだろう。

 理論と現実とのギャップを、グレゴリー教授も痛感しており、後で述べる睡眠教育が、大切だと述べている。グレゴリー教授の提案とともに、いくつか現代に合わせた対策を考えてみた。

寝室にテレビを置かない。ストリーミングの利用にも注意

 テレビ離れが進んでいるとはいえ、現在でも依然としてテレビは影響力の大きいメディアである。当然のことに思われるだろうが、寝室にはテレビを置くべきではない。自分の部屋にテレビがある幼稚園児は、ない子どもよりも睡眠の質が劣ることが研究で明らかになっている[4]。親と一緒に寝ている場合は、寝室にもテレビを置いている家庭もあるかもしれないが、寝室で「鬼滅の刃」をみたあとは、眠りにくくなるのも無理はないだろう。

 日曜日深夜の放送と聞けば、「録画して後でみればいい」とまずは思うだろう。あるいは、「ストリーミングで好きな時間にみればいい」と、ネット社会の現代ならばまずは考えるだろう。わたしも日曜深夜の放送時間帯をライブでみるよりは、オンデマンドで視聴できるポータルサイトで、夜遅くない時間帯にみることをおすすめする。ちなみに「鬼滅の刃」は、多くのストリーミングサービスに対応している。

しかし、ストリーミングサービスですべてが解決するかというと、むしろ問題を深刻にしてしまう危険性をはらんでいる。Netflixの最高経営責任者リード・ヘイスティングは、「睡眠が最大のライバルだ(We’re competing with sleep)」と断言している。アメリカ睡眠医学会は、ストリーミングサービスの利用者向けに、作品を一気にみることについては、責任をもって行うようにという声明を出している。

 わたしも含めて、ストリーミングサービスで、シリーズ物を夜遅くまで一気にみてしまった経験をお持ちの人もいるかもしれない。アメリカ睡眠医学会の先ほどの提言では、ストリーミングはスマホでみずにテレビでみるなどのコツが紹介されているが、実際には誘惑に負けてしまうなど、まだ残念ながら効果的な解決策・抑制策はない。

「睡眠習慣」の合う仲間とつき合う

 人気テレビ番組については、録画やストリーミングサービスではなく、「生でみたい」という要望もある。なぜならば、次の日に学校の話題に、ついていけなくなるからである。テレビがコミュニティの話題の中心だった時代は、廃れつつある風習だが、人気番組はまだ立派な話題にはなりうる。

 話についていけなければ、仲間はずれにされてしまう、友達つき合いが楽しくなくなる、などの理由から、どうしてもその時間帯にみたいという子どももいるだろう。この点からも、日曜深夜に放送時間帯を設定したのは非常に疑問であり、「ネットでもみられる」など、大人の身勝手な判断である側面もある。

最近の研究では、青年期には友人が睡眠習慣に影響を与える重要な存在であることがわかってきている。タバコや酒、ドラッグを悪友から教わるのと同じように、健康習慣も仲間うちの相互の影響を受ける。睡眠習慣ももちろんその一つで、良い習慣も悪い習慣も、仲間のうちで拡散される[5]。

 したがって、「なんだ、夕べテレビみていないのか」という仲間とつき合うよりは、「ストリーミングサービスでみたあとで話そうか」という仲間とつき合うほうが、健康的にも精神的にも良いということになる。

「睡眠教育」のすすめ

 教育は重要であり、子どものうちから睡眠や体内リズムの話をしておくのは、わたしは大切なことだと考えている。地道なことだが、「良い仲間」を増やしていくことにつながる努力である。

 子どもには、「鬼滅の刃」やアクション系のような興奮させるような内容よりは、退屈なくらいのんびりしたコンテンツのほうが、寝る前には望ましいことは伝えてもいいだろう。対象となる年齢は低くなるかもしれないが、眠りにとってよい絵本がある。スウェーデンの作家、カール=ヨハン・エリーンによる「おやすみ,ロジャー」(飛鳥新社、2015年)はベストセラーとなったが、「あくびおじさん」とか「ウトウトフクロウ」といったゆるいキャラクターが登場する。

先述のグレゴリー教授も、「ねむたい こいし~読むだけたくなる絵本~」(かんき出版、2015年)という絵本を発売している。

睡眠教育という目的では、日本の「ねこすけくんがねているあいだに・・・」(リーブル、2021年)は、楽しくコミカルに睡眠の大切さが学べる絵本である。

 若い人に夜型が多いことははじめに述べたが、早すぎる学校始業時刻も子どもの睡眠不足の遠因であることがわかってきている。アメリカのランド研究所の報告書(2017年)によれば,学校の始業時間を午前8時30分、またはそれより遅くすれば、健康・経済ともにもメリットがある可能性を指摘している[6]。

 睡眠時間の増加のおかげで事故が減り、学業成績の向上がもたらされる結果、アメリカ経済には10年間で830億ドルもの恩恵があるだろうと予測している。日本では、始業時刻を遅くすることは、諸方面から反対が多く当面は難しいだろうが、子どもの健康向上のためにはぜひ検討されてほしい。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

  1. Nesbitt AD. Delayed sleep-wake phase disorder. J Thorac Dis. 2018; 10(Suppl 1): S103–S111. doi: 10.21037/jtd.2018.01.11.
  2. Higuchi S et al. Influence of light at night on melatonin suppression in children. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99(9):3298-303. doi: 10.1210/jc.2014-1629.
  3. アリス・グレゴリー. 「英国式 科学が実証する睡眠の技術 人生を最高にする眠り方」. (日向やよい 訳、西多昌規 監訳). ニュートンプレス(2021年11月発売予定)
  4. Cespedes EM et al. Television Viewing, Bedroom Television, and Sleep Duration From Infancy to Mid-Childhood. Pediatrics. 2014; 133(5): e1163–e1171. doi: 10.1542/peds.2013-3998.
  5. McMakin DL et al. The impact of experimental sleep restriction on affective functioning in social and nonsocial contexts among adolescents. J Child Psychol Psychiatry. 2016;57(9):1027-37. doi: 10.1111/jcpp.12568.
  6. Hafner M et al. Later School Start Times in the U.S. An Economic analysis. RAND, 2017, Cambridge. https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RR2100/RR2109/RAND_RR2109.pdf

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に、「休む技術2」(大和書房)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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精神科医の西多昌規(にしだ まさき)です。メディアなどで話題となっている、あるいは世間の関心を集めている事件や出来事を、精神医学やメンタルヘルスから読み解き、独自の視点をもとに考察していきます。医療・健康問題だけでなく、政治経済や社会文化、芸能スポーツなども、取り上げていきます。*個人的な診察希望や医療相談は、受け付けておりません。

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