生命・健康・自分か子供かそれとも金・財産か…人にとって「一番大切なもの」は何だろうか
個人の価値観によって対象は多様なものとなるが、世の中には大切なもの、大事なものはたくさん存在する。それでは「一番大切なものは何ですか」と問われたら、人は何を挙げることになるのだろうか。今回は統計数理研究所による定点観測的調査「日本人の国民性調査」(※)の結果を基に、その実情を探ることにする。
一番大切だと思うものを一つだけ具体的に挙げてもらい、それを集計の際にある程度の項目に集約したのが次のグラフ。データ上に記載されているが、調査時には調査員に対して「品物、愛情、子供などなんでもよいが、こちらからは絶対に例をあげるな」との注意がされている。要は誘導尋問の類になることのないように注意しろ、ということ。
全項目を盛り込むと煩雑になる、そして物理的なものは比較的少数意見となる場合が多かったため、主に精神的な項目、そして比較対象となりうる項目のみを抽出した。
もっとも古い値となる1958年当時は「生命・健康・自分」など、自分自身に関する肉体的な安らぎとなる対象がトップについている。しかしそれは調査年が進むに連れて漸減。相対する項目として取り上げられることが多い「愛情・精神」も大きな変化はなく、昨今では言葉通り「心身」ともに同じくらいの値を示している。一方物理的な欲求としてもっとも挙げられやすい「金・財産」は明らかに漸減している。直近の2018年ではゼロ%となってしまっている(あくまでも「一番大切」であることに注意)。
それらの項目が横ばい、あるいは少しずつ値を減らす中で、唯一大きな伸びを見せたのが「家族」。1958年時点では12%しかなかったものの、うなぎ上りに値が上昇し、2008年では46%にまで達している。2013年以降はやや値を落としているが、高水準を維持していることに違いはない。特に1973年~1983年にかけて大きな上昇カーブが確認できるが、この時期はいわゆる高度成長期と重なり、「パラダイムシフト」(認識や思想、社会全体の価値観などの劇的な変化)が起きた可能性を示唆するものとして注目に値する。核家族化の進行とともに、もっとも身近な存在である「家族」をより大切に思う心が養われつつある、と考えることもできる。
また別項目の設問での話だが、昨今の若年層においては「自分の好き嫌いはさておいても人のためになることをしたい」と考える若年層の増加が確認でき、若年層の対人面における心理的な変化が見えてきたのが分かる。
高度経済成長・核家族化の進行という急激な社会変化の中で、家族観に対する大きな変化が発生し、昨今のしいたげられた状況・社会的な変化で、若年層の間に新たな変化が生まれつつあるのではないだろうか。つまり「社会変化に伴いその作用を受けた層において、心理的な変化も生まれる」との推論を立てると、これらの状況の変化を説明することが可能となる。
ちなみに「家族」を選んだ人の年齢階層別傾向だが、70代以降がやや低めに出ているものの、それ以外の多勢では年齢階層別の差異はあまり見られない。あえて傾向付けを行うとすれば、30代から50代がいくぶん高めに出ている。なお今件は現時点で年齢階層別の値について直近2018年分の値が開示されておらず、前回の2013年分までの値の動向を示したものとなる。
この年齢階層では親子同居で住む場合が多く、回答者の自宅に子供がいる状況が多分に考えられる。その状況ならば、家族が一番大切と回答する人が多いのも、納得がいくものだ。
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※日本人の国民性調査
統計数理研究所が1953年以降5年ごとに実施しているもので、各回ごとに微妙に細部は異なるものの、基本的に20歳以上の男女個人を対象にした標本調査。層化多段無作為抽出法で2254人から6400人の標本を抽出し、個別面接聴取法で実施している。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
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