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会社でなく社会を広告するーー最前線のクリエイターが語る広告の変容

篠田博之月刊『創』編集長
「連」のオフィス(佐々木宏さん提供)

 かつて『広告批評』という面白い雑誌があった。編集長は故・天野祐吉さんだったが。この雑誌がやっていたのは、広告の批評を通じて、社会や時代を批評することだった。

 それはもともと、広告というものが、コンパクトに時代の気分をすくいとるものだからこそ成立したわけだ。でもこのところ、特に東日本大震災あたりから、広告そのものに社会性や時代性がストレートに反映されるようになった気がする。それはたぶん、広告という業態そのものが変容しつつあるからだろう。テレビの枠を売り買いして手数料を稼ぐといった広告のビジネスモデルは、今でも続いているとはいえ、今はそんなイメージでは広告の仕事はやっていけなくなったと言われる。

 

 月刊『創』(つくる)4月号は恒例の広告特集だ。電通がこの1月、大規模な組織再編を行ったり、博報堂がこれまでと全く違ったビジネスモデルに着手したりと、広告業界の変容を取材した記事も何本か並んでいる。その一部は下記のヤフーニュース雑誌に転載した。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200314-00010000-tsukuru-soci

電通、博報堂、ADKの相次ぐ組織再編や新展開の意味するものは何か

 でもそれ以上に特集の目玉といえるのは、広告界の最前線のクリエイターたちの、この1年の仕事を自ら語ってもらうという「クリエイターが語る『広告』という仕事」だ。雑誌『広告批評』がやっていたような時評としての広告批評を制作者自身がやるという企画である。

 もう30年近くこの企画は続いているのだが、この何年か、広告と時代や社会とのつながりがものすごく色濃くなった気がする。

会社でなく「社会」をデザインしたいという気持ち 佐々木宏さん

 例えばトップバッターとして登場する、業界でも有名な佐々木宏さんは、大震災の直後に様々なアーティストたちが歌をつないでいく「歌のリレー」という広告を作ったり、今はオリンピック・パラリンピックの企画演出を行っていることで知られている。その佐々木さんが言っているのは、こんなことだ。『創』4月号から引用する。

《そもそも広告という仕事自体が、ネットSNS台頭で、クライアントがいてオリエンがあって、プレゼンして、CM作ってみたいな、そういう時代でなくなっている気がするんです。僕自身も、どこかの会社というだけでなく、「社会をデザインしたい」という気持ちがありました。》

《今度のオリ・パラは、正直言って、とにもかくにも人間関係が大変なんてもんじゃなかったですが(大汗)、もう待ったなしの段階です。特にパラリンピックはやっていて面白いというか発見だらけでしたね。いろいろすごい人にもたくさん会いました。先日、開会式、閉会式のキャスト募集をしたんですが、障害を持った方を中心に5500人の応募がありました。オーディション面接が始まりつつありますが、すごい熱気です。パラリンピックは感動とか涙という風になりがちですが、そうしたくない。とにかく面白い、かっこいい、というように仕上げたいと思っています。意気込みだけはですが(笑)。》

《ある種、副業集団というか、4年前のリオ五輪の安倍マリオをやったときのメンバーも、椎名林檎さんとか、MIKIKOさんとかもそうだったし、今回の2020でパラリンピックで集めた人たちも、みんなコピーライターとか放送作家とか肩書がある。でもちょっとパラリンピックやろうぜといってこの指止まれで集まった感じなんです。ひょんなことから、たまたまです。オリンピック、パラリンピックって相当大きな仕事だし、プレゼン相手はIOCとかIPCとか組織委員会とか、たいそうな感じですが、僕は、ま、副業というつもりで、みんなでやろうよという呼びかけをしています。学生時代のクラブ活動という感じにしたかったんですね。とにかく、堅苦しくなく、面白く、したかったので。》

 佐々木さんはソフトバンクの「白戸家」やサントリーの「BOSS」などの広告で知られているが、この1年ほどはオリ・パラの仕事がかなり大きなウエイトを占めていた。

 そして同時にもうひとつ、2019年は、それまでの「シンガタ」という事務所を畳んで、「連」という事務所を新たに立ち上げた。この「連」が佐々木さんの広告観を具現化したような事務所で、まあとにかくすごいのだ。佐々木さんの話を続けよう。

「連」のオフィスに置かれた宇宙船(「連」提供)
「連」のオフィスに置かれた宇宙船(「連」提供)

《広告の仕事っていろいろなことを思いつくことが大切で、パソコンだけが並んでいるようなザ・事務所だとアイデアも思いつかない。ふざけたものがいっぱいあって、ひょんなことから面白いことを思いつくというような、自分はそういう風に仕事をしてきたので、「連」のオフィスも、NASAの宇宙船が置いてあったり、「タイタニック」という部屋の隣に「タグボート」という部屋があったり、オリエント急行という長細い部屋があったり、土管の中にマリオがいたり、実物大パンダがいたり…ちょっと、とんでもない感じです。》

《自分の仕事はよく考えると、「たまたま」とか、「ひょんなことから」始まるケースが多い。町人文化の長屋がいっぱい連なっているようなオフィス、流動的というか、異業種の人がいい意味でウロウロ往来している交差点を作りたかった。ひとりじゃ寂しいのでシェアオフィス。》

《飲み屋でいうと、自分のボトルがある店って入りやすい気がしますね。だから「連」もボトルキープ制にして、会員になっていただいた方の名前を書いた空のボトルを並べています。喫茶店のマスターが夢だったので、肩書きもクリエーティブディレクター兼マスターという風にしています(笑)。》

 写真でお見せしているのがその「連」の事務所だが、実際に行ってみないと、その感じはわからないかもしれない。

 さて、このところのコロナウイルス騒動で、延期とか中止とか想定外の話も出始めている東京オリンピック・パラリンピックだが、この巨大イベントになんらかの形で関わっているクリエイターは少なくない。次に紹介する「風とロック」の箭内道彦さんもその一人だ。

 箭内さんといえば福島出身で、大震災以後は福島の復興に関わり、福島を広告するのをライフワークにしてきた。その箭内さんがどういう考えでオリ・パラにどう関わっているかも興味深いのだが、本人はこう語っている。

「復興五輪」が東北を置き去りにしないように願って 箭内道彦さん

《東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まった時には、僕の仲間達は不安を口にしたし、いまだに怒ってる友人もいます。「復興五輪」を掲げたけれど、結局、東北の復興は置き去りになるんじゃないか。やってる場合じゃないんじゃないか。故郷の福島を始め、周りの仲間たちの反応はそうでした。

 聖火リレーが福島県からスタートするとか、沿岸部を走るとか、いろんなことが発表になって「復興五輪」が少しずつ見えてはきたんだけど、僕はずっと、もっとはっきりと東北に有形無形の「利益」をもたらすものでなければならないと思っています。東北の現在を正しく伝え、多くの人が訪ねるきっかけとなるような。返上されないのであれば、東北の人達が少しでも「やってよかった」と思える開催になるように。

 オリンピックはスポーツだけでなく文化の祭典でもあるとオリンピック憲章は言っていて、開催地は文化の発信もしなければいけない。それが「東京2020NIPPONフェスティバル」です。4つあるテーマのうち僕が1つを担当することになりました。「東北復興」です。もともと距離を置こうと考えていた東京2020ですが、「東北を広告する」という責務であれば、負うべきと引き受けました。

 例えば海外では、いまだに福島県では防護服を着て暮らしてると誤解している人もいるし、人が住んでないと思ってる人もいるらしい。そんな人達に今の東北の姿をアップデートすることが出来ないかと思いました。》

 

東京2020NIPPONフェスティバル「しあわせはこぶ旅」モッコ
東京2020NIPPONフェスティバル「しあわせはこぶ旅」モッコ

 

 そういう観点からオリ・パラに関わっている箭内さんが、具体的にどんなことをやっているかというと、こうだ。

《「モッコ」という、高さ10mの大きな操り人形を作っています。東北の人の持ってる思いだったり無口な優しさだったり、いろんなことが形になったらいいなと思って、沢則行さんというプラハ在住の人形デザイナーが人形制作を引き受けてくれました。

 5月に岩手県の陸前高田をスタートして7月の東京・新宿まで旅をする。「しあわせはこぶ旅」というタイトルにしていますが、途中、宮城県岩沼、福島県南相馬と沿岸部で、地元の伝統芸能とコラボレーションするイベントを開催していくんですね。各地で言葉を集めて。世界に「ありがとう」を伝えたい人もいれば、「悔しい」と言いたい人もいると思います。集まったメッセージを歌詞に纏めて最後に新宿でひとつの歌として披露します。

「モッコ」という名前は、「おだづもっこ」という、お調子者・人気者という意味の宮城の方言から、宮藤官九郎さんが名付けました。そのモッコをめぐる絵本のような物語を又吉直樹さんにお願いしました。》

 その「モッコ」の写真も掲げよう。間もなくお見えするわけだが、コロナウイルスの影響がどうなるか気になるところだ。

 そのほか、箭内さんは従来からの「福島を広告する」という仕事も続けている。

《2016年から福島県のクリエイティブディレクターを務めていますが、この1年間も、これまで同様「来て。」というポスターや、「もっと知ってふくしま!」という6秒動画を作ったりしました。6秒動画は福島県全59市町村のバージョンを作りました。TOKIOが出演する「ふくしまプライド。」のCMのベースにもなっています。

 県庁って縦割りの組織なんですが、こういうディレクションを通じて、縦割りの組織を横に串刺しにしていきたいというのも僕の狙いの一つです。震災の後、市民と役所の分断を感じました。そこを繋げないかと思って引き受けたんです。県庁の人たちにとっても、スリリングでエキサイティングな体験のようです。クリエイティブにはそういう力もあります。》

 箭内さんにインタビューしたのは都内の「風とロック」の事務所だが、部屋のテーブルがすごい。透明のガラス板の下に、木の切り株のようなものが並んでいるのだが、思わずスマホで撮影させていただいた。

事務所でインタビューに応える箭内さん(筆者撮影)
事務所でインタビューに応える箭内さん(筆者撮影)

2020年に宇宙人ジョーンズは敢えて石巻に 福里真一さん 

 さてオリ・パラといえば東京を中心に動いているという印象が強いが、敢えてそれに異を唱えたようなイメージのCMが、サントリー「BOSS」宇宙人ジョーンズの、今オンエアされている「漁港」篇だ。前述の佐々木さんと一緒にプランナーとしてこのCMを長年作ってきた福里真一さんが『創』の特集でこう語っている。

《サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」シリーズは、もうすぐ15年目に突入する長いシリーズです。昨年の4月30日には、平成最後のCMとして、「平成特別」篇をオンエアしました。平成の30年がどんな時代だったのか、そうカンタンにはわからない。ただひとつ言えることは「この惑星の住人は、平成の時代にも、けっこうがっつり働いた」というナレーションで、平成をしめくくりました。こういう歴史の節目にオンエアできるというのも、シリーズが長く続いているからこそなんだろうな、と思います。》

サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ・漁港」篇
サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ・漁港」篇

 現在オンエアしているのは「漁港」篇。今年になって妙に騒がしい東京を離れて、ジョーンズが石巻の漁港で働きはじめるという設定です。2020年の日本をBOSSらしい目線で描くにはどうしたらいいか、ということで、あえて「東京以外の場所」に焦点をあてよう、と。その漁港には「いつも通り」平常心で働く人々がいる。そしてそのことにプライドをもっている。でも決して東京の騒ぎを揶揄したり、冷ややかに見るのではなく、最後には「東京もがんばれよ!」と力強くエールを送る、というストーリーで描きました。バックに流れる中島みゆきさんの「ホームにて」という名曲の効果もあって、かなり反響が大きいCMです。漁港の女性を演じたゆきぽよさんもすごく似合ってましたね。》

「しゃべる新聞」というメディアの広告 澤本嘉光さん

 もうひとり、佐々木さんと一緒にソフトバンク「白戸家」のCMを作ってきた澤本嘉光さんも、個別企業の広告というのとは異なる仕事が増えてきている。

《この1年ほどは、民放連や日本新聞協会のキャンペーンにクリエイティブディレクターとして関わることが多かった。僕のところに来た仕事を博報堂さんにも声をかけて一緒にやったり、これまで因習に捉われてできなかったようなやり方をしています。》

《日本新聞協会の方は、「しゃべる新聞」というコンセプトで、「ぺちゃくちゃ新聞」という新聞広告を展開しました。例えば昨年10月の新聞週間に行ったのは、「北斗の拳」のケンシロウを全面広告に登場させて、その口の部分にQRコードがついている。それをスマホで読み込むとケンシロウがしゃべっている動画が見れる。また、そのしゃべる内容を読者が参加できるようにしました。ツイッターで募集したのですが、これは新聞とスマホをかけあわせると新聞からも音声が聞こえるようにできるという、いろいろなことができるよというキャンペーンです。

「北斗の拳」のほかに「タイムボカン」のドロンジョがしゃべるバージョンもあって、新聞ごとにどちらかを掲載しました。工夫をすれば音も出せるし、スマホで拡散もできるということで新聞広告の有効性を見直してもらおうという狙いもありました。》

日本新聞協会「ぺちゃくちゃ新聞」
日本新聞協会「ぺちゃくちゃ新聞」

 新聞というメディアが既存メディア、過去のメディアというイメージで見られるようになりつつあるなかで、「しゃべる新聞」というコンセプトで、印刷媒体が音声も出せるし、スマホともつながっていく、というふうに既成の媒体イメージを打破しようとした試みだ。

 そのほか澤本さんは、映画の脚本を書いたり、広告の枠を超えて表現活動を行っているのだが、この3月公開の映画『一度死んでみた』も、脚本が澤本さんで、監督が広告クリエイターの浜崎慎治さんという、クリエイターコンビだ。この映画の広告との関係を、澤本さんはこう語っている。

C2020松竹フジテレビジョン3月20日全国ロードショー
C2020松竹フジテレビジョン3月20日全国ロードショー

《最近の仕事としては、この3月に公開される『一度死んでみた』という松竹製作の映画の企画・脚本を手がけました。主役は広瀬すず、吉澤亮、堤真一さんです。もともとすずちゃんとはCMで一緒に仕事をすることが多く、その反射神経の良さを見ていて、この人はコメディをやったらいいのではないかとオファーしたんです。そしたら本人もやってみたいということで、オリジナルの脚本を書きました。

 映画の中ですずちゃんは、キックボクシングをやったり、歌を歌ったり、いろいろなことをやっていますが、本人がどうせやるなら振り切ったことをやりたいという根性の持ち主なので、僕も振り切った脚本にしました。

 セリフのテンポが速かったり、宇宙飛行士の野口聡一さんが1カットだけ出てくるとか、CMでやっている技法をこの映画にはいっぱいつめこんでいます。監督の浜崎慎治君は一緒にCMを作っているクリエイターです。》

 写真を掲げたのが映画『一度死んでみた』のメインカットだ。

《僕はこれまで映画を何本か作っていて、2014年公開の『ジャッジ!』も広告界を描いたものでしたが、その直後に松竹から次回作をという話が出て、今回の映画の準備を始めていたのです。広告の仕事はこういう表現活動にも発展するというのを見て、若い人たちが広告の世界にもっと入ってきてくれたらいいなという思いで取り組んでいます。》

ものが言いにくい時代に「○○と言える世の中を」 権八成裕さん

 最後に取り上げたいのは、このところ『創』との関りも深い権八成裕さんだ。『創』2月号では、「新しい地図」の香取慎吾さんと、アイドルグループを抱えるプロダクションWACK代表の渡辺淳之介さんと誌上座談会を行い、『創』が主な書店であっという間に完売となった。

 権八さんは香取さんのこの1月に発売された新しいアルバムに作詞家として関わっているのだが、そもそも香取さんとはファミリーマートのCMでずっと一緒に仕事をしている。

『創』4月号ではファミマの広告展開についてこう語っている。

《一昨年の秋から香取慎吾くんとやっているファミマの広告も続いています。フラッペの作り方を伝える歌で「カトっぺ」というキャラに扮した慎吾くんがダンスを踊るフラッペの広告をやりました。店頭ポスターだけでなく、新宿に巨大なインスタ映えスポットとなるOOHを作って、お客さんに足を運んでもらったりして盛り上げました。こうしたファミマのGRの多くはADの柴谷麻以と一緒にワイワイやってます(笑)。

 次に「香取ファミ平」というキャラに扮した慎吾くんの顎が伸びるというファミペイの広告をやって。ファミペイは1カ月で目標となったダウンロード数を大幅に超えて大成功でした。》

《テレビCMで認知してもらい、ツイッターを使ったり、店頭のポスターでもダウンロードしてもらう。お客さんとのコンタクトポイントを増やして、いろいろなところから会員になってもらう。立体的に展開しました。大変ですけど楽しかったですね。

ファミマ慎吾母「お母さん食堂 涙の味」篇
ファミマ慎吾母「お母さん食堂 涙の味」篇

《それから「慎吾母」というCMもあって、お母さん食堂で慎吾くん扮する慎吾母が料理を出すんですが、食べ手として登場するのが元Bisでアイドルをやっていたファーストサマーウイカちゃん。昨年は、バラエティなどで大ブレイクしてましたが、このCMでも持ち味を発揮してくれましたね。これらのファミマのCMはいずれも演出家の佐藤渉くんと作ってます。今一番当ててる最高な監督です。》

 そのBisやBISHなどのアイドルグループを抱える事務所WACKの代表が『創』2月号で座談会を行った渡辺淳之介さんだが、権八さんはそのWACKの企業広告ももう2年間やっている。これがなかなかすごい広告なのだ。権八さん自身が『創』4月号でこう語っている。

《渋谷を舞台に広告展開をするのですが、1年目は109に「何もやってませんが先に謝罪しときます。私たちは間違えます。」という謝罪広告を掲示しました。不祥事が起きると何でも正義をかざして再起不能になるまで世の中でリンチして謝らせる、という風潮を皮肉ったものです。

WACK「○○と言える世の中を。」
WACK「○○と言える世の中を。」

 2回目の昨年は「○○と言える世の中を」という「表現の自由」に踏み込んだ広告にしました。昨年はあいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」がいきなり中止になるなどいろいろなことがありました。札幌で安倍辞めろと野次った人が警察に連行されるという事件があったり、とにかくものが言いにくい時代になってしまった。そんな状況の中、WACKが渋谷の街から世界に向かって「○○と言える世の中を」という広告を掲げました。WACKの社長の渡辺淳之介くんとそのキャンペーンを考えるのですが、その○○に入る文字をファンから募集して、いいものを社是にすると宣言して。

 今年も渋谷の街を使って何か面白いことを発信しようと、今、淳之介くんやADの柴谷と準備している最中です。》

 昨年の「○○と言える世の中を」の屋外広告展開のひとつを写真に掲げた。ちょうど掲出してすぐの時期にも札幌で「安倍辞めろ」と野次った市民が警察に連行されるという事件があったり、8月には「表現の不自由展・その後」中止事件が起きたりと、ものが言いにくい時代になってしまったという思いを、渋谷の街に掲げたという企画だ。世の中に尖ったものを届けようというWACKの企業広告の理念とマッチしたからだろうが、このあたりは従来の広告のイメージとかなり異なる。

 『創』4月号のクリエイター特集には、そのほか「金麦」などの広告で知られる黒須美彦さんや、au「三太郎」シリーズの篠原誠さん、香取慎吾・草なぎ剛両氏の「ミノキ兄弟」のCMで昨年ACCグランプリなどを獲得した山崎隆明さんなど、いろいろなクリエイターが登場している。

https://www.tsukuru.co.jp/gekkan/2020/03/20204.html

 かつてクリエイターがいろいろな表現領域で話題になった時代があって、その代表が糸井重里さんだが、もちろん糸井さんもかつては全共闘の闘志だったこともあって、その広告もある種の時代的なメッセージ性を持っていると言われたことがあった。

 でもここに紹介した最近の広告クリエイターの活動のある種の社会性というのは、それとまたニュアンスが少し異なるような気がする。

 たぶんそれはSNSの発達でメディアがそれまでと異なる社会性を帯びるようになったという時代のあり方や、それに伴って広告の業態そのものが変容しつつあるこの時代のありようを反映しているように思えるのだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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