aiko、最新アルバム『どうしたって伝えられないから』で注目したい色彩豊かな編曲のチカラ
●心の動きを繊細になぞるメロディーやアレンジ
aikoが、3月3日に約2年9カ月ぶり14枚目となるフルアルバム『どうしたって伝えられないから』をリリースした。シングル「青空」、「ハニーメモリー」を含む全13曲を収録している。
昨年、デビュー曲「あした」から、「花火」、「カブトムシ」、「ボーイフレンド」、「キラキラ」、「KissHug」、「もっと」、「ストロー」などの代表曲によって、多くのライトリスナーを取り込んだサブスク解禁から1年。本作は、解禁後初のアルバム作品となる。
人と距離感をとらなければならない時代。愛することへのせつなさ、痛み、美しき心の葛藤を描いた言葉の魅力。心の動きを繊細になぞるメロディーやアレンジのチカラ。本作は、色彩豊かなaikoらしいアルバム作品に仕上がっている。aikoの楽曲は、季節やシチュエーションが絵で浮かびやすいのでストリーミングサービスのプレイリストに選曲されやすい側面を持つ。
●常にフレッシュな佇まいで時代と寄り添った作品を生み出し続ける
いまや、どんなアーティストも作品をネット発信する時代となった。昨今、YouTubeやTikTok、Spotifyなどシーンを賑わす“ネット発アーティスト”という言葉は近く無くなっていくのではないだろうか。注目したいのが、どの“ネット発”表現者も驚くべきことにaikoからの影響を熱く語っていることだ。しかし、相変わらずaikoの存在は他の追随を許すことなく、唯一無二でありオリジナリティーに富んでいる。
日本を代表するシンガーソングライターとして確固たるポジションを確立しながらも、常にフレッシュな佇まいで時代と寄り添った作品を生み出し続けるaiko。その独特な旋律を言葉で紡ぐ魅力は、デビュー以来、音楽プロデューサー島田昌典による編曲のもと世に浸透していった。さらに、注目したいのが2014年から加わったアーティストOSTER projectによるアレンジメントへの参加だ。ボーカロイドプロデューサーとして活躍していたOSTER projectの起用は、aikoサウンドにおいて“人が演奏するには難しいテクニカルなアレンジメント”を推し進めた。aikoとボカロ文化圏との接点、そしてOSTER projectという音楽的才能をJ-POPフィールドで評価したことに着目したい。
●音楽を模索する自由さと向き合いながら、日常における輝きを表現した1枚
最新作『どうしたって伝えられないから』では、トオミヨウ、OSTER project、島田昌典という3名のアレンジャーを楽曲ごとに起用。それぞれの個性を活かすことで、サウンド面における奥深さを追求している。トオミヨウは、シンガーソングライター石崎ひゅーいのサウンドを手がけている、昨今最も勢いを感じる音楽プロデューサーだ。aikoサウンドは、aikoによる詞と曲、歌がある限り不変なのだが、編曲が時代ごとに進化する傾向があり、そんな変化をaikoは恐れることなく音楽の幅の広さとして楽しんでいるように思う。
aikoらしさを助長する楽曲のコード展開、メロディーの流れが難解でありながらもキラキラしたポップ・フィーリングに包まれているのはアレンジとのシナジーによる効果だ。
●アルバムの根底に流れているテーマ性とは、生きることの本質へと向き合うこと
14枚目のアルバム作品となる『どうしたって伝えられないから』は、“これまでの当たり前が当たり前でなくなった”コロナ禍の影響を大きく受けた作品だ。日々の生活から生まれた歌う喜び、音楽を模索する自由さと向き合いながら、日常における輝きを表現した1枚となった。
ティーンエイジャーの頃に感じていた永遠の日々は、年齢を重ねるごとに諦めや限界がみえてくる。しかし、そんな限りある時間を生きるからこそ、笑える日常があることも真理だ。歌い出しから“ねえ 合鍵も返さないで何してるの?”というパワーワードに心揺さぶられた「ばいばーーい」、“あなたの隣でいるということ それが生活”と歌う「いつもいる」では、そんなポジティブな心意気を楽曲に感じられた。本作のオープニングとエンディングナンバーだ。
もちろん、ソウルミュージックテイストに溢れたイントロダクションが明快な「メロンソーダ」、ピアノが跳ねるビートが痛快な「シャワーとコンセント」、柔らかなキーボードによる音使いとノイズのセッションが耳に優しい「愛で僕は」、メロウなロッカビートがせつなくもエモい「ハニーメモリー」、爽快に突き抜けるポップ濃度の高い「青空」、ギターサウンドがホットな「磁石」、オーケストレーションがドリーミーな「しらふの夢」、シンプルなピアノポップ「片想い」、サビでの高揚感がたまらないピアノが牽引するポップソング「No.7」、キュートな音使いがきらびやかな「一人暮らし」、ドラマティックな旋律が物語を加速する「Last」などで伝わる、フレッシュな躍動感も心にあかりを灯してくれる。
生きるとは日々を告白していくこと。呼吸すること。大切な人との時間を大事にしたいと思うこと。アルバムの根底に流れているテーマ性とは、生きることの本質へと向き合うことだ。思いを言葉で説明することは難しい。でも、音楽でなら伝わるかもしれない。まだまだ不安な日々は続くが、aikoが生み出す音楽によって日々を生き抜いていきたい。そう思わせてくれる2020年〜2021年を記録した、今年をあらわすアルバム作品だ。
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