秘密の野球談義…投球テンポが気になる新庄監督に上原浩治が進言した「3球勝負のススメ」
つい先日、プロ野球日本ハムのキャンプ地を訪れた際、〝BIGBOSS〟こと新庄剛志新監督から特別にブルペンに招き入れてもらった。
新庄さんは以前、GAORAのキャンプ中継に参加した際に日本ハムの投手陣の「リズムが悪い。野手はテンポが気になる」などと発言。解説席にいた、私と高校時代の同級生だった建山義紀氏が、私を「臨時コーチ」にとその場で〝推薦〟し、新庄さんが「呼びたいね」と応じていたというニュースが報じられていた。
今回のキャンプ取材に際して、前もって新庄さんに連絡を入れていたこともあり、到着して挨拶すると、すぐにブルペンへ。取材が目的だったので、選手を前に話す機会はなかったが、長時間にわたって野球談議に花を咲かせた。内容の全てを明かすわけにはいかないが、新庄さんは私との会話では「投手のテンポ、リズム」に関心を寄せていた。
私は現役時代、投球間隔が短いことで知られ、野手からも守りやすいという評価をいただいていた。投球時に意識していたのは、「相手打者に考える〝間〟を与えないこと」「完投するために1イニング15球(9イニングで135球)を目安に投げること」の2点。結果として、〝無駄球〟が少なく、投球にリズムとテンポを与えていた。
野球は試合時間のスピードアップがファン目線から課題にもなっており、投手が3球勝負を心掛けることが課題解消の近道にも思える。
新庄さんとの会話でも、シンプルに「3球勝負」の意識の大切さを説明させてもらった。もちろん、2ストライクから甘いコースに投げて打たれては意味がない。3球にこだわるというよりも、結果的にボールになっても構わないが、すべての投球で「勝負する」という意思を持って投げるということが3球勝負の真意だ。
少年野球でも、ストライク先行で追い込んだとき、見え見えのボール球を投げることがあるが、勝負するつもりのない〝無駄球〟は球数が増えるだけで、守っている野手のリズムも悪くなる。きわどいコースで勝負をすれば、打者が見逃してボールと判定されることは当然あるが、最初からボールにするような投球を入れる必要はないのではないか。私はそう考えているという話をさせてもらった。
新庄さんとの会話は全く笑いのない真剣な内容だった。私はメジャーに行ってから、「初球はストライクを取れ」と教わるようになった。メジャーの打者はストレートで初球のストライクを取りに行くと打たれることがある。メジャー経験もある新庄さんは「初球に変化球でストライクが取れたらいいよね」と話していた。私からも「打者はカウント2―2のときは、きわどいボールを見逃す傾向にありますが、どうしてですか」「逆にフルカウントになったら、同じコースでも振ってきますよね」と現役時代の経験に基づく質問を投げかけた。新庄さんは「そうだよね、なんでだろうね」と同調されていた。もしかしたら、答えを持っていたのかもしれないが、明かすことはなかった。新庄さんは、わからないことはわからないと言える人なので本当のところはどうだったのだろうか。
現役時代、新庄さんは阪神のスター選手の地位を捨て、最初は年俸が大幅に下がる条件でもメジャーに挑戦した。そして、メジャーで活躍し、日本ハムに復帰後はパ・リーグの人気上昇に大きく貢献した。監督になってからは、ド派手なスーツ姿で登場した就任会見以降、まだ公式戦を1試合も戦っていないのにたくさんの話題でプロ野球界を盛り上げている。
キャンプでの取り組みは、外野手に低い軌道での返球を求めるなど理にかなっていると感じることが多々ある。私が視察に訪れたキャンプ後半は選手にも疲れが出てくる時期。そんな中でも選手たちを乗せるのがうまいなという印象だった。
シーズンが始まれば、結果を求められるシビアな世界に身を投じることになる。そのことがわかっているからこそ、キャンプ地を訪れる解説者の言葉にもアンテナを張っているのだろう。パフォーマンスという〝鎧〟をまとっているが、頭脳は常にフル回転。キャンプ地で見たBIGBOSSのハートはすでに戦闘モードだった。