能動的観劇で“真っ赤な神秘の世界”へ!望海風斗・平原綾香・井上芳雄・甲斐翔真らとの再会
2001年に公開されたミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』といえば、アカデミー賞など多くの映画賞を総なめにしたことで知られます。そして、2019年に舞台化された『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』も、トニー賞で10冠を獲得してブロードウェイで大ヒットしました。日本では2023年に初演を迎え、数年に及んだオーディションの末に選ばれたキャストたちによる熱演が話題に。そんな舞台の再演が早々に決定し、6月20日に初日を迎えています。
―ムーラン・ルージュとは
ミュージカルをあまり知らない人でも、「ムーラン・ルージュという言葉は聞いたことがある」、「日本語で“赤い風車”という意味なのは知っている」、「有名なキャバレーだ」、「画家ロートレックが描いたポスターで見た」、「フレンチ・カンカンを知っている」…といった印象を持っているかもしれません。
物語は、ほとんどがフランス・パリのナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の中で起こる出来事。日本版の出演者は、ムーラン・ルージュの花形スター・サティーン役に、望海風斗さんと平原綾香さん。サティーンと激しい恋に落ちる作曲家・クリスチャン役に、井上芳雄さんと甲斐翔真さんが選ばれています。
―劇場に入れば…非日常の真っ赤な世界!
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は、あらゆることが話題となりました。第一に挙げられるのは、セットの豪華さ。帝国劇場に一歩足を踏み入れれば、そこにはムーラン・ルージュの真っ赤な世界が広がります。
ロビーから普段とは違う雰囲気にドキドキしながら客席に入ると、今度は幾重にも続くハート形のセットが目に飛び込んできます。舞台左側にしつらえられた風車はゆっくり回り、右側では大きな象が出迎えてくれます。サティーンがいる部屋は、この象の中という設定。きらびやかな光とは対照的に退廃的な香りも漂い、非日常の世界が広がっています。
華やかなナイトクラブやキャストの見せ方、次々と紡がれる歌…どう舞台化されるかが注目されていましたが、映画の雰囲気はそのままに、立体的な物語が目の前にありました。色彩はこの舞台の魅力の一つ。迫りくる真っ赤な世界はいくつものライトで輝き、自分もムーラン・ルージュの客席の1人のような気持ちになってきます。
そして、何といっても生で聴く音楽・歌の素晴らしさ、キャストの心情が直接歌声となり、心に響きます。各々に合わせてミリ単位で作られた、大胆でゴージャスな衣装。ダンスにも目を奪われます。
話題が尽きませんが、初演時はあまりにも見る箇所が多くて目が忙しかったのが正直なところ。再演となる今回は、2日間にわたるゲネプロ(平原×井上、望海×甲斐)と初日前会見を取材し、落ち着いてこの作品を味わうことができました。
―望海風斗のサティーン
衣装が抜群に似合っていて、妖艶な雰囲気、身のこなしがサティーンにピッタリです。元宝塚歌劇団雪組トップスターとしての男役を離れてから、最も女性を前面に出した役だと思います。初演時は、観劇を楽しみにされていた望海さんのお父様が、露出の多い衣装をまとった愛娘を直視できず2階席を希望したと明かしていました。その後、大分慣れて1階席で観ることができるようになったそうです。あまりの大胆さに、ファンの心のケアまで心配していた望海さん。常に優しさが溢れ、慈愛に満ちた表情でクリスチャン(甲斐翔真)を包み込む姿が美しいです。
―平原綾香のサティーン
今年、ミュージカルデビューをしてから10周年となる平原さんは、グラマラスでセクシー。登場の瞬間から、卓越した歌唱力で場を圧倒します。美しいビブラートが空気を震わせ、あふれ出るパワーが歌の世界観を作り上げ、神髄に迫ろうとする熱さが客席に伝播します。実際にはクリスチャン役の井上芳雄さんより年下ですが、包容力を感じさせるサティーンです。
―甲斐翔真のクリスチャン
若くてまだ経験は少ないものの、才能と熱い気持ちがあるクリスチャン役は、甲斐さんによく似合います。まさに等身大で演じられていて、かわいい仕草・表情で甘えるのは非常に上手。悲劇でありながらどこかハッピー、明るい雰囲気になるのは甲斐さんの持ち味でしょうか。ムーラン・ルージュの雰囲気に負けないように…と筋トレで大きくした体はたくましく、望海さんとは親子役が続いていますが、今作ではしっかり恋人役として熱い演技を見せてくれています。
―井上芳雄のクリスチャン
クリスチャン役は(自称)世界最年長だそうですが、そこは感じさせず、序盤は『エリザベート』のルドルフ役までさかのぼれそうな勢いです。終盤はこれまでの経験があってこその迫力で、『EL TANGO ROXANNE 』で「♪我慢できな~い」と全身を使って歌う姿は、闇に引きずり込まれそう。恋愛を知らない若い青年から絶望していくまで、表情がどんどん変わっていきます。
他にも、クラブのオーナー・ジドラー役を橋本さとしさんと松村雄基さん、侯爵役を伊礼彼方さんとKさんなど、すべての役はアンサンブル・スウィングに至るまで、去年に引き続き全く同じメンバーが務めています。
サティーンを取り合うクリスチャンと侯爵のやり取りはヒリヒリして、“嫉妬”という感情をなかなか捨てることができない辛さが伝わります。
劇中に使用される音楽も多岐にわたり、名作『サウンド・オブ・ミュージック』をはじめ、マドンナ、ホイットニー・ヒューストンなど有名なナンバーが次々と歌われます。
ファットボーイ・スリムの『Because We Can』は、『M-1グランプリ』の登場曲として使われていることから、「カンカンカン!」と聴いて漫才を思い出す人もいるかもしれません。往年のヒット曲のマッシュアップ(複数の曲を組み合わせて新しい曲にすること)がこの作品の魅力の1つです。
ムーラン・ルージュのきらびやかさ、人生の哀歓が詰まった場所で個性ある力の持ち主たちが華やかに見せる世界。非日常な空間でショーを楽しみ物語を感じる。観劇の際は受け身ではなく、積極的に“ムーラン・ルージュにいる1人”として楽しむことで、あの世界観を味わうことができます。
■『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』
6月20日~8月7日 【東京】帝国劇場
9月14日~9月28日 【大阪】梅田芸術劇場メインホール
詳細は公式HPにて