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「R-1」決勝に6回進出。ヒューマン中村が語るピン芸人が歩むいばらの道と、先に見える光

中西正男芸能記者
活動拠点を大阪から東京に移し、新たな一歩を踏み出したヒューマン中村さん

 「R-1グランプリ」で通算6回決勝進出という圧倒的戦績を残すヒューマン中村さん(40)。ピン芸人という立ち位置をこれでもかと見つめ続けた芸人人生でもありますが、その中で「難しさ」をこれでもかと感じるといいます。ピン芸人が歩むいばらの道とその先の光とは。

ピン芸人の苦悩

 6月から東京で暮らしています。引っ越しの疲れなのか、東京への底知れぬ不安なのか、東京へ来た途端に寝込んだりもしましたけど(笑)、なんとか新生活をスタートさせました。

 「R-1」の決勝に行きだして、2013年に準優勝したあたりから東京に行ったほうがいいとは言ってもらっていました。自分でも「いずれ東京に行くんだろうな」とは思ってはいたんですけど、気づけば大阪でホームグラウンドにしている劇場「よしもと漫才劇場」では一番芸歴が上の立場にもなってまして。

 いつまでも劇場関連のお仕事をいただいているわけにもいかない。ただ、劇場関連のお仕事が全てなくなると、仕事量がガクンと減る。それ以外のことを求めてどうせサバイバルをするなら心機一転東京でやったほうがいいんじゃないか。そう思っての決断でした。

 まだ東京に来てほとんど舞台には立っていないんですけど、その中でも感じることがあります。「やっぱり大阪ってホームやったんやな」と。

 僕がどんなネタをやる人間で、どんなキャラクターがあるのか。それをまたゼロから示していかないといけない。分かっていたことですけど、やっぱりそうなんだなと。

 この「東京ではゼロから」という思いを痛感した時に、今一度、ピン芸人の意味を噛みしめもしました。

 僕のことを説明してくれる人がいない。何か発言をした時に「これって笑っていいの?」「今のは何だったの?」というところの案内をしてくれる人がいない。自虐ボケもするんですけど、そこを絶妙に紹介する人がいないと、自分で処理するしかない。自分で処理してしまうと“イジリしろ”がなくなってしまう。どうしたらいいんだということを感じています。

「R-1」で勝つことと、売れることの違い

 「R-1」のチャンピオンがバラエティーでしんどくなってしまうという話もありますけど、これもよく考えると自然なことなんですよね。「R-1」で優勝するということは、ネタという作品がよくできている。自己完結しているんです。完成品だからこそ優勝できるし、完成品だからこそ“つっこまれしろ”がない。

 逆に、バラエティーで重宝されるのはネタ中にガヤを入れたくなるような“つっこまれしろ”がある人なんです。ある意味、隙のある人。となると、「R-1」という作品性を競う場では優勝しにくい。

 「R-1」という大会はテレビで放送されるものですし、そこで優勝した人は当然のように次はテレビで活躍することをみんながイメージするんですけど、実はそこは全く違う競技であり、なんなら逆方向の色が求められる世界でもあるんです。

「R-1」で優勝するために必要なことと、売れるために必要なことは違う。フリースタイルフットボールみたいに曲芸的なボールの扱いをする人と、プロサッカー選手くらい求められることが違うといいますか。同じサッカーボールを扱うものなんですけど、すぐに互いの競技ができるかというと、そうではない。そんな感じに近いかなと思います。

 漫才は互いが互いの説明書になりながらネタを進めていくし、漫才をやることでそこにどんな商品かが書いてあるようなものです。スベっても、ツッコミを入れて笑いにすれば成立もしますし。ピンはスベったらスベりっぱなしになります。実は本当に難しいポジションだなと今になって痛感してもいます。

ピン芸人が売れるには

 芸人になりたての頃は分かってなかったんです。というのも、テレビで活躍されている方はピン芸人が多いんです。そこにあこがれて始めて、その難しさがどんどん分かってくるというか。

 何かしらスタッフさんが“呼ぶ理由”が売れるためには必要なんだと思います。有吉弘行さんなら“あだ名”とか“毒舌”とか「これをやってください」というものをやりきるところからスタートする。劇団ひとりさんは“泣き芸”かもしれませんし、カンニング竹山さんなら“キレ芸”、なかやまきんに君さんなら“筋肉”みたいに求められる一芸がいる。そこを起点に認められていくのが売れているピン芸人の皆さんに共通していることなのかなとも思います。

 じゃ、自分にとってのそれは何なんだろう。それを見つけないといけないんだと思います。それを見せるために呼ばれて、少しずつ自分の座るイスを作っていく。東京でその積み重ねをしないといけないんだなと感じています。

 これはね、本当に難しいですね(笑)。考えれば考えるほど、ピン芸人って本当に難しい仕事だとも思います。ただ、やるとなったら、やるしかないですからね。

 コンビだったら、何か決める時に二人が「うん」と言わないと進まない。でも、ピン芸人は自分が「やろう」と思った時点でその案は採決されますから。東京で新しいことを始める時に、ここの身軽さはメリットだと思いますし、そこを最大限メリットだと強く思いこませて(笑)、この道を進んでいきたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■ヒューマン中村(ひゅーまんなかむら)

1983年9月8日生まれ。石川県出身。中村高志。吉本興業所属。NSC大阪校25期。コンビでの活動を経てピン芸人に。「R-1ぐらんぷり」で決勝に6回進出するなど圧倒的な戦績を残す。「上方漫才協会大賞」文芸部門賞、「R-1ぐらんぷりクラシック」MVPなど受賞。今年6月から拠点を大阪から東京に移す。7月3日によしもと幕張イオンモール劇場で開催される「ガクテンソクの幕張ワン継承式」に出演する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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