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『妻、小学生になる。』 私たちの心を照らす、かけがえのない奇跡の物語

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:TBS

大切な人を失ったとき、人は何を思い、何を感じるのだろうか。

それは二度と経験したくないほど辛い感情であるとともに、心に深く刻み込まないといけない大切な記憶でもある。『妻、小学生になる。』(TBS系にて毎週金曜夜10時~)は、大切な人を失ったある家族に起こった奇跡を描いた、儚く切ない物語である。

■10年前に死んだ妻が小学生になって家族の前に

最愛の妻・貴恵(石田ゆり子)を事故で失って10年。生きているのか死んでいるのか分からない抜け殻のように毎日を過ごしていた会社員・新島圭介(堤真一)とその娘・麻衣(蒔田彩珠)のもとにある日、一人の小学生が訪ねてくる。

彼女の名前は白石万理華(毎田暖乃)。あまりにも突然の出来事にあっけにとられる圭介たちをよそに、万理華はまるで自分の家であるかのように自然に振る舞う。なんと彼女は圭介の死んだ妻・貴恵の生まれ変わりだと言うのだ。

写真提供:TBS
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にわかには信じられず最初は戸惑いを隠せなかった圭介だが、やがて万理華とのやり取りや会話を通じ、彼女が妻の生まれ変わりであることを確信。その日から幸せな日々を過ごすが、やはりどうしても困難や矛盾が生じ、次第にほころびが目立ち始める。そこで圭介はついに万理華の母・千嘉(吉田羊)と正面から向き合い、万理華の秘密を打ち明けるのであった。

2/18放送の第5話では、貴恵の弟・友利(神木隆之介)の知り合いで、生まれ変わりをテーマにした作品がベストセラーになった中学生小説家・出雲凛音(當真あみ)と関係がありそうな謎の男(水川かたまり/空気階段)が登場。ストーリーは新たな展開に向け大きく動き出した。

■ファンタジーを成立させようとする真摯な姿勢

生まれ変わりや転生、魂の入れ替わりといった、時間や空間を超えた人の絆を描いた作品といえば、東野圭吾の小説『秘密』、新海誠監督の映画『君の名は。』、宮藤官九郎脚本の映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』、ドラマ『パパがも一度恋をした』など、これまでにもさまざまな名作が世に生み出され語り継がれてきた。本作も村田椰融の連載漫画が原作となっている。

新島家に起きた出来事はまさに奇跡としか言いようがない。圭介も貴恵も、この時間が永遠に続いて欲しいと心から願っている。だからこそ、何気ない生活の中で彼らが見せる幸せそうな笑顔がたまらなく切なく愛おしい。

写真提供:TBS
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このドラマを支えているのは、第一に俳優陣の確かな芝居である。ふとした瞬間に石田と100%シンクロしたかのような毎田の表現力がダントツに光っていることは間違いないが、彼女の演技をよりリアルなものにするために、貴恵役の石田ゆり子はもちろん、圭介役の堤真一、麻衣役の蒔田彩珠、友利役の神木隆之介、千嘉役の吉田羊、すべてのキャストが一丸となって支えている様子がうかがえる。

特に第5話、万理華が自分の家で千嘉に話しかけた後、カメラが切り替わると貴恵の姿になっていたシーンは、鳥肌が立つくらい印象的な演出だった。

写真提供:TBS
写真提供:TBS

脚本は同じく原作モノである『あなたには帰る家がある』『凪のお暇』など、人物の丁寧な心情描写に定評がある大島里美。しょせん夢物語と言ってしまえば元も子もないが、ドラマ全体からキャスト・スタッフがこのファンタジーをキチンと成立させようという真摯な気持ち、姿勢が伝わってくる。

■大切なものは何かを問いかける、今を照らすドラマ

多くの人たちの命を奪い、今なお私たちを苦しめる新型コロナウイルス。地球温暖化の影響により世界規模で年々激しさを増す異常気象。領土をめぐる国同士の熾烈な争い。市民の自由を無理やり押さえつけようとする権力。

いつ何が起きてもおかしくない、いつ大切な人を失ってもおかしくない。自分たちが紙一重でこの世界を生きていることに、この2年余りで多くの人が痛いほど気づかされてしまった。形こそ違えど、大切な何かを失ったという意味では、私たちも新島家と同じではないだろうか。

ストーリー的には、このまま万理華の記憶が戻らずに終わるとは考えづらい。なぜなら、それではこれまで万理華が積み重ねてきた人生が失われたままになってしまうからだ。愛する人に別れを告げる「その日」はいつかやって来るだろう。しかし、圭介たちにはどうか前を向いて歩いて欲しい。それはきっと貴恵の願いでもある。

『妻、小学生になる。』は、今、この時代を生きていく上で大切なものは何なのかを私たちに示唆してくれる、かけがえのない作品なのである。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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