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「加工肉や赤身肉に発がん性のリスク」というニュースに思うこと

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

加工肉や赤身肉に発がん性があるとWHOの機関より発表があった、という新聞報道が10月27日にありました。これはIARC(国際がん研究機関)による10月26日のプレスリリースに基づく内容です。

これを受けての日本国内での反応は比較的冷静なものが多い印象でしたが、私の身の回りやネットなどの反応をみると、加工肉のリスクについてどう受け止めたら良いのかよく分からない、というのが正直な感想のようでした。

今回は他のニュースではあまり採り上げられない、食べものと健康の難しい関係について独自視点でお話しをしてみたいと思います。

■IARCの分類って?

まずお話しをしたいのは、加工肉や赤身肉が大腸がんのリスク要因である、というのは特に新しい話ではない、という事です。栄養学者の間では、食べものと健康の関連を調べた疫学研究のデータの蓄積から、加工肉や赤身肉を多く食べる人たちは、そうでない人たちに比べ大腸がんの発生割合が高いというのは以前から分かっている話であり、今回の報道は「ああ、IARCの評価でリストに収載されたのね」という程度の感想です。

参考までにIARCの分類は以下の通りで、危険の強さではなく、発がん性がどれぐらい明確かという基準で分類されます。

グループ1:ヒトに対しての発がん性がある

グループ2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある

グループ2B:ヒトに対して発がん性がある可能性がある

グループ3:ヒトに対する発がん性については分類できない

グループ4:ヒトに対しておそらく発がん性がない

リスト一覧はIARCのサイトで確認出来ます。

グループ1だからどうではなく、多くの方の関心は、ニュースを聞いた私たちは何をすれば良いの?それとも何もしなくて良いの?ということではないでしょうか?

■どれぐらい影響があるの?

そもそも加工肉と赤身肉って何でしょう? 加工肉は燻製や塩蔵など加工をして保存性を高めた食肉製品のことで、ハンバーグや挽き肉などは含まないものです。赤身肉は牛や豚、羊などの獣肉のことで肉の赤身だけのことではありません。鶏肉やラードのような脂だけを取り出したものも含みません。

発表の元となった信頼性の比較的高い疫学調査の結果から、加工肉の摂取量を1日平均50g増加させると大腸がんのリスクが18%、赤身肉では100g増加すると17%上昇すると評価されました。

なるほど、50gで18%ですか、大きいような気もしますが、これだけでは何ともいえません。英国のデータを参考にしてみるともう少しわかりやすいかもしれません。加工肉を1日平均20g未満の最も少ない摂取量のグループ1000人が生涯56人が大腸がんになるところ、最も加工肉をとっていたグループでは66人が大腸がんになるというレベルです。喫煙者の肺がんリスクが非喫煙者の何倍にもなる事に比べれば影響は限定的とはいえるでしょう。

とはいえ、この情報だけでは自分はどうしたら良いのか判断がつきません。日本人がどれぐらい加工肉や赤身肉を食べているのか平成25年の国民健康栄養調査を参考にしてみます。成人男性では1日平均でハム、ソーセージ類を13.7g、牛豚肉を41.3g 成人女性ではそれぞれ11.0g、28.7g摂取しているというデータがあります。発がん性の根拠となっている調査では、加工肉の摂取量が一番小さなグループとして1日平均20g未満としてますので、日本人の平均的摂取量はとても少ないことがわかるでしょう。なので、日本人全体で考えると加工肉の食べる量についてはそんなに気にしなくて大丈夫だとわかります。ただし、食べる量には個人差がありますので、周りの人に比べて明らかに沢山食べている人は今後気にしても良いかも知れません。赤身肉の摂取量も同様で、現状の日本人の平均的な摂取量を見る限りさほど気にしないでも大丈夫です。参考までにヨーロッパやオーストラリアでは、1日の赤身肉は70g程度、1週間では450g程度にしましょうと提言されています。食べすぎかなと思う人はこの値を目安にしてみると良いでしょう。

■メリットとデメリット

せっかくなので、こうした問題が話題になっているときですので、食べものと健康についてもう少し突っ込んだお話しをしたいと思います。

多かれ少なかれ、ほとんどの食べものには体にとって有害な成分が含まれております。健康に良さそうなイメージの玄米ですが、IARCのグループ1に収載されている無機ヒ素が比較的多く含まれている食品です。じゃが芋の芽や皮の部分にはソラニンという毒成分があることがよく知られております。けれども、危ない成分が含まれているから食べちゃダメとはなりません。

食べものには人間にとって良い部分と悪い部分両方があり、それを食べる事によるメリットがデメリットを明らかに上まわっているものを私たちは食べものとして利用しているわけです。

このようなメリットとデメリットは、誰でもいつでも同じではなく、年齢や性別、生活習慣、疾病など様々な要因で変化します。牛乳アレルギーを持つ人にとって牛乳は危険な食べものですが、アレルギーのない子どもにとっては、成長期に必要な栄養を効率よくとることができる有用な食品です。低栄養状態の人にとっては牛肉やレバーなどはたくさん食べてもらいたい食品といえますが、肥満気味であったり生活習慣病を持つ人にとっては避けたい食品かも知れません。

ニュースで話題になった牛肉は美味しいだけでなく、たんぱく質源を豊富にふくみ、鉄や亜鉛の良い供給源になります。その他植物性食品に含まれていないビタミンB12をとることができます。危険性があるから食べるのを避けると、必要な栄養が確保できない、という可能性もあるでしょう。また、他の食品で補おうとして、かえって別の病気のリスクを高めてしまう、なんてこともあるかも知れません。発がん性を気にするのなら、喫煙やアルコールなどメリットが少ない要因から対策をした方が良いといえるでしょう。

食べものとがんの関係は肉だけの問題ではありません。日本人を対象とした研究(JPHC Study)では塩蔵食品が胃がんのリスクになっているという結果がでております。この研究では塩蔵した魚や干物やたらこなどの塩蔵魚卵を多く食べる人たちでは胃がんリスクが高くなることがわかっています。健康に良いと思われている海産物も塩蔵品では必ずしもそうではないことは知られて欲しいところです。色々な物をまんべんなく食べることががん予防にも栄養面から考えても望ましいということになりそうです。

■今回のまとめ

・IARCのリストは発がん性の根拠の強さで分類したもので危険性ではない

・日本人全体で見ると加工肉や赤身肉はとりすぎていない

・食べものはメリット、デメリットをてんびんにかけて

・食べものは偏らないようにまんべんなく色々なものを食べると良い

・報道に一喜一憂しない

・自分の食生活をふりかえる機会にしましょう

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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