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「不条理はやがて自分に跳ね返る」ルーツはパレスチナと日本 18歳ラッパー怒りの詩「また人が死ぬ」

堀潤ジャーナリスト
DANNY JINさんは母が日本人、父がパレスチナ人で、日本生まれ日本育ち

パレスチナ自治区ガザで10月7日以降、少なくとも1万3300人のパレスチナ人が死亡、そのうち子どもは5600人、女性が3550人含まれていると、イスラム組織ハマスの政府系メディアが20日発表した。ロイター通信が伝えた。

一方、イスラエルでは18日、ハマスによって拉致された人質の家族や友人、支援者らがデモ行進を行い、エルサレムの首相公邸前で人質の即時解放を訴えた。推定240名と言われる人質のうちこれまでに解放されたのは4名に留まっている。

市民の命が奪われ続ける中、今月15日には、国連の安全保障理事会でガザ地区の子どもの人道状況を改善するために戦闘の休止を求める決議が賛成多数で採択された。しかし、イスラエル国防軍はハマスに対する軍事作戦を継続する姿勢を示し、その後、ガザ南部の都市ハンユニスなど、攻撃の範囲は拡大している。

そうした中、日本とパレスチナ双方にルーツに持つ18歳のHIPHOPアーティスト、DANNY JIN(ダニー・ジン)さんが、先月、自らの想いをラップに乗せた新曲「WAR & DEATH」を発表し、多くの命が奪われ続けている現状に対して声をあげた。賞レースにもエントリーし、その賞金をパレスチナ支援にも充てたいと今、奮闘を続ける。

JINさんは「誰かの不条理を放置していたら、それはきっと自分に返ってくる。パレスチナや世界の平和に関心を向けて欲しい」と語る。

パレスチナ人として、日本人として、JINさんがリリックに込めた想いは何か、クリスマスイルミネーションが始まり多くの若者たちで賑わう街頭でインタビューした。

◆ルーツの一つ「パレスチナ人」として思うこと

堀)

生まれは日本ですか?

JIN)

そうです日本です。

堀)

ルーツであるパレスチナがこういう状況になっていることをどう受け止めていますか?

JIN)

そうですね。実際自分がパレスチナに行ったことなくても、パレスチナ人としてのアイデンティティは感じたりするところもあるので、やはり「一パレスチナ人」としてすごい悲しいし。何だろう、自分は日本で平和に暮らしてるわけじゃないですか。そこに対して葛藤とかもあります。ですが、1人の人間としても「平和」を望んでるので。

堀)

目の前の景色を見渡してみても、世界のあちらこちらで戦争をしているとは思えないような、穏やかな光景です。同世代の子たちとも戦争の話などをする機会はあるのですか?

JIN)

いや、ラップを通して、初めてそういう話を届けたりっていうのが多いです。直接的にそんな話はしないですね。

堀)

今回のリリックはいつ頃書いたのですか?

JIN)

10月7日に、ハマスがイスラエルに攻撃を仕掛けてその後イスラエルが戦争状態になるっていうのを知った後に、これはちょっと録らないとと思って、1週間ぐらいで歌詞書いて、10月15日ぐらいですかね、収録してすぐリリースしたという感じです。


新たに口火を切る戦争 血で血を洗いきれない血みどろ

場所立場民族宗教 変え繰り返すホロコースト

打ち込まれるミサイル遠退くピース 違う民族が殺し会う

いや同じ人間が殺し会う 立場見方で変わる正義と悪

幻想になり始める平和

ロシアウクライナ イスラエルパレスチナ 

次はchaina台湾沖縄 大義名分に伏す死者

ガザでは俺より若いやつが握る銃 俺は握るマイク

苦しむ神のイタズラに葛藤

また人が人を殺す

また人が死にまた人が死に 希望は閉ざされる奥底に

また人が死にまた人が死に 死体は積み重なる高らかに

また人が死にまた人が死に 綿菓子みたく軽い命の価値

繰り返される大惨事 また人が死にまた人が死ぬ

DANNY JIN 「WAR & DEATH」より

堀)

改めて自己紹介お願いしていいですか?

JIN)

はい。ラッパーのダニー・ジンです。
パレスチナ人と日本人のハーフで、今年デビューして活動しています。

今回のリリックはパレスチナでの惨劇を見て、やはり思うところありました。パレスチナ問題だけではなく、世界の平和について共通して考えていきたいので。

リリックの中には、実際にガザの13歳の少年が、少年兵になっていく様子が出てきます。父親が殺されてしまい、そこから少年兵になるというドキュメンタリーを見たんですけど、そういう実際の出来事を踏まえながら、僕自身の人生とを比較しながら書きました。

堀)


どんな比較をしたんですか?

JIN)

同じパレスチナ人ですが、僕は日本にいて、彼はパレスチナで生まれて。僕はマイクを握って自分の夢を追っているけど、彼は銃を握って、いつ死ぬかもわからない状況にいて。そうしたことを考えながらということです。

堀)

わたし自身も、ガザで出会った方々の言葉なども想い出しながら取材を進めています。そのうちの一人の方がリヤドさんというガザ市民の男性です。「国際社会なんてどこにあるんだ。誰もこの問題を根本解決しようとしないじゃないか」と言っていました。

本当にそうだなと感じます。10年前の取材映像を見かえしてみても、今と変わらない。この間、世界は何をやっていたんだと。今、最悪の形でこんなことになってしまい。JINさんはどう思われますか?

JIN)

やっぱり「国際社会」というのが機能していないなって思います。「国際社会ってそもそも何?」という話になってしまうと思うんですけど、国連なども機能していないし、なんだろうな。


パレスチナ問題もずっと放置され、パレスチナ人も不当に扱われてきたから。そうした背景でハマスがテロを起こしたり、という面もあったりすると思うので、やっぱり何だろうな、「名ばかりの国際社会」とか「国際平和」になってしまっていると思います。

堀)

「名ばかり」というのはどういうことですか?

JIN)

一部の大国の都合のいいようにだけ扱われている面があるのかなって。

堀)

「また人が死ぬ」という言葉は、何度も何度も出てくるフレーズです。どういう思いでこの言葉を選んだのですか?

JIN)

寿命を迎えて終わるんじゃなくて、今起きていることは、人によって「殺される」ということが起きています。

人が死んでしまうこと、つまり「人が死ぬ」ということは僕の人生の経験上でも、一番悲しいことで、身内が死んでしまったり、知っている人が亡くなっちゃったりとか、本当に重たいことです。しかし、今回の戦争でも、他人の死に対して「どうでもいい」と思ってる人が多いのかな?というのを感じてしまって。

日本でもその他の国でもそうですけど、自分や自分の身内が知らない人だから「死んでしまっても大丈夫」なんてことは、あるわけないと思うんですよね。

「死」はいつ自分たちにその番が回ってくるかもわからないし。そういう社会を許してしまっていいのかと。

多くの人が死んでいるのにもかかわらず、結構日本ではその何だろう、イスラエルの声を正当化する言動というのを、度々聞いたり見たりして。いやいや、人が死んでるじゃんって。人が死んでるんだから「正当な理由があるよね」で済まされるんじゃなくて、もっとその人が死ぬっていうことの重大さについて理解しようよ、という憤りや怒りというのがありましたね。


DANNY JINさん「WAR & DEATH」より
DANNY JINさん「WAR & DEATH」より

◆「強く生きていかなくてはいけない」それは何故なのか?

堀)

JINさんは「パレスチナにルーツがある」というのは、いつごろからご自身の中で意識したり、考えたりするようになったのですか?

JIIN)

やはり小さいときからです。僕は日本人だとは思います。日本国籍ですし、日本人の母親から生まれて、日本で小中高とずっと育ってきたわけなので。


でもやっぱり、日本人としては、どうしても・・・なんだろう。みられないんですよね。顔とかがやっぱり違うからって。そうなったときに「自分は誰なのか、何者なんだろう」とか、「なんで自分は顔が他の人と違うんだろう」と考えることが度々あって。

そうした時に、自分にはパレスチナ人の血が入っているというのを聞いて「そうなんだ」と考えるようになって。そこでさらに「パレスチナとは何だろう」というのを知っていくうちに、不当にパレスチナが扱われているのを見て、アイデンティティを感じると言ったら変ですけど、何か一人のパレスチナ人として「強く生きていかなきゃいけないな」と思うようになりました。

堀)

どうして強く生きていかなきゃいけないと?

JIN)

パレスチナ人だから伝えられることって、絶対あると思うんですよ。

もちろん僕はパレスチナで生まれ育ってるわけではないですけど、僕だからこそ語れることもあると思うし、もし僕がこの状況に諦めてしまい、例えば、パレスチナ人というアイデンティティを隠していたりとか、そういう発信をしていかなかったりしたら、平和にならないんじゃないかなと思って。

それはパレスチナも世界も平和になって欲しいし。僕は平和の上に生きたいので。

アーティストとしてこういう活動ができるのも平和だからこそと思っているので。

シンプルに、やはり人が死んでいるのをみたくないし、傷ついているのもみたくないし、それはパレスチナであっても、どこの国でも、宗教でも、肌の色にもかかわらず、みんなが幸せにいてほしいと思いますし。

特にその「パレスチナに平和を」とやってしまうと、いつか自分たちの番に争いがまわってきてしまうと思うんですよね。

1つの不条理を許していたら、その不条理というのが許される社会だとしたら、いつ自分にその不条理が回ってくるかわからないと思うんですよね。

80年前は、日本が今のパレスチナの立場じゃないですけど、やはりすごい惨事になっていたわけでそういうことを考えたときに「平和な世界であってほしい」そう思いますよね。

「WAR & DEATH」ミュージックビデオより
「WAR & DEATH」ミュージックビデオより

◆「何やってもいい」という空気に釘を刺すためにできることは?

堀)

このメッセージを誰に一番届けたいと思ってリリックを書きましたか?

JIN)

これからの世界、特に日本などを作るのは若者じゃないですか。もっと関心を持ってほしいなと思うんですよね。

「パレスチナとのハーフなんだよね」と言っても、「パレスチナって聞いたことない」とか、「パレスチナってどこ?」とかいう返事が返ってくるのも、やっぱ知らないんだなパレスチナ問題とか、パレスチナへの不当な扱いとかはと思い知らされるというか。

やはり無関心って一番駄目だと思うんですよね。

関心がないっていうのは、もうそれこそ「何やったっていい」ということになっちゃうわけじゃないですか。無関心だったら。だからやっぱりそこに伝えたいです。

そして「ヒップホップ」という、僕が大好きなカルチャーを通してこれを伝えたいっていうのもあります。

堀)

JINさんはご親戚も今回の攻撃で被害に遭ったり、連絡が取れなかったりそういう現状もあるんですか?

JIN)

そうですね、結構近しい親戚は、1948年のナクバで、僕の祖父もそうなんですけど、難民としてパレスチナから海外に逃れ、今も戻れていない状況で直接死んでしまったりというのはないんです。

しかし、祖父の姉などはパレスチナに残っていて、ヨルダン川の西岸地区でも最近は入植者による暴力や殺人とかも目立っていてすごい心配ですし、被害に遭ったり、困っている生活をしたりしてないかなと心配しています。そもそもの生活が制限されてるという面では、被害に遭っていると言えますね。

堀)

パレスチナ人のお父様は今どんなことをお話し、、されているんですか?

JIN)

パレスチナが平和になってほしい、そう心から願っていますね。

でも、やっぱり同時にその現状を改善することの難しさというのも、多分わかっていて、この世界が動いてくれないことだったりとか、日本が国連での停戦決議に棄権したりもしたじゃないですか。そういうことに対しての不満だったりとか、そういう憤りは話したりします。

DANNY JINさんへのインタビューは1時間にわたった 撮影:堀潤
DANNY JINさんへのインタビューは1時間にわたった 撮影:堀潤

◆そして「日本人」として思うこと

堀)

まずここまでは「パレスチナにルーツのあるJINさん」という角度で聞きましたけど、最後に、日本人として、「日本にルーツのあるJINさん」としては何を伝えたいか、というのをお伺いします。

JIN)

やはり日本人として思うのは、過去の戦争の記憶、第二次世界大戦のこの惨劇を日本は知ってるわけなので、これを繰り返してはいけないというメッセージを発信するべきだと思います。

そして、原爆投下があったという面から見ても、日本にしか発せないメッセージがあると思いますし、「平和を望んでる国民」として、もっと考えていこうよって思います。

堀)

今すぐにでも攻撃を止めないと、まだまだ犠牲者が増えていってしまいます。今すぐに止めるために何ができ、何をすべきだと思いますか?

JIN)

一個人で考えたときに、やっぱり、声を上げる。政府とか権力とか、そういう人たちに声を届けたり、行動をしたりするということはとても大切だと思っています。


僕みたいに曲を作るというアクションがあったり、それ以外にも、例えばイスラエルの関連企業の商品を買わなかったりとかもそうですし、個人個人でできること、声を上げるっていうことが大切だと思っています。

日本政府としてできることは、しっかりまずは「停戦決議」に賛成して、イスラエル政府に対して停戦を日本は望んでいる、というのを言うことがまずは一番だと思います。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2016年(株)GARDEN設立。現在、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」キャスター、Amazon Music「JAM THE WORLD」、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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