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<終盤情勢>森氏・米山氏が横一線=JX通信社 新潟県知事選独自調査

米重克洋JX通信社 代表取締役
柏崎刈羽原発の再稼働をめぐる問題が最大の争点に浮上している(写真:ロイター/アフロ)

泉田裕彦知事の不出馬を受けて新人同士の争いとなった、2016年新潟県知事選挙。来る16日(日曜日)に投開票が行われるのに合わせて、筆者が代表を務める報道ベンチャーのJX通信社では、8日・9日の両日、新潟県内の有権者を対象とした情勢調査を行った。

※注:JX通信社は共同通信グループなど他の報道機関との資本関係があるが、今回の調査は自社調査サービスの準備企画として単独で行ったものであり、他社とのデータの交換や提供などは一切行っていない。

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調査の概要は右図の通りだ。電話調査の結果得られたデータに定性的な情報や過去の選挙結果を加味して情勢を探った。この方法による調査は昨年来、記事等で紹介している通り大阪府知事・市長ダブル選挙をはじめとしてその他政令市市長選・知事選、衆院補選、参院選などで繰り返し実施している。

情勢のポイントは下記の通りだ。

・森民夫氏と米山隆一氏が横一線。森氏は与党支持層を固め切れず、無党派でもやや勢い欠く

・米山氏は泉田氏を評価する層、原発再稼働に反対する層から強い支持

・経済、福祉などを抑えて「原発再稼働」が最大の争点に浮上

政党別支持動向:森氏、与党支持層固め切れず

自民党支持層では森民夫氏(無所属/自民・公明推薦)が6割を固める一方、米山隆一氏(無所属/共産・社民・生活推薦)も約2割食い込んでいる。同じく与党の公明党支持層でも森氏が6割を獲得している一方、米山氏に2割ほど流れており、終盤に至っても森氏が政権与党支持層を固めきれていない状況が見てとれる。

更に、無党派ではまだ態度未定者が相対的に多いものの、態度既定者ベースで米山氏が森氏を上回る支持を得ている。また、野党支持層では民進党支持層で米山氏が7割を固めたほか、共産党・社民党支持層では大半を米山氏が固めている。

泉田県政の評価:米山氏「泉田後継」色強まる

今回の選挙に不出馬を決めた現職の泉田裕彦知事による3期12年の県政についても聞いた。泉田県政を評価するかという質問では、「評価する」31.5%、「どちらかと言えば評価する」47.3%の合計で78.8%が肯定的に評価した。「評価しない」「どちらかと言えば評価しない」層は合計で21.2%にとどまっている。また、泉田県政を肯定的に評価した層では、米山氏が森氏をやや上回る支持を獲得する一方、否定的評価をする層では森氏が大差でリードしている。

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こうした情勢となっている背景として、米山氏が「原発事故の徹底した検証なくして再稼働の議論は始められないという泉田知事の路線を引き継ぐ」とのメッセージを強く打ち出していることが挙げられる。逆に森氏は早い段階で自民党からの支持を得たことで、泉田氏の再選出馬からの撤退につながる道を拓いた経緯があり、後継色は殆どない。とうの泉田氏自身は特定の候補に対する支持や後継指名を明確には行っていないものの、twitterで米山氏の原発に対する姿勢に賛意を示唆する投稿を行っている。

泉田知事を巡っては、県の第三セクターが購入契約を結んだ日本海横断航路のためのフェリーに関するトラブルを地元紙の新潟日報が追及しており、このことが一旦は表明していた再選出馬の撤回につながっている。ただ、泉田知事への肯定的評価の多さやその内訳から、泉田氏の原発に対する厳しい姿勢は県民に一定の評価を受けていることが分かる。

争点:「原発再稼働」最大の争点に

今回の選挙で最も重視する争点を聞いたところ、原発再稼働をめぐる問題を挙げた有権者が35.7%に上り、2位の景気や雇用を挙げた有権者(22.4%)を大きく上回った。これは他の首長選や国政選ではあまり見られない傾向であり、今回の選挙戦最大争点は原発再稼働の問題と見なされていることを強く示唆している。

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その原発再稼働を最大の争点に挙げた有権者の中では、米山氏が森氏に大差を付けている一方、2位の景気や雇用、3位の医療や福祉を重視する争点に挙げた有権者の中では森氏が米山氏に対して大きくリードしている。また、もう1つ他地域と異なる争点として「人口減少対策」を挙げた層が8.3%で4位につけている。この層でも森氏が米山氏を上回っている。

このように、今回の選挙戦で最大の争点となっている柏崎刈羽原発の再稼働をめぐる問題についても、個別に質問を行った。その結果、再稼働に「賛成する」「どちらかと言えば賛成する」と回答した有権者は合計で30.3%にとどまった一方で、「反対する」「どちらかと言えば反対する」と回答した有権者は69.7%に達した。

両候補の支持動向はここでも対照的で、再稼働に賛成する層では森氏が大差で米山氏にリードする一方、反対する層では米山氏が森氏を上回る支持を得ている。

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夏の参院選では野党が勝利 鹿児島県知事選の残像も

新潟は政権与党にとっては「鬼門」とも言える場所だ。夏の参院選では、一人区である新潟選挙区で野党統一候補の森裕子氏が自民党候補の中原八一氏を僅差で差し切った。実はこの参院選では、終盤に至っても中原氏が森氏をごくわずかに上回っている調査が多く、森氏の勝利はやや意外感を持って受け止められた。この時と比べると、民進党や連合の推薦を得ていない米山氏の支援体制は薄いとされるが、支援組織が盤石なはずの森氏がすんなり当選するとは到底言い難い選挙情勢になっている。

同じく原発立地県であり、やはり同じく原発が争点化した7月の鹿児島県知事選の「残像」も気になるところだ。こちらは、四選を目指して出馬した現職の伊藤祐一郎氏を抑え、川内原発の即時停止を掲げた三反園訓氏が大差で勝利している。

今回、もし同様の結果となった場合でも、翌週に控える衆院ダブル補選については影響は限定的だ。東京10区では、自民党公認候補となった若狭勝氏が「小池旋風」の追い風も受けて安定している。だが、その後の政権運営や原発を巡る議論にどのように影響するかは未知数だ。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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