添い寝で髪の毛が巻き付いて、赤ちゃんが窒息した事例も 「ヘアターニケット」とは?
産後の女性は、脱毛の量が通常より多くなります。そのため、長い髪の親は赤ちゃんの「ヘアターニケット」に注意が必要です。生後まもなくから、赤ちゃんと一緒に添い寝している親は多いかもしれませんが、ヘアターニケットによって窒息した事例が報告されています。
髪の毛で首が絞まった女の子
「ヘアターニケット」というのは、直訳すると「髪の止血帯」という意味です。髪の毛や糸などが、小さな子どもの指や生殖器などの身体の一部分に巻き付くことで、血行が阻害される病態です(図1)。
日本小児科学会で取り上げられた、ヘアターニケットで窒息しかけた実例(1)を紹介したいと思います。
この事例では、母親が生後10か月の赤ちゃんと一緒に添い寝していたそうです。このとき、どうやら母親の髪の毛が赤ちゃんの首にからまってしまったようです。子どもが大泣きして母親がそれに気づき、自分の髪の毛が赤ちゃんの首にからまって、絞めつけているのを発見しました。
父親が寝室に駆けつけて、すぐにハサミで赤ちゃんの首を締め付けている母親の髪の毛を切断しました。髪の毛により首が絞まっていたのは実質5分ほどでしたが、この間窒息していた可能性がありました。
顔面のうっ血がひどい状態だったので救急車を要請しました。心肺停止などの重大な事態には陥っていないようで一安心できる状況でしたが、すみやかに医療機関へ搬送されました。
念のため法医学教室の医師に診察してもらい、虐待で絞められた痕ではなく、毛髪による絞頸(こうけい)、すなわち「ヘアターニケット」と証明されました。
その後、赤ちゃんは退院し、問題なく元気に生活しているようです。
オムツにも注意
赤ちゃんの指などの細い部位は、髪の毛が巻き付いただけでも、静脈とリンパ管が閉じてしまい、その先がうっ血してむくんでしまいます。これを放置しておくと、次は動脈が閉じてしまい、最悪の場合、壊死して切断を余儀なくされるリスクもあります。
赤ちゃんが原因不明で泣いている場合、指などにヘアターニケットがないか探すというのは、小児救急の鉄則になっているくらい重要な病態です。
産後の女性は、脱毛の量が通常より多くなり、新生児も手をぎゅっと握る傾向にあるため、手指のヘアターニケットのリスクが一番高い時期です(図2)。
また、足や手の指だけでなく、男児では陰茎、女児では陰唇や陰核などのデリケートな場所でもヘアターニケットが起きることが知られています。実際に、オムツに髪の毛が入り込んで男児の陰茎がヘアターニケットの状態に陥った事例が報告されているので注意してください(2、3)。
特に濡れた髪の毛は注意が必要です。巻き付きやすいだけでなく、乾燥することで引き締まって、ヘアターニケットになりやすいとされています。
まとめ
赤ちゃんと添い寝する場合、気を付けなければならないことがたくさんあります。
できるだけベビーベッドを使用することが望ましいですが、添い寝する場合、毛髪が長い人は髪をくくるか調整することが重要です。
(参考)
(1) 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. No.117 ヘアターニケット(毛髪)による頸部絞扼(URL:https://www.jpeds.or.jp/modules/injuryalert/index.php?did=148)
(2) Rawls WF, et al. Frontiers in Pediatrics. 2020;8(8):477.
(3) Baarimah A, et al. Case Rep Urol. 2022;2022:8030934.