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大学アスリートらの意識改革に着手する立命館大学の地道な取り組み

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
スポーツ選抜入試合格者らを対象に入学前合同合宿を実施した立命館大学(筆者撮影)

 以前から交流させてもらっている立命館大学の准教授の方から声がけしてもらい、同校が実施した学内行事を見学させてもらった。

 その行事とは、学生部主催による文化・芸術/スポーツ選抜入試合格者を対象とした入学前合同合宿。同校のびわこ・くさつキャンパスに対象学生225名を集め、3月14、15日の1泊2日で実施されたものだ。

 今回の対象者である文化・芸術/スポーツ選抜入試合格者とは、スポーツ、文化・芸術(吹奏楽、囲碁、将棋など)面で全国レベルの活躍が認められ合格した高校生たちで、いわゆる「スポーツ推薦入試」とか「一芸一能推薦入試」に合格し、この4月から立命館大学に入学する若者たちだ。い

 合宿は今年でまだ2回目の開催で、同校にとっても新しい試みだ。また同校は平成29年度から全学生を対象に学生支援プログラム『SSP(Student Success Program)』を立ち上げており、今回は同プログラムの一環事業として実施されている。

 合宿最大の目的は、参加学生それぞれに入学後の明確なビジョンを持たせることだ。内容的には過去の自分を見つめ直す「モチベーショングラフ」や現在の自分を把握させる「セルフチェックシート」を作成させることで自己分析を促した上で、「ファシリテーター」として参加してもらった各学部の在校生と意見交換などを踏まえて、最終的に各学生に目標の設定と到達方法を考えさせ発表させるというものだった。

 今更説明するまでもないが、立命館大学に限らずこれまでも多くの大学がスポーツや文化・芸術で活躍した高校生たちを「推薦枠」で受け入れている。彼らが大学生になっても全国レベルの活躍をしてくれれば、大学側に様々なメリットをもたらしてくれるからだろうことは容易に想像できる。

 だがその反面、推薦枠の学生は大学側からそれぞれの専門分野での活躍に期待され続け、本業であるべき学生としての本質を軽視してしまうケースがあるように思う。特にスポーツの場合、プロや企業チームに進める一部の一流選手を除けば、多くの学生アスリートは大学卒業と同時に現役を引退したり、また中にはケガのため在学中に競技から離れなければならなくなる。そう考えれば彼らに競技のみに集中させるのではなく、競技以外でも充実した学生生活を過ごしてもらい世に送り出す方がより有益になるだろう。

 また学生が何か不祥事を起こしてしまった場合でも、一般学生と違い世に名の知れた推薦枠の学生では大学に与えるダメージも相当に大きくなってくる。それこそ大学からすれば、推薦枠の学生の方により意識の高さを養うように努力すべきはずだ。まさに立命館大学が実施した合宿はそうした推薦枠の学生たちに意識改革を促すものなのだ。

 今回参加学生に目標設定と到達方法を検討させる際も、それぞれの専門分野に囚われることなく「正課」「課外」「生活面」から考えさせるようにしている。発表に臨んだ学生たちも、将来の夢を踏まえながら専門分野を含め如何に有意義に学生生活を送っていけるかについてしっかり意見を述べていた。明らかに彼らは入学前にモチベーションを形成することができたようだった。

目標設定と到達方法について発表を行う参加学生(筆者撮影)
目標設定と到達方法について発表を行う参加学生(筆者撮影)

 フェンシングで全国ベスト16入りの実績を誇り、国際関係学部に入学が決まっている岡崎修斗(しゅうと)君も将来の目標に国連職員を置き、競技以外でもどのような学生生活を過ごしたいか明確なビジョンを示しながら発表を行っている。そして今回の合宿について以下のような感想を話してくれた。

 「ホームページや雑誌を見ているだけでは伝わらないような、実際にキャンパスに来てこれから一緒に学んでいく人たちと1つのワークに向かって取り組んでいくというのを入学前に体験できたので、いきなり大学に来てすぐスタートで講義というよりは、こうして先にやってもらえた方がすんなりと大学生活に入っていけると思います。

 なかなか自分の人生を評価するというか見直す機会はないと思うので、こういうとことで1回見直して自分がなぜこの競技を始めたとか、こういう学部に入りたかったとか、なぜこういう夢を抱いたのかというのが振り返られたことで、モヤモヤして夢が曖昧だったところが今回の合宿でしっかり芯が通ったかなと思います」

 日本歴代5位の記録で陸上女子800mでインターハイ優勝を飾り、経済学部に入学が決まった塩見綾乃さんも、今回の合宿を通じて入学前に意識を変えることができたと話してくれた。

 「この合宿に参加してコミュニケーションが図れたり、大学を知る上でいい機会になったと思います。

 人生のグラフみたいなものを作ってみて感じたのが、過去にモチベーションが下がったり上がったりする時期にこういう変化があったりというのを振り返って考えることで、これからに繋がってけるのかなと感じました。今までは目標とかあまりなくてまだ見えてない部分もあったんですけど、たくさんの人の意見であったりを聞いていていろんな考えを持つことができるようになり、自分のこれからに繋げられる気がしています」

 立命館大学によると、推薦枠の学生を対象にこうした合宿を実施しているのは全国でも稀なことらしい。しかし平成30年度に「日本版NCAA」が開設される予定で、今後大学スポーツは大きな変革期を迎えようとしている。立命館大学のみならず、どの大学でも大学アスリートへの取り組みが必要になってくるはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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