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『映像の世紀 バタフライエフェクト』が生み出す、目で見る歴史の「臨場感」

碓井広義メディア文化評論家
『映像の世紀 バタフライエフェクト』タイトル(番組サイトより)

今年の夏もまた、何本もの戦争関連番組が放送されました。

その多くは日本の敗戦で終わっているわけですが、もちろん歴史の流れが止まることはありません。

アーカイブス映像からプライベートフィルムまで

8月21日放送のNHKスペシャル『映像の世紀 バタフライエフェクト~GHQの6年8か月 マッカーサーの野望と挫折~』は、戦後の「占領期」を舞台としていました。

GHQとは「連合国軍最高司令官総司令部」の略称です。

昭和20年8月30日、厚木飛行場に降り立った連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーは、そこから横浜へと移動しています。

イギリスの従軍記者が撮ったプライベートフィルムには、マッカーサーが見たものと同じ景色が記録されていました。

驚くのは、マッカーサーが通過する沿道に、数多くの日本兵がいたことです。

しかも彼らは皆、道路に「背を向けて」立っていました。

それは戦勝国の最高司令官を「守ろう」とする、「敬意のジェスチャー」だったのです。

歴史的人物の映像と肉声

マッカーサーは、「五大改革」と呼ばれる政策を断行していきました。

婦人の解放、労働組合の奨励、教育の民主化、経済機構の民主化、そして圧政的諸制度の廃止です。

政治犯や思想犯が釈放され、たとえば18年間刑務所にいた日本共産党の徳田球一も出所しました。

後に、GHQによってパージ(追放)されることになる徳田ですが、インタビューに応えて「連合国軍と人民大衆の同情と絶大なる援助のもと、解放された」と笑顔で語っています。

マッカーサーをはじめとする、歴史的人物の映像と肉声による臨場感は、この番組の真骨頂です。

また、日本国憲法が生まれる過程も実に興味深い。

憲法改正調査会の試案を見たマッカーサーは、日本政府には民主主義的な憲法は作れないと判断し、民政局に草案作りを命じました。

その際、「マッカーサー・ノート」で基本原則を示しています。

一つは天皇が最上位にあること。

もう一つが国の主権的権利としての戦争の廃止、つまり戦争放棄でした。

憲法9条につながる考えが、すでに挙がっていたのです。

歴史への新たな視点

しかし、やがてアメリカは占領政策の転換へと動きます。

民主化・非軍事化に逆行する方針を打ち出す、いわゆる「逆コース」でした。

昭和25年、朝鮮戦争が勃発。マッカーサーは国連軍司令官となります。

そして治安の空白を埋めるために、警察予備隊(後の自衛隊)の創設を指令。

自ら手掛けた憲法9条があるにもかかわらず、日本の再軍備を進めていきます。

マッカーサーは何をもたらし、何を失わせたのか。

当時の日本に与えた影響が、現在も続いていることが伝わってきました。

世界各国から収集した貴重なアーカイブス映像をもとに、歴史への新たな視点を提示する、この番組の意義もそこにあります。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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