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全米オープン14日目現地リポート:車いすテニスで国枝&上地が制覇!若き女王候補と絶対王者の良き関係性

内田暁フリーランスライター

上地結衣 63 63 A・V・Koot 女王のメンタリティ備え始めた、笑顔の絶えぬ20歳

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王者・国枝の敵は今や「勝って当然」というプレッシャーと、周囲から標的にされることでしょう。そして女子の上地も、その領域に近づきつつあるかもしれません。すでに昨日ダブルスで優勝した上地は、シングルス決勝でもオランダのファンクート相手に6-3、6-3で快勝。全仏に続き、グランドスラムのシングルスタイトルを手にしました。

この試合で上地は、どちらのセットでも先行しながら、相手に追い上げられました。それでも「最初のチェンジオーバーでベンチに戻ってくる時、最低2-1で戻れればと思っていた。それが出来ていたので、ブレークされても気持ちを切り替えられた」と、焦りは無かったと言います。メンタルを強く持ち、スライスを巧みに使いながらストローク戦を支配した上地が、終わってみれば強さを見せつけた盤石の勝利です。

今季は全仏でシングルス初タイトルを手にし、世界ランキングも1位に。すでに女王としてのメンタリティが備わりつつある20歳は、「来年からは追われる立場になるし、自分も、そのような気持ちになってくる。そこを乗り越えられるか」を勝負と見ています。

そのような上地にとり、身近な絶対王者の存在は、良きお手本であり刺激となっているのでしょう。国枝より一足先に優勝を決めた上地は、「いつも私が先に勝つと、国枝さんはそれより良いスコアで勝っちゃう」と言い、「今日はどうだか、楽しみです」といたずらっぽく笑いました。

国枝慎吾 76(0) 64 G・Fernandez プレッシャー跳ね除け接戦制す

その上地が勝った直後に、同じコートで決勝を戦う国枝。「前の試合で勝たれると、けっこうプレッシャーが掛かるんですよ」と、試合後には苦笑いしました。

実際に試合でも今回ばかりは、国枝の方が苦しみます。決勝の相手のフェルナンデスとは全豪決勝でも対戦し、その時は国枝が快勝。ですが今回は「相手も経験を積んでいるし、メンタルがすごく強くなっていた」と国枝は言います。第1セットでは先行するも追い上げられ、第2セットは5-3のゲームでのマッチポイントを生かすことができませんでした。それでも7本目のマッチポイントで決着をつけ、全米5度目の優勝です。

「僕の方が、今回は危なかったですね」。

試合後に、上地の「国枝さんは、私より良いスコアで勝つ」発言を伝えると、国枝はそう言って笑いました。自分との戦いが大きくなっている王者にとっても、若き女王候補・上地の存在は、大きな刺激になっているようです。

※テニス専門誌『スマッシュ』facebookより転載。なお錦織選手対チリッチ戦の決勝の様子は、13日発売の緊急増刊に掲載いたします。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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