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所属芸人の退所が続く中「よゐこ」有野が考える松竹芸能の意味と、自らの使命

中西正男芸能記者
新たなイベントも立ち上げ、今の思いを語る有野晋哉さん

 お笑いコンビ「よゐこ」としてシュールなコントで地位を確立し、テレビゲームへの愛情から現在のゲーム実況動画隆盛の源流を作ったと言われる有野晋哉さん(52)。所属する松竹芸能からの退所が相次いでもいますが、その中で思うこと。そして「やらないわけにはいかない」と語る使命とは。

恩送り

 松竹芸能の若手がなかなか賞レースで結果を出せない。そんなこともあって、去年の春に、東京で若手のネタ見せライブを始めたんです。

 すぐに結果が出るものではないでしょうけど、自分が何か動いてプラスがあるんだったら。そう思って会社と話をしてスタートさせました。

 そんな中で、大阪の松竹芸能の女性タレント・田口万莉から「大阪の女性タレントでも、そんなイベントをやってくださいよ」と言われまして。自分が知っている女性タレントさんに必要なこと。そんなことを伝えるイベントを7月13日に大阪でやることにもなりました。

 ふわっとした話ではなく、関西での女性タレントさんの仕事って芸人と絡むことも多いと思うので、その時にどんな振る舞いをしたら喜ばれるのか。制作スタッフに「いてくれて助かる」と思われるのか。そういう実践的な話をするつもりです。

 目標はイベントで一緒になったメンバーから売れっ子を出したい!そして、東京でのイベントも、今回の大阪のイベントもなんですけど、根っこにあるのは“恩送り”ということなんだと思います。

 僕は松竹芸能という事務所に所属して34年経っているわけですけど、僕らが20代の頃は師匠方も今よりも、お元気でさらにたくさんいらっしゃいました。

 入りたての十代の頃は、師匠に対してビビッてるところも多々ありましたし、楽屋に挨拶に行く時でも「先にお前から入って」と相方(濱口優)と小競り合いになってもいました(笑)。でも、話してみるとやさしいし、事務所全体にファミリー感がありました。

 そして、よく考えたらね、僕らが若手の頃に大師匠やった「正司敏江・玲児」さんが今の僕の年齢よりも若いんですよね。でも、僕にはまだ師匠のオーラってのがないんですよ。

 20代の若手がそういう50代、60代の大先輩と絡めている。それで昔話を聞ける。これが、老舗の芸能事務所の意味やと思いますし、松竹芸能を選んで入った意味になってほしい。

 昔、道頓堀にあった松竹芸能の劇場「浪花座」の進行係をさせてもらっていたのも、今となったら本当にありがたいことだと思います。不出来で、すごく叱ってもらえた。

 その時に教えてもらったことが、今の自分を確実に作っていますし、いろいろなエピソードが自分の中にたまっているのも、その時間があったからやなと。

 僕が別の用事でいなかった時に、濱口が「レツゴー三匹」のじゅん師匠に飲みに連れて行ってもらっていて、その時に相談を受けたと。

 「今度、名前を“おおさか”じゅんにしようかと思うんやけど、その“おおさか”を“大阪”にするか“逢坂”にするか。どっちがエエと思う?」

 そこで相方が「“逢坂”のほうがおしゃれじゃないですかね」と答えて、その後「逢坂じゅん」になったと。ものすごい話ですけど(笑)、こんなこともね、接点がないと生まれようがない話ですもんね。

 今年1月に正司歌江師匠が亡くなってしまいましたけど、若手の頃に「かしまし娘」さんとお話をさせてもらった時に聞いた話が今でも印象に残っているんです。

 立ち位置が真ん中の歌江師匠の三味線を少し短く切ってあると。3人がギュッと近くに立ってネタをしたほうが映えるので、三味線を短くして左右の2人との距離を少しでも近くしていたそうなんです。三味線を短くすると、技術的には難しくなるそうなんですけど、そこは誰にも言わずに練習してサラッと乗り越える。

 あと、これは今も僕自身やっていることなんですけど、師匠方は舞台衣装に着替えると、そこからは一切座らないんです。ズボンにしわがついてしまうので。

 こういう一つ一つを、教えてもらってきました。次は僕くらいの年代の人間が若手に渡していかないと、川の流れが止まってしまう。僕の場合、渡していくのはテレビで習ったことなのかなって思います。

 僕からしても、若い子たちが僕のエピソードを持っておいてくれるのはありがたいことですしね。“取扱説明書”が若手にも広まっているようなものですから(笑)。この歳になってくると、いかにしてイジられるか。それが大事なことですしね。

松竹芸能を辞める芸人がいる中で思うこと

 ここ何年か、松竹芸能を辞める人が増えたと言われます。

 当たり前ですけど、辞める人にはそれぞれ理由があります。それを良いだの、悪いだの、他人が言うこと自体、ナンセンスなことです。

 それが大前提だし、僕が聞くのは「辞めます」って決めたことの報告なので、そこで後ろ髪を引っ張ってもアカンし、大人の決断ですから「そうか、そうか。頑張りや」と言うしかないんですよね。

 繰り返しになりますけど、辞めること自体は「悪」では全くないんです。でも、辞めることが「ベスト」としっかり言えるまで、会社とコミュニケーションをとってきていたのか。そこを思う自分がいるのも事実なんですよね。

 例えば、僕が今回みたいなイベントをやることになって会社に相談をすると、ラジオとかテレビとか告知の場を事務所が取ってくれたりもするわけです。個人では絶対に無理です。

 当然、相談しても実現しないこともたくさんありましたし、なんやったら怒られることもあります。それはそういうもんなんです。

 だけど、相談することによって、基本的に会社も何かをやってくれようとはする。そうなると、人と人ですから、関係性もできてくるし「有野が言うてたアレ、まだやれるか」とかもある。

 辞めるという結論に至るまでにいくつかの過程も自ずとできてくるんじゃないかなとも思うんです。両者もったいないなぁって思っちゃう。

 ただ、こういうことを言っても「それは有野さんだから、会社も聞く耳を持ってくれるんです」と言われたりもします。

 でも、僕はそう言っている若手よりさらに若い頃からそんな話を会社に言ってきました。それによって作られたこともたくさんあったと思います。

 20代の「よゐこ」なんてメチャクチャ面倒くさいタレントでしたよ。得意なことが少ないくせにわがままやし。「あの時の『よゐこ』嫌いやわ~」って50代の社員にはいまだに言われるし。

 本当にね、良い悪いではないんですけど、自分はしっかりとできる、できないの話をしてきたつもりなので。退所した後輩にとっての「ベスト」な選択肢であることを願うばかりです。「やっぱり戻りたい」って芸人はまだ現れてないから、ねらい目かも。

 事務所を辞める、辞めないなんてことは最後は自分の判断です。それだけです。ただ、僕としては師匠方や社員から本当にたくさんのものをいただきましたし、今自分が伝えられることがあるなら、渡しておかないと“恩知らず”になってしまう。

 そう思っているだけなんですけど、もしそれが松竹芸能の意味につながっていって、また違う流れが生まれたりしたら、それはそれで良いのかなと思っています。

 そんなこんなで若い女性タレントと何かをしゃべる機会も増えてきたんですけど、本当に若い人だとこっちに対する意識も全然違っていて。それはそれでね、こちらが勉強になります(笑)。

 大阪でいうとね、若手の中ではキャリアのある清水綾音あたりは僕と話をする時に緊張するみたいなんです。でも、もっと若い子になると「せっかくやから、一緒に写真を撮りましょうよ!」とむちゃくちゃ近い距離できます(笑)。「たまに来る親戚のおっちゃん」くらいの感覚なんですかね(笑)。ま、それも面白いんですけど。

 押しつけるわけではないんですけど、自分がしてもらったことは最低でも次に渡す。これはね、やらないわけにはいきません。それは間違いない。

 ステージはね、ステージでちゃんと「松竹芸能は女性タレントも面白い」って流れができたら良いなと。それと同時に「シュールなコントをやってたけど、こんなことをする歳になったんやなぁ」ともつくづく思います(笑)。

(撮影・中西正男)

■有野晋哉(ありの・しんや)

1972年2月25日生まれ。大阪府出身。松竹芸能所属。同じ中学、高校に通っていた濱口優と90年にお笑いコンビ「よゐこ」を結成。独特の世界観を持つシュールなコントで頭角を現す。ゲーム、アニメなどに造詣が深く、2003年から続く番組「ゲームセンターCX」(フジテレビONE・フジテレビTWO・フジテレビNEXT)でゲーム好きとしての地位を確立。ゲーム実況の元祖的存在とも言われる。05年に結婚。06年に長女、07年に次女が生まれた。有野が大阪の女性タレント育成を目指し本気でアドバイスをするイベント「有野が若手を見るLive ~大阪女性タレント 夏の陣~」(7月13日、大阪・DAIHATSU 心斎橋角座)も開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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