iPhoneが世界で最も幸福な国を狂わせた「寛容」が「極右」に変わるとき 欧州議会選フィンランド編
反イスラム極右政党が第2党に
[ロンドン発]14日投開票されたフィンランド議会(定数200)選で反イスラムの極右ポピュリズム政党フィン人党が1議席差で第2党につけました。前回の議会選でもフィン人党は第2党に入っており、完全に市民権を得たことをうかがわせます。
英BBC放送によると、どの政党も得票率が20%を超えなかったのはこの100年間なかったそうです。ほとんどの政党はこれまでフィン人党との連立を否定してきました。
5月下旬に行われる欧州議会選の世論調査でも同じような傾向が出ています。
欧州連合(EU)懐疑派ポピュリスト政党だったフィン人党は2015年、連立政権に参加。2年後に強硬派が主導権を握ったため政権から追放され、分裂しました。改選前の議席は17議席。今回「われわれのフィンランドを取り戻せ」をスローガンに、2倍以上の39議席に戻しました。
社会保障・医療改革と地球温暖化が争点になった選挙戦で「フィンランドに害をもたらす移民の強制退去を」と訴え、主張を国境や移民管理の強化に絞りました。目の部分を除いて全身を覆うイスラム女性の民族衣装ブルカやニカーブ、少女のスカーフ着用の禁止を求めました。
党分裂の引き金になり、極右ナショナリスト路線に舵を切ったユッシ・ハッラアホ党首(47)は天文学と射撃が趣味。「フィンランドは温暖化対策でヒステリー状態に陥っている」と揶揄し、フィンランドが受け入れる難民をほとんどゼロにすることを約束しました。
「極めて西洋的な白い寛容」の正体
国連の世界幸福度報告2019年版によると、16~18年の幸福度ランキングはフィンランドが7.769で2年連続の首位に輝きました。(2)デンマーク7.600(3)ノルウェー7.554(4)アイスランド7.494と北欧の国々が続きます。ちなみに日本は58位で5.886でした。
フィンランド統計局によると、同国の全人口は17年末で551万3130人。内訳がフィンランド人512万9007人、移民38万4123人(全体の7%)。移民の数は1991年の5万人から6.4倍に膨れ上がっています。
滞在許可申請は過去1年で10万1611件。このうち6万6031人に居住許可が下り、1万4171人に市民権が認められました。EU市民としての登録は1万279人。難民として庇護が認められたのは4629人。イラクやロシア、アフガニスタン出身者ら6501人が強制退去させられています。
移民や難民の急増が世界で最も幸福な国を「不寛容」にしてしまいました。いや北欧の国々が装っていた「極めて西洋的な白い寛容」がその正体を現しただけなのかもしれません。EU懐疑主義は移民が自分たちの居場所を奪うことを拒絶する排外主義の仮面に過ぎないのです。
スマホの登場で没落したノキア
世界金融危機と欧州債務危機、国を代表するグローバル企業だった通信機器大手ノキアの没落でフィンランド経済も低迷を続けています。
英誌エコノミストによると、ノキアは1998~2007年、フィンランドの成長の4分の1、研究・開発費の30%、輸出の5分の1に貢献していました。法人税全体の23%は同社が納めていたほどです。
しかしアップルのスマートフォン(多機能携帯電話)iPhoneや韓国・サムスン電子のギャラクシーの登場でノキアの株価は07年から12年にかけて90%も下がってしまいます。フィンランド経済は大黒柱だったノキアの敗北で致命的な打撃を受けます。
国際通貨基金(IMF)データによると、購買力で見た同国の国民1人当たりの実質国内総生産(GDP)はまだ2008年レベルまで回復していません。
06~17年のEU統計局のデータから購買力で見た1人当たりGDPも、EU加盟28カ国の平均を100とした場合、フィンランドは「負け組」に転落したことが分かります。失業率は8.1%。成長しなくなった国ではイスの取り合いが激化し、どうしても不寛容になってしまうのです。
フィンランドで仕事の有無や収入の多寡にかかわらず、すべての国民に生活に必要な最低限のお金として月560ユーロ(7万875円)を配る「ベーシックインカム」の実証実験が行われたのはこのためです。しかし富の再分配を強化するには、成長の維持が前提になります。
教育先進国の「落ちこぼれ」
経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査(PISA)2015年」で、フィンランドは参加72カ国中、科学的リテラシーで5位、読解力で4位、数学的リテラシーで13位と上位につけています。フィンランドは世界でも最も教育熱心な国の一つです。
しかし、16年時点で6万1000人の若者(15~24歳)が徴兵されているわけではないのに、学ばず、働かない「落ちこぼれ」と化しています。この世代の約1割に当たるそうです。職業教育訓練の中退者は後期中等教育のそれよりはるかに多くなっています。
フィンランドの問題は日本と同じように少子高齢化が進み、生産年齢人口が減っていることです。15~65歳の生産年齢人口は10年の355万2663人(66.4%)をピークに減少に転じています。65歳以上の老年人口は15年には109万1388人(19.9%)と100万人を突破しています。
高齢化が進む社会では保守化が強まります。欧州債務危機のあと財政再建に取り組んだことも、国民の不満を増幅させてしまいました。「衰退する西洋」は極右ポピュリズムの魔手から逃れられないようです。
(おわり)