【参院選情勢分析】大混戦の東京都選挙区で候補者は20名超えか、最新の情勢は
いよいよ参議院選挙の公示まであと1ヶ月となりました。どの選挙区でも候補者の擁立がだいたい決まり、構図が固まってきています。衆院選と異なり政権交代が起きないため、有権者の関心も低くなりがちな参院選ですが、昨年の衆院選から8ヶ月経ったなかで、有権者が各政党や候補者にどのような判断を下すか注目がこれから集まるものと思われます。
特に筆者が注目している選挙区について、選挙区の構図図式と情勢について分析した記事をお送りいたします。
まず最初は、首都決戦である東京都選挙区です。改選定数は「6」と最大の選挙区ですが、これまでの参院選でも東京都選挙区は候補者が数多く擁立されてきました。今回は序盤こそ無風とまでいわれてきましたが、最近情勢が急転しています。
候補予定者の顔触れ
候補予定者情報を網羅的にまとめている「選挙ウォッチ/参院選2022」によれば、現在のところ21名が立候補の表明をしているか、予定をしています(5月22日時点)。
自由民主党
まず自由民主党ですが、現職・朝日健太郎氏と、新人・生稲晃子氏を擁立しました。現職・中川雅治氏の引退に伴い、アイドルグループで活躍し知名度を誇る生稲晃子氏を擁立したことで、期せずして「芸能・スポーツ枠」から2人の候補者を擁立したことになります。朝日健太郎氏は前回新人で当選した後も、都下の地方選挙などに精力的に応援に入るなどし、友好団体や組織からの人気も高く、また知名度もあります。生稲晃子氏は「働き方改革実現会議」の有識者委員を務めたほか、「おニャン子クラブ」メンバーとして一定の知名度があると思われますが、公認発表が遅れたことにくわえて「女性候補」の多さもあり、保守系や(おニャン子クラブの)支持世代層にどれだけ浸透ができるかが鍵になりそうです。
立憲民主党
立憲民主党は、現職・蓮舫氏と、新人・松尾明弘氏の2名を擁立しました。現職・蓮舫氏は前身となる民進党で代表を務めたほか、国会質疑などでも多く立つことから知名度は高く、根強いファンも多いことから前回・前々回に引き続きトップ当選を狙う勢いです。一方、党都連内の予備選挙で公認が決まった松尾明弘氏は2021年の衆院選で東京2区から出馬し比例復活に届かなかった前衆議院議員。蓮舫氏がこれまで100万を超える票を叩きだしていることから、党としての票割りが綺麗にできるかどうかが2人当選のポイントになりそうです。
公明党
公明党は、現職・竹谷とし子氏を擁立しました。公明党は過去5回の参院選において、東京都選挙区で安定して80万票近くを獲得しており(2019年815,445票、2016年770,535票、2013年797,811票、2010年806,862票、2007年794,936票)、今回の混戦ムードを鑑みれば、支持母体である創価学会会員の高齢化などの課題があっても、当選圏外になることは考えにくい状況です。
日本共産党
日本共産党も、現職・山添拓氏を擁立しました。日本共産党は過去5回の参院選において、改選定数6となった2013年以降は70万票近くを獲得しており(2019年706,532票、2016年665,835票、2013年703,901票、2010年552,187票、2007年554,104票)、今回も同様とみられています。仮に同じ票数が獲得できれば当選圏内との見方もある一方、2013年以来のれいわ新選組山本太郎氏立候補がどの程度選挙戦に影響するかも考える必要がありそうです。
日本維新の会
日本維新の会は、新人・海老澤由紀氏を擁立しました。大阪市議会議員の海老澤氏は2012年に維新政治塾1期生を経て、都議選で2回連続落選後に大阪市議に鞍替えして当選しています。直近の衆院選(2021年)では、比例で公明党(715,450票)や共産党(670,340票)を上回る858,577票を獲得しており、仮にこの時の比例票をそのまま海老澤氏の票として再現できれば、当選圏内とみられます。しかしながら、政党支持率は衆院選直後から緩やかに下降傾向であり、知名度のある候補者が複数出てきていることから空中戦で票を思ったように獲得できなければ、一転して苦しい戦いになるでしょう。
ファーストの会
地方政党である都民ファーストの会の系譜をもつファーストの会は、新人・荒木千陽氏を擁立しました。都民ファーストの会は2021年の東京都議会議員選挙でも当初の予想を上回る議席を獲得しましたが、ひとえに小池百合子東京都知事の人気によるところが大きいのが実情です。今回も荒木氏の事務所開きに小池都知事が登場するなど連携が行われるのは確実な情勢で、都議選と同様に最終盤に猛追する形の選挙戦が展開されるものとみられます。一方、国政選挙への挑戦は初めてであり、国民民主党との連携こそあるものの、既存政党に挑戦する図式の中で票をどれほど出せるかは未知数の部分も多く、予断を許しません。
れいわ新選組
れいわ新選組は当初擁立を発表していた依田花蓮氏を全国比例に転出させ、先日まで衆議院議員であった党代表の山本太郎氏を擁立しました。れいわ新選組の人気は、まさに山本太郎氏の人気そのものであり、当初は「山本太郎代表が衆議院議員であることが、最大の弱点」とまでいわれていました。衆院議員辞職時に山本氏は(既に依田花蓮氏の東京都選挙区擁立が決まっていた上で)「すでに擁立の決まっている選挙区には出ない」と発言をしていましたが、自身の出馬経験もある東京都選挙区での出馬を観測する向きは高く、事実そうなりました。9年前の東京都選挙区当選時に山本氏は666,684票を獲得しましたが、この時は民主党(当時)が候補者を1人しか擁立していないにもかかわらず相当な逆風が吹き荒れ、また山本太郎氏に社民党などが推薦をしている状況でした。直近の衆院選での比例票は360,387票であり、今回はここからどれだけ上積みできるかの戦いとなるでしょう。
社会民主党
社会民主党は新人の服部良一氏を擁立しました。社民党は直近3回の参院選では2013年には公認候補を擁立せずに山本太郎氏を推薦、2016年(93,677票)、2019年(86,355票)はそれぞれ10万票近くを獲得しています。また、2021年衆院選でも比例で92,995票を獲得していますが、一方2019年参院選では全国比例での政党得票数が1,046,011票と、1議席獲得の目安となる100万票をわずかに上回る程度だったことから、比例区の票を積み重ねるためにも大選挙区である東京都選挙区での候補者擁立を行っているという戦略がみえます。
NHK党
NHK党は、猪野恵司氏、小川ゆうき氏、説田健二氏、田中健氏、長谷川洋平氏、松田美樹氏の6名の候補者を擁立しました。NHK党は各都道府県選挙区で改選定数と同じ数の候補者を擁立する傾向があることから、その一環とみられます。過去の選挙でも候補者を多く擁立し、立候補届出の時間を調整するなどしてポスター掲示場における掲示場所を横並びにするなどして注目を集める手法などを展開しており、これらの手法も同様に行うものとみられます。
諸派
国会に議席を有しない諸派では、幸福実現党が「幸福の科学」の専務理事も務めた及川幸久氏を、新党くにもりが衆議院議員(京都6区/自民党(当時))を3期務め、MMT(現代貨幣理論)の急先鋒として知られる安藤裕氏を、日本第一党が過去に地方選挙への出馬経験がある菅原深雪氏を、自由共和党が衆議院議員(静岡1区・比例東海ブロック/立憲民主党(当時)→日本維新の会)を1期務めた青山雅幸氏を擁立しました。
無所属
さらに、無所属ではベストセラーとなった著書『五体不満足』で知られる乙武洋匡氏が立候補を表明しました。圧倒的な知名度があることや東京都教育委員を務めたキャリアなどから、乙武氏の出馬表明によって東京都選挙区は一転して大乱戦となることが見込まれています。過去には6年前の参院選に自民党から出馬を目指していたものの、女性問題が週刊誌に掲載されて出馬を断念した経緯があり、乙武氏の再チャレンジが東京都選挙区全体を占う様相となっています。
情勢と今後の注目ポイント
4月23〜24日に世論調査会社グリーン・シップが行った電話調査(N=6,811)や関係者への取材によれば、自民(1名)・立憲(1名)・公明・共産の各候補者が先行し、自民(1名)・立憲(1名)・維新・ファーストの会の候補者がこれを追いかける展開でした。
しかし、5月に入ってから、これまで述べてきたように構図が変わったことで、情勢は目まぐるしく変化しています。特に東京都選挙区は固定票のウェイトが少なく流動票のウェイトが大きい選挙区であり、得票における固定票の割合が大きい公明、共産にとっては投票率が急上昇することを警戒しつつも固定票を固める動きを、空中票の割合が大きい維新、ファースト、れいわにとっては選挙戦を広報戦略でどう支配するかを、候補者を2人擁立している自民・立憲にとっては空中戦・地上戦の両方を展開しつつ、党内での票割りを丁寧に行うことが求められるでしょう。
2022/5/23 9:45 れいわ新選組の段落において誤った記載がありましたので修正を致しました、お詫びして訂正いたします